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2021年6月13日 (日)

広島の名物・郷土料理5 -海田さつま・海田さつま飯-

 今回は私の出身地,広島県安芸郡海田町の郷土料理「海田さつま」を御紹介します。


「海田さつま」とは

 「海田さつま」は,炒ったゴマと焼いた魚をすり鉢ですりつぶし,味噌と魚の骨からとった出汁でのばした料理です。

 いわゆる「ご飯のお供」で,ご飯と一緒にいただくのが伝統的な食べ方です。

 江戸時代から現代に伝わる海田町の郷土料理で,その味は今も海田町の一部で受け継がれています。


広島の地で「さつま」と呼ばれる理由

 広島の地で鹿児島の「薩摩」を連想させる「さつま」という料理名がつけられているのはなぜか,少しまとめてみます。

 海田町のウェブサイトには,「海田さつま」のほかに同町の郷土料理「さつま汁」が紹介されており,その料理は①参勤交代で宿場町・海田を訪れた薩摩藩士が自炊したものが発祥だから,と紹介されています。

 「さつま汁」と言えば愛媛の郷土料理も有名ですが,一般的には,②薩摩藩から伝わったから,③汁がよくしみ込むよう,ご飯に十の字(薩摩藩・島津家の家紋)を書いたから,④味噌を擦る際に,夫が妻を助けたことで「佐妻」と呼ばれるようになったから,という説があります。

 そして全国的によく知られた「さつま」食品は,魚肉のすり身に味付けをし,形を整えて油で揚げた「さつま揚げ」でしょう。

 この場合の「さつま」は,⑤魚肉のすり身を油で揚げた薩摩発祥の食べ物だから,そう呼ばれています。

 こうした様々な話を踏まえ,私は,⑥江戸時代あたりから「魚のすり身を使った料理=薩摩の料理」という漠然としたイメージが広まり,地元で入手した魚のすり身を使った料理全般を「さつま」という名前で呼んでいたから,ではないかと考えます。

 このほかにも,地名と地元料理が一致していない例としては,大分の郷土料理「りゅうきゅう」(魚の刺身を,醤油・酒・みりん・ゴマ・生姜のタレで和えた料理)や,新潟の御当地グルメ「イタリアン」(ミートソースがけソース焼きそば)などがあります。


広島県立海田高等学校とますやみそが共同開発した「海田さつま」

 広島市内のスーパーマーケットで「海田さつま」が販売されていました。

(「海田さつま」ポップ(オリジナルデザイン))
Photo_20210613114001

 広島県立海田高等学校家政科の生徒が郷土料理「さつま」の食文化を伝承し,広めたいとの想いで,広島の味噌メーカー「ますやみそ」と共同開発した商品です。

 海田の郷土料理「さつま」を研究している「海田さつまの会」の監修や,広島安芸商工会の支援もあり,商品開発・商品化が実現しました。

(「海田さつま」ポップ(商品紹介))
Photo_20210613114101

 ポップでは,「海田さつま(海田さつまの素)」について,
 「本品は江戸時代から海田町で食べられていた郷土料理です」
 「参勤交代で西国街道へ立ち寄った際に提供されていました」
 「鯛などの白身魚と味噌・ゴマ・こんにゃく・ネギを和えてご飯に乗せた昔なつかしい味です」
 と紹介されています。

(「海田さつま」販売の様子)
Photo_20210613114201

 かわいい小袋のパッケージで,気軽に「海田さつま」を味わうことが出来ます。


「海田さつま」と「海田さつま飯」

 こちらが新商品の「海田さつま」です。

(「海田さつま」(包装))
Photo_20210613114401

 包装を開封し,「海田さつま」を取り出してみました。

(海田さつま)
Photo_20210613114501

 これが「海田さつま(海田さつまの素)」です。

 まずはこれだけでいただきました。

 すりゴマの香りとコクを感じ,そのあとゆっくりと焼いた魚(鯛)のすり身のうま味や,調味料である味噌・醤油・お酒などの風味を感じました。

 魚(鯛)は,ちらし寿司や巻き寿司の具に用いられる「でんぶ(田麩)」のように,きめ細かなすり身にされています。

 香ばしい黒ゴマと鯛のふりかけを,麦味噌・醤油・お酒で味を調えたようなイメージで,あまり塩辛くないので,これだけでも美味しくいただけます。

 次に,パッケージの裏に書かれていた「お召し上がり方(調理例)」のとおり,こんにゃくとねぎを加え,ご飯にのせていただくこととしました。

 こんにゃくは細切りにしてお湯で少し茹でました。

 「海田さつま」に軽く茹でたこんにゃくとねぎを混ぜ合わせた様子が次の写真です。

(「海田さつま」の調理)
Photo_20210613135201

 黒ゴマとこんにゃくなので,同じような色の組合せとなりました。

 出来上がったものをご飯にのせ,ねぎを少しのせて完成です。

(海田さつま飯)
Photo_20210613115002

 出身地である海田のことはよく知っているつもりでしたが,この「海田さつま飯」は初めてです。

 いただいてみました。

 ゴマ,焼き魚,麦味噌の香ばしさやコクが食欲をそそり,ご飯がすすみました。

 やはり「ご飯のお供」としていただくのがベストだと思います。

 茹でたこんにゃくを入れたことで,温かく,より食べやすくなりました。
 考えてみれば,こんにゃく田楽と同じような組合せなので,相性は抜群です。

 ねぎと味噌の相性の良さも言うまでもありません。

 ご飯のお供やおにぎりの具にぴったりの郷土料理です。


まとめ

 昔は,今のようにおかず中心の食事ではなく,白米や雑穀中心の食事たったので,こうした「さつま飯」を食べる機会も多かったことでしょう。

 今後も「海田さつま」を伝承し,広めていくためには,現代の食のトレンド(洋食化,おかず中心の食事へのシフト,健康志向の高まり,中食の普及,調理の省略化など)も考慮する必要があると思います。

 海田高校の生徒が考えた「海田さつま」のアレンジレシピも,こうした食のトレンドを踏まえて考案されたものでしょう。

 例えば,トマトソースで,魚介類と「海田さつま」をのせたピザなども美味しそうです。
(「海田さつまナポリピザ」といった料理名にすると,いつの時代のどこの料理なのかわからなくなりそうですが…(笑))

 先人の郷土料理の知恵・アイデアをもとに,その時代の食のトレンドも踏まえて郷土の味を楽しむという柔軟性があってもよいと思います。

 そもそも江戸時代に食べられていた「さつま(飯)」も,その時代に合った料理として広まったのでしょうから。


<関連サイト>
 「広島県立海田高等学校」(広島県安芸郡海田町つくも町1-60)
 「海田町郷土料理 さつま」(海田町)
 「海田さつま」(広島安芸商工会)
 「大分県 りゅうきゅう」(農林水産省「うちの郷土料理 次世代に伝えたい大切な味」)
 「新潟民の熱狂的な支持を受けるご当地B級グルメ『イタリアン』ってなんだ?」(「ぐるなび」グルメレポ)

<関連記事>
 「広島の名物・郷土料理3 -海田町のひまわり菓子-

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コメント

タイのすり身に味噌とゴマ^o^
美味しそうでご飯がススムくんですね^^
ふと思ったのですが、薩摩に同じような料理はあるのでしょか?
さつま揚げのように油で揚げたらどんな感じでしょうかね(^^)
話は変わりますが、大阪でおでんのことを関東炊きというそうですが、関東では決してそのような言い方は致しません!
関東炊きとおでんはちゃう!
という人もいるようですが^_^

色は地味ですが(笑)、美味しそうですね。
おにぎりで食べてみたいです。コンビニのおにぎりで出たら即買いです。

なーまん 様

なーまんさん,こんにちは!
いつもコメントいただき,ありがとうございます。

そうです。ご飯がススム君です(笑)
地名を冠した料理名が,地元ではそう呼ばれていない例は国内外を問わず,たくさんありますよね。
鹿児島では,「さつま揚げ」とか「つけ揚げ」と呼ばれるみたいですが,どちらの呼び方がメジャーなのか,いつか鹿児島へ行って調べてみたいです。

海田さつまを油で揚げたら,「海田さつまさつま揚げ」になりますね(笑)
私も冗談で「海田さつまじゃがいも炒め」の代わりに,さつまいもを使って「海田さつまさつまいも炒め」を作ってみようかと一瞬思いました(^^ゞ

大阪で関東炊きと呼ばれるのは,関東大震災で関東から避難してきた料理人が伝えた料理だからとする説がありますが,確かに関東では言わないでしょうね(^-^)
おでんの具など,若干ちゃうのかも知れませんね。

他の地域の人が,便宜的にその地域の名称を冠した料理名にすることは,古今東西よくあることなのでしょう。

あっ,広島にお越しになった際は,広島のお好み焼のことを,「広島風お好み焼」とか「広島焼き」と言わない方がいいですよ。
地元では言いませんので(笑)

chibiaya 様

chibiayaさん,こんにちは。
いつもコメントいただき,ありがとうございます(^-^)

そうなんです。SNSなどで映えるかどうかが重視される世の中にあって,見た目は少し地味ですよね(笑)
だけど,温かいご飯によく合い,美味しさでは負けません(^^)v

私もchibiayaさんと全く同じ考えで,「海田さつま」をおにぎりの具にしたり,焼きおにぎりにしてコンビニなどで販売したら売れるのではないかと思っています。
そのことについて,「まとめ」の記事で少し触れることも実は考えていました。
「海田さつまの商品開発から,もう一歩進めて,海田さつまを使ったおにぎりや炊き込みご飯などを店舗で販売したらいかがでしょうか」といった感じで。
それが現代の食のトレンドであり,ニーズであると思うからです。
ただ,それは少し求めすぎかなと思い,あえて言及しなかったのですが,同じ考えを持つ人がおられることがわかり,そういう方法での郷土料理の紹介・普及もあるなと改めて思いました。
貴重な御意見,ありがとうございました<(_ _)>

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