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2021年9月 5日 (日)

岩手県釜石市 初夏のドンコ -ドンコの刺身・ドンコのみそ焼き・ドンコの肝煮・ドンコ汁-

「鉄と魚とラグビーの街」釜石

 岩手県釜石市は,「日本製鉄株式会社(東日本製鉄所釜石)」,リアス式海岸による天然の良港「釜石港」,そしてラグビーチーム「釜石シーウェイブス(前身:新日鐵釜石ラグビー部)」を擁する「鉄と魚とラグビーの街」です。

 今回はそんな釜石の「魚」の1つ「ドンコ」を御紹介したいと思います。


ドンコについて

 「ドンコ(鈍子)」は,東北以北に生息する深海魚で,タラの仲間です。

 正式名称は「エゾイソアイナメ」です。

 確かに見た目は大きなアイナメに似ています。

 紫色の鱗(ウロコ)と,肝が大きいことが特徴の白身魚です。

 三陸の冬の味覚として有名ですが,実は通年で漁獲でき,初夏の方が脂がのって肝も大きいようです。

 私は子供の頃よく釣りに行き,その際に釣れたハゼのような魚をドンコと呼んでいました。

 西日本でドンコと言えば,このハゼのような魚をイメージされる方も多いと思います。

 「ドンコ」は,北日本と西日本では異なる魚の呼び名となっています。


ドンコ漁について

 釜石市の漁師・佐々木洋裕(ひろやす)さんのドンコ漁を御紹介します。

 佐々木さんは,陸から5~6km沖で漁を行われています。

 漁法は「カゴ漁」で,100個前後のカゴが付いた長いロープを水深120~180mの海底に約2kmに渡って仕掛け,カゴに入った魚介を獲るというものです。

 カゴには,エサとしてサバやサンマを投入します。

 このカゴを1日に600~700個(6~7セット)水揚げされています。

 ドンコのほかに,タコ,毛ガニ,ツブ貝,カレイなどが水揚げされます。

 ウェブで実際に水揚げされた魚介を見せていただいたのですが,ほかにもメガラ(沖メバル),キツネメバル,ニジイロカジカ,オコゼ,ナメタガレイ,タラ,アイナメ,バイ貝など様々な種類の魚介が並べられていました。

 ちなみに,獲れて嬉しい魚介は,大きなタコや毛ガニだそうで,これまでに20~30kgもある巨大ダコを獲られたこともあるそうです。

 夜中から明け方にかけて出航し,漁を終えての帰港は昼前後と,長時間労働になるようです。


ドンコをお取り寄せ

 今回,漁師・佐々木洋裕さんが岩手県釜石市沖で獲られたドンコをお取り寄せしました。

 漁獲後すぐに氷詰めされたドンコが,岩手から広島まで,遠い道のりをクール便で送られてきました。

 発泡スチロールの箱を開けると,大きなドンコが2尾詰められていました。

(ドンコ(箱詰め))
Photo_20210905074701

 ふたを開けた瞬間,潮の香りがパーッと部屋中に広がりました。

 氷は溶けていましたが,冷たくて新鮮な状態で届きました。

 佐々木洋裕さんのお話では,ドンコの鮮度を保つため,水揚げ後に神経締めをし,エラを外したものをお送りいただいたそうです。


ドンコの見た目

 ドンコを箱から取り出してみました。

(ドンコ)
Photo_20210905075001

 ずっしりと重く,大きなドンコが入っていました。

 体長を測ってみました。

(ドンコ(体長))
Photo_20210905075101

 体長は40cm近くありました。

 ところで,ドンコの口から白く丸いものが飛び出ているのが気になりませんか。

 魚にお詳しい方や釣り好きの方は御存知だと思いますが,これは深海魚が海上に引き上げられた際に,水圧が急激に低くなる関係で口から胃袋が飛び出したものです。

(ドンコ(胃袋))
Photo_20210905075401

 正面から眺めると,とてもかわいい顔をしています。

 それだけに,口から胃袋が飛び出た様子は,ちょっと痛々しいです。


ドンコをさばく

 それではドンコをさばいてみます。

 まずは出刃包丁でウロコを除きました。

(ドンコ(出刃包丁でウロコを除いた様子))
Photo_20210905075501

 ウロコを除くと,全身が白っぽくなりました。

 ちなみにこのウロコ,三陸では「こけら」と呼ばれているそうです。

 次にお腹を割いてみました。

(ドンコ(腹を開いた様子))
Photo_20210905075801

 ドンコのお腹の中の様子です。

 内臓がたっぷり入っています。

 ここでいったん,口から飛び出ている胃袋を口の中に押し込み,元に戻しました。

(ドンコ(口から飛び出た胃袋を戻した様子))
Photo_20210905080101

 ドンコの顔,特に目がかわいいなと思いつつ,調理という名の解剖は続きます(笑)

 これまでの写真でもおわかりのように,ドンコのお腹には大きな肝(キモ)があります。

(ドンコの肝)
Photo_20210905080201

 この写真を御覧になって「キモい!」と思われた方,正解です。

 これがドンコの肝です。

 このほかにも,ドンコのお腹には内臓がたっぷり入っていました。

(ドンコ(胆のう(苦玉)・腸・肝))
Photo_20210905080401

 こちらはドンコの胆のう(苦玉),腸,肝などです。

 写真中央にある深緑色の胆のう(苦玉)は食べられないので,慎重に取り除きます。

(ドンコ(胃袋・肝))
Photo_20210905081101

 ドンコの胃袋(写真左下)と肝(写真右下)などを取り出した様子です。

 体に比べて肝の割合が大きく,アンコウの肝やフォアグラのようだと思いました。

(ドンコの卵)
Photo_20210905081201

 透明感のある赤みを帯びた卵もありました。

 ひととおり内臓(ワタ)を取り出したところで,ドンコを三枚おろしにしました。

(ドンコ(三枚おろし))
Photo_20210905081401

 私の包丁捌きが未熟なため,骨にいっぱい身が残っています。

 冷水に浸かった状態で届いたドンコをすぐに捌いたのも原因です。

 ただ,身がとてもやわらかく,さばくのが難しい魚であることは確かです。

 私はアンコウをさばいた経験はありませんが,やわらかい身を吊るし切りするアンコウと似た特徴を持つ魚だと思います。

 肝が大きく珍重されるところも,アンコウとそっくりです。


ドンコの刺身

 三枚おろしにした身の部分(フィレ)の皮を包丁で除き,刺身にしてみました。

 身の水分が多いので,皮を除くのも苦労しました。

(ドンコの刺身)
Photo_20210905094701

 ドンコの刺身です。

 身が捌きにくいため,生のドンコは刺身だけでなく,ネギ・味噌・肝などを和えて包丁で叩いた「なめろう」にして食べられることも多いようです。

 見た目はいまいちですが,ふわっとしたやわらかさで,甘みがある美味しい白身でした。


ドンコのみそ焼き

 下処理をしたドンコの切り身(フィレ)のお腹の部分に「肝味噌」を詰めて焼いた「ドンコのみそ焼き」も作りました。

 お腹に詰めた「肝味噌」は,ボウルにドンコの肝・味噌・酒を加え,混ぜ合わせたものです。

(ドンコに肝味噌を詰めた様子)
Photo_20210905100901

 本来は,三枚おろしではなく,内臓を取り出した段階で,そのお腹の中に「肝味噌」を詰め直し,1尾丸ごと焼くのが正しい調理法です。

 こうして下拵えしたドンコを,オーブンレンジの「焼き魚メニュー」で焼きました。

(ドンコのみそ焼き(焼き上がり))
Photo_20210905101101

 肝味噌をしっかりとお腹に詰めて焼かないと,こうなります(笑)

 写真右下は,ドンコの卵を焼いたものです。

 お皿に盛り付け,いただきました。

(ドンコのみそ焼き)
Photo_20210905101102

 やわらかくて淡白な味のドンコの身に,濃厚でコクのある肝味噌がよく合いました。

 焼いた姿はホッケにも似ています。

 いずれにせよ,ドンコのみそ焼きを作る際は,ドンコのお腹の中に肝味噌をしっかり詰めて焼くことを肝に銘じておく必要があります。


ドンコの肝煮

 肝がたくさんあったので,シンプルな肝煮も作ってみました。

(ドンコの肝煮)
Photo_20210905101501

 ドンコの肝を,酒・みりん・醤油で煮詰めたものです。

 煮汁に肝の美味しい脂がプワーッと出てきました。

 アンコウやカワハギの肝と同様,ドンコは肝も美味しい魚であることを改めて認識しました。


ドンコ汁

 下処理したドンコをぶつ切りにし,細かく刻んだ内臓と一緒に煮込んで,「ドンコ汁」を作りました。

 具材は,ドンコのほかに,大根・白ねぎ・豆腐を入れました。

 鍋に水と大根を入れて茹で,大根がやわらかくなったら,残りの食材と酒を加えてひと煮立ちさせ,最後に味噌で調味した料理です。

 全てを味わってみたいと,ドンコの頭・胃袋・腸なども入れ,土鍋で豪快に作りました。

(ドンコ汁)
Photo_20210905102201

 ドンコ汁というより,ドンコ鍋です。

 酒と味噌だけのシンプルな味付けですが,ドンコや野菜から美味しい出汁(だし)が出て,ドンコを丸ごと美味しくいただくことができました。

 ドンコはタラの身に近い食感,味わいでした。

 余ったドンコ汁は皿に移し,冷蔵庫に入れておいたのですが,翌日取り出してみると,ゼラチン質でゼリー状に固まっていました。

 やっぱりアンコウと似ています。


まとめ

 今回初めて釜石沖のドンコをいただきました。

 ドンコをさばき,調理し,味わった感想をまとめてみます。

 ①ドンコは,見た目はアイナメ,身はアンコウ,食感や味はタラ,脂ののり具合や小骨の多さはホッケと似ている。
 ②大きな肝が最大の特徴で,アンコウやカワハギ,スルメイカと似ている。
 ③冬だけでなく,脂がのって肝が大きくなる初夏のドンコもおすすめ。
 ④アンコウやタラと似ていることから,鍋料理や汁もの料理が中心となる。
 ⑤胆のう(苦玉)以外の内臓も調理して美味しく食べることができる。

 ドンコを捌き,調理するのは手間がかかりますが,それだけの価値がある美味しさです。

 東日本大震災・大津波にも負けず,むしろ前向きに生きておられる佐々木さんが印象的でした。

 最後に,ウェブで佐々木さんに「美味しいドンコをありがとうございました。いつか釜石へも行ってみたいです」とお話ししました。

 インターネット通販を利用すれば遠くの物でも簡単に入手でき,ウェブカメラを使って離れた人同士がリアルタイムで会話することも可能な時代となりましたが,こうしたつながりをきっかけに現地を訪問すれば,得るものも大きいように思います。

 新型コロナウイルスがまん延している現状では難しいものがありますが…。

 早くドンコでも行ける世の中になってほしいです。


<参考文献>
 「東北食べる通信」(2019年5月号「鈍子の人」)
 「港湾」(2021年5月号「震災からの復興と新たなビジョンを目指して」 公益社団法人日本港湾協会)

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コメント

昔「食いしん坊万歳」という番組をよく観ていましたが、今もやっているのですね(^ ^)
私は食べるのが専門ですが、コウジ菌様は魚もさばけるのですね!
三陸鉄道に乗った事もありますし、震災前に車で釜石に行った事もあります^^
ホヤは食べた事がありますが、ドンコはまだないです(⌒-⌒; )
ドンコの味噌焼き美味そうですね^o^
あんこう鍋は年に数回頂きますが、ドンコ鍋も試してみたいと思います(^^)v

なーまん 様

なーまんさん,こんにちは!
早速コメントいただき,ありがとうございます。

確かに「くいしん坊万歳」のテーマになりそうな記事ですね(笑)
「くいしん坊」と呼ばれるほどたくさん食べられないのがネックですが(^^;)

魚,自信を持って捌けるレベルではありませんが,捌くのは好きです。
魚のアラが好きなので,ぐじゃぐじゃになっても,食べ切る自信があります(^^ゞ

三陸鉄道に乗車されたり,釜石へ行かれた御経験があるのですね!
私は岩手県は,盛岡,一ノ関,平泉といった東北新幹線・東北本線沿いしか行ったことがないので,いつか行ってみたいです。
広島からだと,かなり気合いを入れて行く必要がありますが。

夏に生のホヤも食べてみたいです。

ドンコのみそ焼き,私の作ったもので美味しそうなんていってくださるとは,本当に嬉しいです。
塩や醤油をつけなくても,肝味噌だけで美味しくいただけました。

ドンコ,お取り寄せもできますので,機会があればお試しください!
肝もたくさんあるので,美味しい鍋ができると思います(^-^)

個人の漁師さんから魚のお取り寄せ!
そんなことできるんですねー。コロナ禍ならでは??
さばきながら写真を撮り、料理までされて…コウジ菌さん、すごいですね。

chibiaya 様

chibiayaさん,こんばんは!
いつもコメントいただき,ありがとうございます。

コロナ禍の影響で,ネット通販やウェブ会議が一気に身近なものになった気がします。
今回のお取り寄せは,震災復興支援の一環として参加させていただきました。
自由に旅行に行けないのはとてもつらいのですが,今回利用させていただいたオンラインミーティングツール(Zoom)を使ってリアルタイムでの映像提供・会話ができると,これはこれでワクワクして楽しいことがわかりました(^-^)

魚を少し捌いては写真を撮り,料理を作っては写真を撮り…を繰り返したので,結構時間がかかりました(^^ゞ
どんな魚なんだろうとか,どんな味になるんだろうとか,割と楽しんでやっているので,続くのでしょうね…。
これで捌くのが上手だったり,料理がきれいだったりすればすごいですが,そうでないところが私らしいです(笑)

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