岩手県陸前高田市の新生姜 -生姜とひね生姜の違い・新生姜の炊き込みごはん・生姜たっぷり豚肉生姜焼き・新 生姜焼き-
新生姜をお取り寄せしました。
生姜は寒さに弱いため,国内でも高知県や九州地方など比較的温暖な地域で栽培される傾向にあります。
今回は,生姜の魅力にとりつかれ,東北地方で生姜づくりや生姜のブランド化に挑戦されている岩手県陸前高田市・菊地康智さんの生姜を御紹介します。
併せて,私が実際に作ったいくつかの生姜料理や,オンラインで菊地康智さんから伺った生姜のお話も御紹介したいと思います。
岩手県陸前高田市の新生姜
陸前高田市は,岩手県の沿岸部で最南端に位置する市です。
東日本大震災で大きな被害を受けた地域の1つで,有名な「奇跡の一本松」があります。
その陸前高田市から,私の自宅がある広島市へ新生姜が届きました。
(新生姜(箱詰め))
箱を開けると,大きくて立派な新生姜が2つ,ビニール袋と新聞紙で梱包されていました。
(新生姜(包装))
袋には「なま 三陸 ジンジャー しょうが 100%」,「栽培期間中の農薬・化学肥料不使用」と記載されたラベルが貼られていました。
ラベルの生姜の形が,何となく岩手県の形に見えるのは私だけでしょうか。
新生姜を取り出してみました。
(新生姜)
真珠のような美しい肌をした新生姜です。
生姜は,「種生姜」(前年に収穫した生姜,「たねいも」のようなイメージ)から第1茎が発生し,その後左右に第2茎,第3茎…と,横へ横へと広がりながら増えていきます。
先端の赤い部分は「袴(はかま)」と呼ばれる部分で,赤色はアントシアニンという色素によるものです。
新生姜を酢に漬けるとピンク色になるのは,このアントシアニンの作用によるものです。
新生姜は「ひね生姜」(一般的に市販されている茶色い生姜)と比べて皮が薄いので,皮むきせず,そのまま使うことができます。
生姜について理解を深める
オンラインで菊地康智さんの農園を御紹介いただき,一緒に生姜のお話も伺うことが出来ました。
そのお話をいくつか御紹介したいと思います。
【新生姜の旬】
新生姜は初夏に出回るイメージがあるが,初夏に出回るのはハウスもの。露地ものは秋が旬。
【新生姜とひね生姜の違い】
スーパーマーケットなどで見かける茶色い生姜が「ひね(古根)生姜」。
ひね生姜は,新生姜を3か月以上貯蔵したもの。
乾燥から身を守り,長生きできるように表面の色が濃くなり,繊維質の多い生姜となる。
ひね生姜は畑に植えると「種生姜」となり,それから新生姜が生まれる。
新生姜は繊維質が少なくみずみずしいため,寿司の「ガリ(生姜酢漬け)」にも使われている。
【新生姜の収穫量】
種生姜を植えると,その8~9倍ぐらいの新生姜ができる。
【寒さに弱い生姜】
生姜は霜に当たるとすぐに傷むため,陸前高田市で栽培する場合,生姜の一大産地である高知よりも2か月遅く植えて,1か月早く収穫しなければならない。
冷蔵庫よりも常温保存が適している。
【生姜の保温効果を高める食べ方】
生姜の保温効果が高いのは,順に①乾燥させた生姜,②加熱した生姜,③生の生姜。
【Ginger(ジンジャー)の意味】
Ginger(ジンジャー)は,生姜という意味のほかに,元気や活発にするという意味もある。
【はじかみ】
焼き魚などに添えられる棒状の生姜「はじかみ」は「小生姜」に分類される。
江戸時代までは,生姜,ワサビ,ニンニクのすべてをひっくるめて「はじかみ」と呼ばれていた。
【生姜をこよなく愛した著名人】
中国の孔子は生姜をこよなく愛し,それが長寿の秘訣だったとも言われている。
【東日本大震災時の食事にも生姜】
東日本大震災後,冷たい避難所で過ごす人々の体を少しでも温めるため,食事に生姜が多用された。
【ジンジャーの神社】
石川県にジンジャーの神社がある。
「波自加彌神社(はじかみじんじゃ)」で,無病息災・料理上達の御利益がある。
ジンジャーの神社まであるとは,面白すぎるでしょうが!(笑)
山盛り新生姜の炊き込みごはん
生姜について学んだところで,次に陸前高田市・菊地康智さんの新生姜を使った料理を御紹介したいと思います。
まずは,生姜の炊き込みごはん「山盛り新生姜の炊き込みごはん」です。
せっかくなので,土鍋で作ってみました。
まずは,米(2合)を研ぎ,しばらく水に浸しておきました。
これは,米にだし汁をたっぷり吸わせるためです。
新生姜は,皮付きのまま針状に千切りにします。
調味料は,だし汁(だしパックを使用)に酒,みりん,醤油を合わせたものです。
(米・新生姜・調味料を土鍋に入れた様子)
土鍋に米,新生姜,調味料を入れた様子です。
鍋にふたをし,中火で沸騰させたあと,弱火で約13分炊き,火を止めて約20分蒸らすと出来上がりです。
鍋で炊く場合,どのタイミングまで加熱すればよいのか不安になりますが,「ゴーゴー」と米が対流する音から,徐々に「ポツポツ」と米が対流しなくなった音に変化し,ふたからの蒸気も徐々に勢いをなくし,次第におこげの香りもしてきますので,こうした音や香りの変化でタイミングを見極めるとよいでしょう。
鍋で炊いた方が炊飯器よりも早く炊き上がります。
(生姜ごはん炊き上がり(土鍋))
表面が生姜で覆われた炊き込みごはんが完成しました。
(山盛り新生姜の炊き込みごはん)
繊維が柔らかくてシャキシャキの新生姜は,炊き込みごはんの具にぴったりでした。
ひね生姜に比べて香りや刺激がやさしいので,たっぷりいただくことが出来ます。
おかずなしで何杯でもおかわりしたくなる炊き込みごはんでした。
生姜たっぷり豚肉生姜焼き
続いては生姜をたっぷり使った生姜焼きを御紹介します。
豚肉の生姜焼きは,生姜を皮付きのままですりおろし,たっぷり使えば使うほど美味しくなります。
このお話は,広島を中心に活躍されている食の研究家「シャオヘイ」さんから直接教えていただきました。
トンカツ・ステーキ用の厚切り豚肉を使うのも,この料理の特徴です。
調理法は次のとおりです。
豚ロース肉(トンカツ・ステーキ用)は常温に戻し,表面に小麦粉をまぶしておきます。
生姜はおろし器で皮ごとすりおろしておきます。
生姜焼きのたれは,酒・みりん・醤油を同量ずつ(同じ比率で)合わせたものです。
(豚ロース肉・すりおろし生姜・生姜焼きのたれ)
このような感じで用意したら,まずは油をひいて熱したフライパンに豚ロース肉を敷き,中火である程度焼きます。
(後で再加熱するので,この段階で完全に焼く必要はありません。)
豚肉がある程度焼き上がったら,まな板にのせ,箸で食べられるように包丁で切り分けます。
(豚ロース肉(加熱・切り分け))
切り分けたら,再びフライパンに戻し,すりおろした生姜とたれを加えて中火で加熱します。
豚肉1つ1つにたれを絡めるように,時々豚肉をひっくり返しながら,徐々にたれの汁気を飛ばしていきます。
汁気がなくなっても,もう少し粘ってみてください。
するとメイラード反応(褐変反応)により,肉がつやのある褐色(アメ色)に変化し,香ばしさと旨味を生み出してくれるのです。
「汁気がなくなってから,あと20~30秒粘って焼く」これが私が生姜焼きを作る時の秘訣です。
(生姜たっぷり豚生姜焼き)
出来上がりました。
リンゴを甘く煮詰めたような,甘くてやわらかい生姜になっていました。
この生姜焼きは,通年販売されている生姜(ひね生姜)でも美味しくいただけますので,ぜひお試しください。
新・生姜焼き
最後に,新生姜の「新・生姜焼き」を御紹介します。
生姜焼き用の豚肉と生姜を使うところまでは定番の生姜焼きと一緒なのですが,「新・生姜焼き」は千切りにした新生姜を豚肉でクルクル巻いて焼くところが新しい発想の料理です。
生姜焼き用の豚肩ロース肉,新生姜,生姜焼きのたれを用意します。
新生姜はマッチ状に細長い千切りにしておきます。
生姜焼きのたれは,酒・みりん・醤油を同量ずつ(同じ比率で)合わせたものです。
豚肩ロース肉を広げ,その端に千切り生姜をのせます。
(豚肩ロース肉と千切り生姜)
次に,豚肉で千切り生姜をクルクル巻き,形が崩れないよう爪楊枝でとめます。
(千切り生姜の肉巻き(加熱前))
フライパンに油をひいて熱し,この千切り生姜の肉巻きを並べて加熱します。
(フライパンで加熱する様子)
時々ひっくり返しながら肉巻きを加熱し,ある程度焼けたら,フライパンに生姜焼きのたれを加えます。
あとは汁気がなくなり,肉に香ばしさと照りが出るまでこまめに肉巻きをひっくり返しながら焼けば完成です。
先に御紹介した生姜焼きと同様,最後にあと一息粘って焼き,メイラード反応を起こすのが美味しくなるコツです。
(新・生姜焼き)
こちらが「新・生姜焼き」です。
中心までじんわりと火が通り,新生姜もやわらかくなっていました。
甘辛い豚肉だけでなく,新生姜の香りとみずみずしさも味わえる生姜焼きに仕上がりました。
この「新・生姜焼き」は,香りや味がマイルドで,繊維質も少ない新生姜ならではの料理です。
美味しいので,新生姜を入手されたら,ぜひお試しください。
まとめ
新生姜はこれまでも野菜売場で見かけることはあったものの,扱いが難しそうなので,ひね生姜しか買ったことがありませんでした。
今回,新生姜をお取り寄せし,いろんな料理で味わってみることで,新生姜の美味しさに目覚めました。
オンラインで,私は菊地康智さんに次の質問をさせていただきました。
「東北の地にあって,生姜をそのまま出荷するだけでなく,生姜パウダーなど加工品販売にもチャレンジされているようですが,これからチャレンジしてみたいことはおありですか」
すると菊地さんから,
「生姜には保温効果があり,漢方で有効な成分も多く含まれているので,生姜を使った化粧品にもチャレンジしてみたいと思っております」
と,輝いた顔でお答えいただきました。
漢字で「女性が美しく生きる」と書いて「生姜」なのだそうです。
「なるほど!」
私は思わず両手でガッツポーズをし,ウェブカメラ越しに喜びをお伝えしました。
新生姜の出荷時期には,産直通販サイト「ポケットマルシェ」で菊地康智さんの新生姜を購入することが出来ますので,興味を持たれた方はどうぞ。
<関連リンク>
「波自加彌神社」(石川県金沢市花園八幡町ハ165)
「ポケットマルシェ」(産直通販サイト)
<参考文献>
「東北食べる通信」(2020年10月号「生姜」・NPO法人 東北開墾)
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考えると、高知産以外の生姜って見たことないかもしれません。
寒さに弱いのは知りませんでした。
生姜、美味しいですよねー!生姜ごはん、食べたくなりました。
いつか岩下の新生姜ミュージアムに行ってみたいものです。
投稿: chibiaya | 2021年11月 7日 (日) 18時21分
chibiaya 様
chibiayaさん,こんばんは!
いつもコメントいただき,ありがとうございます(^-^)
そうですね。生姜は高知県が生産量日本一で,高知県産の生姜が多く出回っているように思います。
なのに高知で有名なカツオのタタキには,生姜よりもニンニクが好まれるのはなぜなんでしょうね…。
生姜は霜に弱いらしく,東北では限られた時期にしか栽培・収穫できませんが,体が温まって重宝される食材のようです。
生姜生産者の菊地康智さんは,ほかの人がしないことにチャレンジされる方で,試行錯誤の上,寒冷な東北地方で生姜を育てることに成功されました。
生姜ごはんに生姜焼き,今の季節はちょうど露地ものの新生姜が出回っていると思いますので,贅沢にたっぷりと生姜をお使いになると美味しいですよ(^-^)
岩下の新生姜ミュージアム,栃木市に面白いミュージアムがあるのですね!!
オリジナルグッズもたくさんあり,「ジンジャー神社」まである(笑)
これはいつか行ってみたいです。素敵な情報,ありがとうございました。
栃木市と言えば,chibiayaさんがハイキングで行かれ,ちょうど同じタイミングで私も蔵の街巡りをしていた所ですね!
新生姜ミュージアムへ行かなかったことが悔やまれます(笑)
投稿: コウジ菌 | 2021年11月 7日 (日) 22時12分
陸前高田というと、昔千昌夫という歌手がいたな?
と、朧げに思い出しますが、岩下の新生姜が栃木市にあるとは知りませんでした(^。^)
かんぴょうだけじゃないのね^ ^勉強になります^^
私はよく紅茶に生姜と蜂蜜を入れて飲みます^ ^
豚の生姜焼きも豚カツと同じくらい好きです〜♫
生姜巻きもおつまみにしたいですね^ ^
いも焼酎にも合いそうです♪
投稿: なーまん | 2021年11月 7日 (日) 23時35分
なーまん 様
なーまんさん,こんばんは!
いつもコメントいただき,ありがとうございます。
へぇー,千昌夫さんは陸前高田市の御出身なのですね!
岩下の新生姜も,関東では有名なのですね。
栃木のかんぴょうはガイドブックで知るレベルです。
知らないことばかりで,お恥ずかしい限りです(^^;)
でも,こうして有益な情報をいただけたので,頑張って記事を書いて良かったと思います\(^o^)/
紅茶に生姜と蜂蜜を入れて飲むと,美味しくて,ポカポカと体も温まりそうでいいですね(^-^)
豚の生姜焼きは私もよく作るのですが,美味しいですよね。
生姜巻きは,私はお酒を飲まないので気付きませんでしたが,確かにおつまみにすると良さそうですね!
なーまんさんに,私が作った豚の生姜焼きや生姜巻きをおつまみとして召し上がっていただきたいです(^-^)
私は美味しく召し上がっていただければ,それでいい気分になりますので(笑)
投稿: コウジ菌 | 2021年11月 8日 (月) 20時03分