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2021年11月14日 (日)

スリランカ料理の特徴と主な料理2 -スリランカのヌードルカレー-

カレーの分類(北インド系と南インド系)

 カレーは大きくは北インド系と南インド系に分けることができます。

 北インド系は乳製品(バター(または上澄みの「ギー」),ヨーグルト,生クリームなど)や肉(羊・鶏など)が使われ,主食は小麦粉やそば粉などを使ったチャパティやナンが中心となります。

 日本のインド料理店では,「ターリー」と呼ばれる丸い大きな金属皿に盛り付けられたカレー・ナン・タンドリーチキンや,甘い「ラッシー」(ヨーグルト飲料)が出されるイメージが強いですが,これは北インド系の中高級料理店の飲食スタイルです。

 一方,南インド系は,南国の食物であるココナッツ(ココナッツミルク・ココナッツオイル)やタマリンドが使われ,沿岸部では魚も食材として使われます。

 主食は米や豆類が中心となります。

 ターリーやバナナの葉にカレー・スープ・おかずなどを盛り付けた「ミールス」は,南インドを代表する食事スタイルとなっています。


スリランカカレーの特徴

 スリランカカレーは南インド系のカレーに位置付けられます。

 スリランカカレーの特徴として,ココナッツミルクやココナッツオイルが使われること,ホールのスパイスを中心に使用されること,日本の鰹節に似た「モルディブフィッシュ」が使われるカレーがあること,が挙げられます。

 スパイスは各家庭・お店で御自慢の調合法があり,そのミックススパイスは「ツナパハ」と呼ばれています。

 米食中心なので,カレーにはバスマティライスや赤米のほか,「ストリングホッパー(インディーアッパー)」と呼ばれる米粉麺と一緒に食べられます。

 「ストリングホッパー」は,素麵やビーフンに似た米粉の麺で,米粉を練った生地を器具に詰め,シャワーの吹き出し口のようなたくさんの小さな穴から押し出し,蒸し器で蒸して作られる麺です。


ヌードルカリー

 ライスではなく米粉の麺と一緒に食べるカレーに興味を持ち,日本のスリランカカレーの一大拠点となっている福岡市へ行きました。

(博多駅)
Photo_20211114145501

 今回訪問したお店は,福岡市中央区にあるスリランカ料理店「ヌワラエリヤ」です。

 福岡市内には,スリランカカレーを提供されているお店が数多くあるのですが,今回御紹介する「ヌワラエリヤ」や系列店の「ツナパハ」はその代表的なお店の1つです。

(スリランカ料理店「ヌワラエリヤ」)
Photo_20211114145801

 国体道路沿い,警固交差点の近くにあるお店です。

 ランチタイムに訪問したので,「ランチ」(サラダ・カリー・デザート・紅茶のセット)でヌードルカリーを注文しました。

 最初にサラダが提供され,しばらくして待望のヌードルカリーが提供されました。

(ヌードルカリー)
Photo_20211114145901

 中心部に山盛りの米粉麵,周囲に3種のカレーがかけられたボリューム感あるカレーです。

 カレーは,写真手前右側が「大根のカレー」,左側が「レンズ豆のカレー」,奥が「チキンのカレー」の3種です。

 ココナッツミルクがベースとなっているので,サラリとしたスープ状のカレーとなっています。

 サラリとしている分,スパイスの香りや唐辛子の辛さもストレートに感じられました。

 ひととおりカレーを味わった後,ヌードルをカレーと一緒にいただきました。

 ヌードルは炒めたビーフンです。

 ケチャップが加えられることで,わずかに赤みがかり,ほのかな甘みも感じました。

 そのため,カレーだけを食べるよりも,ヌードルと一緒に食べる方が辛さがマイルドになり,より美味しくいただけました。

 福岡のスリランカカレーは,写真のような,中心部にヌードルやライスが盛られ,その周囲にカレーがかけられているスタイルが基本となっており,様々なお店でこのスタイルのカレーを味わうことが出来ます。

(ココナッツアイスと紅茶)
Photo_20211114150601

 食後のデザートとして,ココナッツアイスとスリランカの紅茶が提供されました。

 ココナッツアイスには,甘くて濃厚なマンゴーソースがかけられていました。

 こうした甘いデザートや紅茶は,カレーの辛さを中和し,整えてくれる効果があります。

 辛いカレーと甘いデザート・ドリンクはセットでいただいてこそ,それぞれの良さがわかるものだと実感しました。

 スリランカのやさしい香りがする紅茶をゆっくりといただきながら福岡の街を眺め,しばし食後の余韻を楽しみました。


ハウス食品 選ばれし人気店シリーズ「ツナパハ スリランカカリー」

 ハウス食品から「選ばれし人気店」シリーズとして,福岡「ツナパハ」のスリランカカリーがレトルトカレーで販売されています。

(ツナパハ・スリランカカリー(ハウス食品)パッケージ)
Photo_20211114150901

 広島市内のスーパーマーケットでたまたま見つけました。

 せっかくなので,この商品と一緒にビーフンも買い,自宅でヌードルカレーを作ってみました。

(ツナパハ・スリランカカリー(ハウス食品)で作ったヌードルカレー)
Photo_20211114151001

 ヌードルは乾麵のビーフンを茹で,油を敷いたフライパンで塩・こしょう,それに少量のケチャップを加えて炒めたものです。

 口に含んだ瞬間,福岡の「ヌワラエリヤ」でいただいたヌードルカリーの思い出がよみがえりました。

 辛さは「中辛」で,お店のカレーより若干マイルドな辛さに仕上げられています。

 今回御紹介したヌワラエリヤ・ツナパハのスリランカカリーがお手軽に味わえますので,御興味を持たれた方はお求めください。


スリランカのヌードルカレーの謎にせまる

 インドではあまりみられない,カレーと麵を組み合わせたスリランカのヌードルカレー。

 この料理がどういう流れで誕生したのか,その理由を知りたいと思いました。

 麵料理は,中国料理の影響を受けたものです。

 私がカンボジアを訪問した際にも,米粉麺の製造現場を見かけました。

 中国を起源とする麺料理は,華僑(華人)によって米を主食とする東アジア・東南アジア各国へ伝わり,その土地の食文化と融合して,韓国の「チャジャン麺」,タイの「カオソーイ」,シンガポールの「ラクサ」,ベトナムの「ブンチャー」・「フォー」などオリジナルの麵料理が次々と誕生しました。

 一方でカレーは,インドを中心に広まった料理です。

 南アジアに位置し,南インドの影響を強く受けているスリランカへ,インドを飛び越えて中国の麺食が伝わっていることが不思議です。

 スリランカのヌードルカレーは,近年,様々な食文化の交流がなされるようになった際に取り入れられた創作料理の1つではないかと一応の結論付けをしました。

 そんな中,2021年11月13日に「おいしいアジア料理の歴史を味わう 中国から日本,そして世界へ」というテーマのオンライントークイベントに参加させていただきました。

 「中国料理の世界史 美食のナショナリズムをこえて」という本をお書きになった慶応義塾大学教授の岩間一弘さんと,ジャーナリストで食文化研究者の森枝卓士さんから,食にまつわる様々な興味深いお話を伺うことが出来ました。

 中国料理の視点から世界史や世界の料理について研究されている岩間一弘さんと,世界の食文化,特に東南アジア料理やカレーにお詳しい森枝卓士さんがいらっしゃるとなれば,今回のスリランカのヌードルカレーの話も趣旨に沿っていると思いました。

 そこで私はお二人に質問させていただきました。

 (質問)
 「カレーと米の麺を一緒に食べるスリランカカレーも中国料理の影響を受けているでしょうか?」

 お二人とも米粉麵が使われるスリランカのカレーがあることは御存知で,突然の質問でも瞬時に質問の趣旨を理解されました。
 さすがです。

 お二人からは,「インドで麺食は常食とされていないため,スリランカ独自の料理ではないか」という御回答をいただきました。

 中国の麺文化と遠く離れたイタリアの麺(パスタ)文化がそれぞれ発展してきたのと同様に,根拠となる文献が乏しく,はっきりとした理由はわからないというのが現状のようです。

 50年前,100年前レベルの,料理としては意外と新しい料理もたくさんあり,ヌードルカレーもそうした料理の1つかも知れないとのお話でした。

 スリランカのカレーヌードル,意外と奥が深そうです。


 今回刊行された本を通じて中国料理の魅力を教えてくださった岩間一弘さんと,ジャーナリスト・食文化研究者そして写真家としても憧れを抱いている森枝卓士さんから直接お話を伺うことができ,とても有意義なひとときを過ごせました。

 岩間一弘さんの著作については,2021年11月13日付け朝日新聞朝刊の読書欄でも紹介されています。
  ※書評:藤原辰史さん(京都大学准教授・食農思想史)


 南インド料理のみならず,中国料理の影響を受けているスリランカのヌードルカレー。

 たった1つの料理でも,深く考えてみると,様々な食文化の物語が展開します。

 それが食文化を学ぶ大きな魅力だと言えるでしょう。


<関連サイト>
 「ヌワラエリヤ」(福岡市中央区赤坂1-1-5 鶴田けやきビル2F)
 「ハウス レトルトカレー 選ばれし人気店」(ハウス食品)

<関連記事>
 「スリランカ料理の特徴と主な料理1 -デビルチキン,デビル・悪魔風と名のつく料理の意味-
 「タイ料理の特徴と主な料理3 -カオソーイ-
 「シンガポール料理の特徴と主な料理 -チキンライス・バクテー・チリクラブ・マントゥ・フィッシュヘッドカリー・ラクサ-
 「ベトナム料理の特徴と主な料理 -バインセオ・ブンチャー・バインベオ・バインフラン・フォー-

<参考文献>
 岩間一弘「中国料理の世界史 -美食のナショナリズムをこえて」慶応義塾大学出版会
 「dancyu(スパイスとカレー 2021)」(2021年8月号)プレジデント社
 前田庸「ツナパハ ヌワラエリヤ スリランカカリーをつくろう」書肆侃侃房

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コメント

スリランカカレー食べてみたいな!
と思いましたが、福岡じゃ無理!
と思いましたが、さすがハウス食品(^.^)
今度買ってみようと思いますm(_ _)m
中国もそうですがインドも北は畑作畜産、南は稲作中心という事でしょうね^^
ちょうど今、日本も東国は無理して米を作らず、馬や牛を飼いながら麦や蕎麦を作っていた方が楽に暮らしていけたのでは?
などと考えておりました^^
最近グルテンフリーとか言って米粉パンを勧める人がいますが、どうなんでしょうね?

現地の人がやっているお店は市内のいたるところにありますが、スリランカは見たことないですねー。
(と思って念のため調べたら、隣の隣の市にスリランカ人がやっているお弁当屋があるようです…気になる)
カレーをビーフン(しかもケチャップ味)で食べる発想はなかったです。
ハウスのレトルト、見かけたら買ってみます。見つかるかなー?

なーまん 様

なーまんさん,こんばんは。
早速コメントくださり,ありがとうございます(^-^)

スリランカ料理店は,なーまんさんがお住まいの関東・首都圏の方が多いと思いますが,今回御紹介した麺やライスを中心にカレーをかけるスタイルのスリランカカレーは,福岡ならではと思います。
機会があればお試しください<(_ _)>

なーまんさんのおっしゃるとおり,インドや中国は気候の関係もあって,北と南で中心となる食物が異なり,畑作畜産中心と稲作中心に分かれますね。
日本の東北や北海道でも品種改良によって稲作が進められたのは,それだけ米(ご飯)に魅力があり,米の生産高がその土地の富を測るものさしとされてきたからではないでしょうか。
世界的に見ても,粉食から米食への移行した例は多々あっても,米食から粉食へ移行した例はほとんどないそうです。

グルテンフリー食品は,必要とされる方にはありがたい話ですが,小麦粉で作れるものを,わざわざ無理してまで米粉で作る必要まではないように思います。
日本に限れば,米の消費拡大という意味もあるでしょうね。
一方でアジア全体に目を向けると,中国で米粉の麺が生まれ,東南アジアを中心に広まったのは,米の節約・無駄をなくすことににつながるからという理由も大きいようです。

chibiaya 様

chibiiayaさん,こんばんは!
いつもコメントいただき,ありがとうございます\(^o^)/

ホントだ(笑)幸手市にスリランカ弁当のお店があるのですね。
4~6種類のカレーが盛られ,その中にはちゃんと話題のヌードルもあるようですね!
スリランカの人は,いろんなカレー・主食をワンプレートで食べるのがお好きなのかも知れませんね。

カレーをビーフンで食べるのは,福岡のスリランカカレーならではの食べ方のようで,お店によってはライスとビーフンの2種盛りもあります。
ビーフンをケチャップで色付け・味付けする調理法は,お店のカレーを紹介されている本で知りました。

ハウス食品の「選ばれし人気店」シリーズのレトルトカレー,私は広島市内のイオンで昨日見つけました。
おそらく全国のスーパーマーケットなどで販売されていると思います。
福岡の店舗で出されるスリランカカリーは,もう少し辛かったように思いますが,この辛さは青唐辛子を増量すれば出せると思います。
御自宅の青唐辛子,カレーに足されるのも良いかも知れません!(笑)

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