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2022年3月20日 (日)

神奈川の食文化探訪2 -小田原市 鯵の唐揚げ・ういろう(ういろうの歴史)・透頂香・湘南クッキー-

 神奈川県小田原市を訪問しました。

 小田原は,戦国時代に北条早雲の小田原城進出により城下町として発展し,その後は東海道の宿場町として栄えてきた街なので,多彩な食文化が形成されています。

 今回は,そんな小田原の食文化の一部を御紹介したいと思います。


鯵の唐揚げ

 小田原駅に隣接する大型商業・生活拠点施設「ミナカ小田原」を訪問しました。

 当ブログの読者で神奈川県にお住まいのなーまんさんから教えていただきました。

(ミナカ小田原・城下町広場)
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 昔の城下町のイメージが再現された「城下町広場」の様子です。

 飲食店・菓子店など地元のお店がたくさん並んでいるエリアです。

 小田原城へ続く道沿いにあり,観光スポットにもなっています。

(ミナカ小田原・金次郎広場)
Photo_20220320150401

 続いては,ミナカ小田原3階にある金次郎広場の様子です。

 背後の近代的なビルとは対照的に,歴史的な建物が並んでいます。

 この金次郎広場にある「小田原吉匠(きっしょう)」に寄ってみました。

(「小田原吉匠」店舗)
Photo_20220320150501

 小田原の「鯵の唐揚げ」を販売されているお店です。

(「小田原吉匠」鯵の唐揚げ販売の様子)
Photo_20220320150601

 しお,しょうゆ,カレー,ペペロンチーノ,マヨネーズなど,様々な味付けの鯵の唐揚げがお手頃な価格で販売されています。

 私は「あおさ」(限定販売)を注文しました。

(「小田原吉匠」鯵の唐揚げ・あおさ)
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 小鯵を頭や骨も含めて丸ごと唐揚げにしたもので,じっくりと揚げられているため,丸ごと美味しく食べることが出来ます。

 私は金次郎広場のテーブル席でいただきました。

 小鯵がカリッと揚げられており,サクサクした食感とあおさの風味を楽しみながら美味しくいただきました。

 鯵の唐揚げは全国にあると思いますが,それを軽食・おやつとして食べるのは小田原ならではの食文化です。

 大人だけでなく,子供たちも軽食・おやつとして鯵の唐揚げを美味しそうに食べている姿が印象的でした。


お菓子の「ういろう」と薬の「ういろう」(ういろうの歴史)

 ミナカ小田原から歩いて小田原城へ向かいました。

(小田原城)
Photo_20220320151501

 お堀端通りから眺めた小田原城です。

 そのまま南へと歩いていくと…。

(「ういろう」店舗)
Photo_20220320151601

 着きました。ここは小田原城天守閣…ではなく,「ういろう」の店舗です(笑)

 ここで小田原の「ういろう」の歴史を簡単に御紹介します。

 1351年,中国では朱元璋(しゅげんしょう)が中心となって「紅巾の乱(白蓮教徒の乱)」を起こし,1368年にモンゴルが支配した「元」にかわって「明」が建国されました。

 この変動を受けて日本へ亡命した中国の役人「陳延祐(ちんえんゆう・官職名:礼部員外郎)」は,その官職名から「外郎(ういろう)」と呼ばれ,外郎家として日本に中国の文化を伝える役割を担うこととなります。

 その後,陳延祐の息子「大年宗奇(たいねんそうき)」が,中国から日本へ「霊宝丹(れつほうたん)」という薬をもたらしたのですが,その薬効が高かったこともあり,後小松天皇から「透頂香(とうちんこう)」という名を賜ります。
 (外郎家の薬ということで「ういろう」とも呼ばれました。)

 その一方で,大年宗奇は朝廷での接待の場で提供するために,お菓子の「ういろう」も考案しました。

 このお菓子を外国使節などの客に提供したところ,「透頂香(薬のういろう)」の苦い味とは対照的に甘いお菓子だったことから,たちまち評判となりました。

 やがて外郎家は北条早雲の招きで小田原へ移り,この地でお菓子と薬の「ういろう」が代々製造され,現在に受け継がれているのです。

 つまり,お菓子の「ういろう」とともに薬の「ういろう」もあるというお話なのですが,薬の「ういろう(透頂香)」も万能薬として評判で,この薬に助けられた二代目市川團十郎は「外郎売」という歌舞伎作品を創作し,上演しました。

 小田原の「ういろう」店舗内には,お菓子の「ういろう」の販売コーナーだけでなく,「ういろう」にまつわる展示コーナーや,外郎博物館も併設されています。

(「ういろう」・歌舞伎十八番「外郎売」関係コレクション)
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 そして販売コーナーの隣には,薬の「ういろう(透頂香)」をはじめ,様々な医薬品が販売されている薬局のコーナーもあります。

(「ういろう」店内・薬局)
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 同じフロアなのに,雰囲気が全然異なります。

 小田原の「ういろう」についてひととおり学んだあと,私は,お菓子の「ういろう(黒砂糖)」と薬の「ういろう」を購入しました。

 ちなみに,小田原駅前にも「ういろう」の調剤薬局があります。

(ういろう駅前調剤薬局)
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 小田原では,お菓子の「ういろう」と薬の「ういろう」は同じ扱いなのですね。


お菓子の「ういろう」

 お店の方から「昔からある伝統的なういろうは黒砂糖です」と教えていただいたので,黒砂糖の「ういろう」を購入しました。

(ういろう(外箱・黒砂糖))
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 確かに外箱にも「お菓子のういろう」と「お菓子」であることを強調されています。

(ういろう(黒砂糖))
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 お菓子の「ういろう」は,米粉と砂糖で作られる蒸し菓子で,サトウキビを原料とする黒砂糖が使われたものがオリジナルです。

 米粉で蒸されているため,とても粘りがあって食べ応えがありました。

 適度な甘みと黒砂糖のコクが楽しめる美味しいお菓子です。


薬の「ういろう」(透頂香)

 「ういろう」店舗の薬局コーナーで,白衣を着た薬剤師さんのお話を伺った上で,薬の「ういろう」(透頂香)を購入しました。

(「透頂香 ういらう」外箱)
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 こちらは「透頂香 ういらう」と記載され,お菓子のういろうと区別されています。

(「透頂香 ういらう」効能・用法)
Photo_20220320155102

 箱の裏側には,効能・用法が書かれていました。

 腹痛,下痢,食中毒,頭痛,歯痛,のどの痛み,船・車・飛行機の酔い,疲労回復など様々な効能がある薬です。

 大人は1回に10~20粒,白湯か冷水でかまずにそのまま服用するとありました。

 箱の中身を取り出してみました。

(「透頂香 ういらう」中身)
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 薬と一緒に細かい字でびっしりと書かれた説明書が入っていました。

 ういろうを携帯するための「いんろう(印籠)」の紹介もありました。

(「透頂香 ういらう」)
Photo_20220320155901

 こちらが薬の「ういろう」の写真です。

 銀色をした丸い粒状の薬です。

 石膏(せっこう),丁香(クローブ),桂皮(シナモン),薄荷脳(ミント),麝香(ムスク)などから作られており,服用すると仁丹のような香りと清涼感があります。

 薬をかじると,中は真っ黒で,口の中いっぱいに苦味が広がりました。

 「透頂香・ういろう」は,もともと冠の中に入れて蒸れた髪の臭いを消す用途で使われていましたが,やがて頭痛薬や胃腸薬などの薬効が認められ,薬として使用されるようになりました。

 こうした経緯からもわかるように,この薬は口や胃腸,頭などに清涼感をもたらす効果があり,それに漢方の効果も加わって,体の様々な症状を改善するのだと思います。

 この薬をかじって口の中が苦くなった後に食べたお菓子のういろうは,格別に美味しく感じました(笑)


湘南クッキー

 「ういろう」店舗の近くの箱根口ガレージ(報徳広場)に,かつて小田原市内で活躍した路面電車「小田原市内線・モハ202号」が展示されていました。

(小田原市内線「モハ202号」)
Photo_20220320160501

 その後,国道1号の箱根口交差点から小田原城に向かって歩いていると,いろんな種類のクッキーが用意された自動販売機がありました。

(湘南クッキー販売店)
Photo_20220320160601

 店名は「湘南クッキー販売店」です。

 店の内外にクッキーの自動販売機が所狭しと設置され,寄らずにはおられない雰囲気でした。

 地元の人たちも「あっ,ここにある!」と買い求めておられました。

(湘南クッキー自動販売機)
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 1台の自動販売機に約20種類ものクッキーが用意されていました。

 「湘南満月サブレ」,「湘南ビーチのさくら貝」,「大磯の洗出」,「なの花の丘」,「あおさの磯」,「石だたみ」,「じゃこ瓦」,「浜辺deカフェオレ」など,湘南ならではのネーミングの焼き菓子が90円~280円程度の価格で販売されていました。

 私は「巻貝クッキー」を購入しました。

(巻貝クッキー)
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 巻貝のデザインがなされたクッキーです。

 湘南のちょっとしたお土産にもできるなと思いながら,美味しくいただきました。

 その後,報徳二宮神社に寄り,二宮金次郎像などを見学して小田原駅に戻りました。

(二宮金次郎像(報徳二宮神社))
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 戦前にこの二宮金次郎像と同じ像が約1千体製作されたものの,戦争中にすべて供出され,現在残っているのはこの1体だけなのだそうです。

 大きなリュックを背負い,ガイドブック片手に旅をする私も,旅先でこんな格好で歩いてますので,見かけたら声をかけてくださいね(笑)


まとめ

 今回御紹介した鯵の唐揚げ・ういろう・湘南クッキーのほかにも,かまぼこ・おでん・梅干し・海産物など小田原には様々な郷土食・食文化があります。

 「今度小田原へ行った時は何を食べようか」と考えるだけで,今からワクワクしています。


<関連サイト>
 「ミナカ小田原」(神奈川県小田原市栄町一丁目1-15)
 「小田原吉匠」(神奈川県小田原市栄町一丁目1-15 ミナカ小田原3階)
 「ういろう」(神奈川県小田原市本町1-13-17)
 「小田原路面電車協会」(神奈川県小田原市本町3-4-21)
 「湘南クッキー」(湘南クッキー)

<関連ブログ「なーまんのEye-Level」>
 「湘南です28 ういろうとインゲン豆で謎を解く?
 「湘南です51 小田原市民の北条愛!上杉武田は強盗団の親玉か?
 「湘南です56 小田原の名家といえば 北条家?ういろう家?曽我さんは?

<関連記事>
 「神奈川の食文化探訪1 -釜揚げしらす・コーンフレーククッキー・湘南チーズパイ・鵠沼魚醤-

<参考文献>
 宮崎正勝「知っておきたい「食」の日本史」角川ソフィア文庫

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コメント

わざわざ神奈川にいらして頂いたのに、お茶もお出しせず、大変失礼を致しましたm(_ _)m
昔、相模湾では鯵もしらすも捨てるほど獲れたそうです。
子供の頃地引網を手伝って、獲れたての鯵を塩焼きにして食べた記憶があります^^
私はバター醤油鯵の味を食べましたが、あおさ味とはさすが食通!
吉匠の唐揚げは元々東名高速の海老名SAで人気だった商品の様です。
おかしのういらうが販売されるようになったのは明治になってからで、江戸時代までは薬を買いに来たお客さんに、お茶と一緒にサービスでお出ししていたらしいですよ^o^
神奈川県で路面電車が走っていたのは横浜と川崎と小田原だけですね^_^
湘南クッキーの自販機は承知していましたが「西湘」の食文化という感じで、まだ未経験^^;
調べたら「東湘」にもある様なので、今度買ってみようと思います^^
お陰様で神奈川通になった様な気分です(^_^)

小田原のういろうは見た目はほぼ羊羹ですね。
私はちょっと苦手かなー(^^;)
薬の方のういろうは、仁丹とかアラザンに見えてしまい、薬に見えないのですが本当に薬なんですよね?
腹痛、下痢に効くと言われても、隣に正露丸があったら迷わず正露丸を選びそうです(笑)

なーまん様

なーまんさん,こんばんは。
いつもコメントいただき,ありがとうございます。

今回記事にした鯵の唐揚げとういろうは,なーまんさんから教えていただいたものです。
いつもコメントいただけるなーまんさんに,何らかのお礼がしたいという気持ちで小田原へ行き,取材しました。

鯵の唐揚げがファストフードで子供のおやつにもなってるなんて,小田原の方は粋ですね。
本当に食べ歩きされている姿を見て,少しカルチャーショックを受けました(^-^)
おっしゃるように,昔は鯵が捨てるほどたくさん獲れたから,軽食・おやつにもされたのでしょうね。
吉匠の唐揚げは,SA・PAのご当地グルメでもあるんですね。

ういろうの歴史の補足,ありがとうございます。
江戸時代までは薬を買いに来たお客さんにお茶と一緒にサービスでお出ししていたとは知らず,良い勉強になりました。

小田原の路面電車展示,「ういろう」のお店を出たところでたまたま見つけたのですが,なーまんさんの記事にちゃんと紹介されており,さすがだと思いました。

湘南クッキーもたまたま見つけたものです。
「これはスクープものでは?」と御紹介しましたが,さすがなーまんさん。御存知だったのですね。
おいし湘南クッキーがお手頃価格で並んでるなとお土産に買って帰りました。

これからも神奈川のこと,たくさん教えていただけたら幸いです。
そちらへ伺う楽しみがどんどん増えますので(^^♪

chibiaya 様

chibiayaさん,こんばんは!
いつもコメントいただき,ありがとうございます(^-^)

chibiayaさんは御存知と思いますが,広島の私が真っ先にイメージする「ういろう」は,お隣山口の一口サイズの「ういろう」なので,小田原や名古屋の「ういろう」はすごく大きく見え,私も羊羹のように見えました。
小田原や名古屋の「ういろう」は米粉が入っていて,その固さは羊羹とお餅の中間といった感じです。

薬のういろう,確かに見た目がアラザンにも似ていますね(笑)
外側は銀色のコーティングで,中はクローブなどにより黒色をしています。
香りは,仁丹,整髪料,目薬,衣服の防虫剤に近いと思いました。
薬剤師により販売されている「薬」です。
ピンポイントで症状を治すというよりは,全体的にじわっと効いてくる薬のような気がします。
今のところ,元気な状態でしか飲んだ経験がありませんが…(^^ゞ

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