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2022年7月

2022年7月31日 (日)

新潟の食文化探訪2 -佐渡岩もずく・南蛮海老・のどぐろ・のっぺ・笹川流れ藻塩・新潟すし三昧「極み」-

燕三条駅から弥彦線・越後線経由で新潟駅へ

 新潟県燕市・三条市で金属加工産業とそれに関連する食文化について学んだ後,燕三条駅から弥彦線の電車に乗って吉田駅へ向かい,同駅で越後線の電車に乗り換えて新潟駅へ向かいました。

(E129系・吉田駅・越後線)
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 弥彦線や越後線など新潟地区で幅広く活躍している「E129系」と呼ばれる電車です。

 新潟地区の黄金色の稲穂を表した「黄金イエロー」と佐渡島のトキを表した「朱鷺(とき)ピンク」のラインが大きな特徴となっています。

 吉田駅からしばらくの間は田園風景が広がっていましたが,次第に住宅やビルが増え,電車は新潟市の中心部に入りました。

 そして終点・新潟駅に到着しました。

(新潟駅ホーム・駅名標とE129系(越後線))
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 ホームにはE129系の車両が多く,なんとなく駅全体がかわいいイメージになっていました。


新潟市内(万代島)散策

 新潟駅からバスで中心街の古町(ふるまち)へ行き,このエリア一帯をしばらく散策した後,徒歩で万代島(ばんだいじま)へ向かいました。

(信濃川と万代島(朱鷺メッセ・万代島フェリーターミナル))
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 信濃川の向かいが「朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター」と「ホテル日航新潟」(写真右上),そして「万代島フェリーターミナル」(写真左上奥側)です。

 朱鷺メッセを経由して,その先の万代島フェリーターミナルまで歩きました。

 この万代島フェリーターミナルから佐渡島行きのフェリーに乗船することができます。

 ターミナル内に港湾の展示コーナーがありました。

(新潟県港湾資料室入口)
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(新潟県港湾資料室)
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 佐渡島行きフェリーの待ち時間を利用して,港湾について学ぶことができる施設でした。


「新潟はB級グルメ天国」

 さらに施設内を歩いていると,興味深いポスターを見つけました。

(ポスター「新潟はB級グルメ王国」)
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粟島:わっぱ煮
佐渡:佐渡ブリカツ丼
新潟:あっさり醤油ラーメン,濃厚味噌ラーメン,(鶏の)半身揚げ,新潟タレかつ丼,ポッポ焼き,イタリアン(みかづき)
燕三条:燕三条背脂ラーメン,カレーラーメン
弥彦:パンダ焼き(パンダの形をした饅頭)
長岡:長岡生姜醤油ラーメン,長岡洋風カツ丼,あぶらげ(ネギ付き),イタリアン(フレンド)
柏崎:サバサンド,柏崎鯛茶漬け
小千谷:小千谷へぎそば
十日町:十日町へぎそば
上越:頸城(くびき)の押し寿司,する天(塩スルメの天ぷら)
妙高:笹寿司
糸魚川:糸魚川ブラック焼きそば

 南北に長く,東西にも広がりのある新潟県だけに,各地に様々なご当地グルメがありますね。


サプライズ花火

 万代島から再び歩いて新潟市の繁華街へ向かっていると,背後から「ボン,ボーン」と花火の打ち上げ音が聞こえました。

 振り返ってみると,花火が打ち上げられていました。

(サプライズ花火(新潟市))
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 万代島から柳都(りゅうと)大橋を渡った先,秣川岸通(まぐさかわぎしどおり)交差点付近から眺めた花火です。
 (2022年6月12日夜)

 「♪花火はぁー越後のぉー 花火は越後のぉー♪」(小林幸子「雪椿」のフレーズで)

 紅白歌合戦で小林幸子さん(新潟市出身)のステージを迎えた時のように,驚きと感動に満ちた花火でした。


「越後の馳走」の郷土料理

 サプライズ花火ですっかり上機嫌の私は,続いて新潟市中央区東堀通の鮨・割烹店を訪問しました。

 事前に予約しておいたので,お店に入るとすぐにカウンター席を御案内いただきました。

 私は「越後の馳走」という郷土料理と寿司がセットになった会席料理を注文しました。

 お寿司屋さんのカウンターなので,少し緊張しながら,料理を待ちました。

(バイ貝煮・佐渡岩もずく酢・南蛮海老の佃煮)
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 先付けとして「バイ貝煮」(写真左側),「佐渡岩もずく酢」(写真中央),「南蛮海老の佃煮」(写真右側)をいただきました。

 だし風味をほんのりと感じるバイ貝の煮物,佐渡の天然岩もずくを使ったもずく酢,そして新潟の代表的な食材の1つ「南蛮海老」の佃煮を堪能しました。

 続いて「のどぐろの若狭焼き」が提供されました。

(のどぐろの若狭焼き)
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 のどぐろ(アカムツ)は,日本海側を中心に水揚げされる高級魚です。

 白身魚ですが,うなぎのようにとても脂がのっているのが特徴です。

 白身はふわふわでジューシーな仕上がり,そして皮はパリッと香ばしく焼き上げられていました。

 これは文句なしに美味しい一品でした。

 続いて,新潟の郷土料理「のっぺ」が提供されました。

(のっぺ)
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 「のっぺ」は,根菜やきのこ,鮭などが入った煮物です。

 里芋,蓮根,人参,タケノコ,椎茸,かまぼこ,ぎんなんなどの具に,上品なだし汁がしっかりとしみ込んでいました。

 美味しい料理も手伝って,次第に板前さんともお話しするようになり,心地よく過ごせるようになりました。

 続いて用意されたのが「南蛮海老の真丈揚げ」です。

(南蛮海老の真丈揚げ)
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 南蛮海老は,真っ赤な色と甘みの強さが特徴の甘エビです。

(南蛮海老の真丈揚げ(中身))
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 その南蛮海老を粗めにすり身にして油で揚げた料理です。

 天つゆのほかに,笹川流れの藻塩でいただきました。

(笹川流れ藻塩)
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 「笹川流れ」とは,新潟県村上市の海岸線に広がる岩礁や洞窟などの景勝地を言います。

 JR東日本のリゾート観光列車「海里」(羽越本線・新潟~酒田)に乗ると,この笹川流れの区間は徐行運転となり,車窓からもその景色を楽しめるようです。

 そんな笹川流れで作られた藻塩は,角の取れたまろやかな味わいで,南蛮海老の甘みをうまく引き立ててくれる一品でした。


新潟すし三昧「極み」

 新潟県内の寿司店舗が協力して提供されているお得なメニューがあります。

 「新潟すし三昧 極み」です。

 新潟の旬の地魚・トロ・イクラが付いた特上寿司10カンにお椀が付いて一律3,850円(税別3,500円)という大変お得な寿司セットです。

 今回私が味わった「越後の馳走」も,新潟の郷土料理と「極み」がセットになった会席でした。

 板前さんが「それでは寿司を御用意しますね」とおっしゃって,カウンターに受け皿と醤油が用意された時,いよいよクライマックスを迎えた気持ちになりました。

(醤油と南蛮えび醤油)
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 つけ醤油として,醤油(写真左側)と「南蛮えび醤油」(写真右側)の2種類が用意されました。

 「南蛮えび醤油」は,南蛮海老から作られた魚醤で,海老の風味豊かな醬油です。

 そして寿司の受け皿にも工夫がなされていました。

(安田瓦の皿と新潟県の刻印)
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 安田瓦は新潟県阿賀野市の伝統瓦で,美しい鉄色をしているのが特徴です。

 その安田瓦の素材で作られ,新潟県の形をした刻印が施されている受け皿でした。

 板前さんが1つ1つ丁寧に握ってくださったお寿司をいただきました。

 そのお寿司を御紹介します。

(スズキ)
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 河口や海に生息するスズキは,大きな川によって成り立った新潟ならではの魚です。

(マグロ)
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 マグロの赤身です。透き通るような赤色が印象的でした。

(バイ貝)
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 バイ貝の刺身の海苔巻きです。

 新鮮でコリコリした歯応えのバイ貝と,パリッとした板海苔の食感を楽しめました。

(南蛮海老)
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 新潟を代表する魚介,南蛮海老です。

 写真撮影用にと,飾りの尻尾もつけていただきました。

 身がとても甘くてねっとりしており,南蛮えび醬油との相性も抜群でした。

 この時,板前さんから「南蛮海老」の名前の由来を教えていただきました。

 南蛮海老の「南蛮」は赤い唐辛子の意味で,その南蛮と同じように濃い赤色をした海老なので,「南蛮海老」と呼ばれているのだそうです。

 ちなみに,唐辛子のことを北陸や東日本では「南蛮」と呼ぶ地域が多く,九州では「胡椒」と呼ぶ地域が多いのですが,皆さんの地域ではどう呼ばれているでしょうか。

(赤イカ)
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 こちらは赤イカです。

 イカに包丁で細かく切れ目が入っており,シソや梅のアクセントも光っています。

 たれが塗られていたので,そのままいただきました。

(マグロの中トロ)
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 マグロの中トロです。お寿司屋さんのカウンターで中トロがいただけるなんて最高です。

(甘鯛の昆布締め)
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 こちらは甘鯛の昆布締めです。

 ねっとりとした歯ごたえと熟成された旨味を味わえました。

(ヒラメ)
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 ヒラメです。繊細で上品な味を堪能しました。

(南蛮海老の味噌汁)
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 途中で南蛮海老の味噌汁が提供されました。

 海老の頭から出るだしが,みそ汁に海老の風味と深いコクを与えていました。

(アジ)
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 こちらはアジの握りです。

 新鮮なアジでないと刺身では食べられません。

 刻み生姜とネギがのせられており,たれも塗られていたので,そのままいただきました。

(のどぐろの炙り)
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 のどぐろの炙りです。

 一品料理で出された炙りと同じく,脂がしたたり落ちるのではないかと思うほど脂がのっていました。

 正直な話,中トロよりも深く印象に残りました。

 「のどぐろ」という名称は,口を開けた時に「のど」の奥が「黒い」ことに由来しているのですが,その名称が新潟から広まったことについては,板前さんからのお話で初めて知りました。

 私は広島県に近い島根県浜田市あたりで呼ばれている地方名かと思っていましたが,今では全国で呼ばれているようです。

(いくらの軍艦巻き)
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 いくらの軍艦巻きです。

 いくらの粒が大きく,1粒1粒からパーッと旨味が飛び出しました。

(だし巻き玉子)
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 締めはお店自慢のだし巻き玉子でした。青のりの風味がきいて,ほのかに甘い玉子焼きでした。

 新潟の新鮮な魚介類をお寿司でたくさん味わうことが出来ました。

(いちごのムースとさくらんぼ)
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 そして,新潟県内各地の食材・産品が集約された,まさに「御馳走」と呼ぶにふさわしい会席でした。


新潟でお寿司をいただいてわかったこと

 最初は,握って出されたお寿司を箸でいただいていたのですが,途中からじかに手に取っていただきました。

 手で握ってもらったお寿司を,箸でつまんでいただくことに抵抗を感じ始めたからです。

 実際に手でいただくことで,板前さんのお気持ちまでじかに受け取っているような気持ちになりました。

 あと,新潟のお寿司は,新鮮なネタはもちろん,シャリがとても美味しいことがわかりました。

 こちらのお店では,新潟県加茂市・加茂七谷(かもななたに)産のコシヒカリが使用されていましたが,シャリだけでも美味しいと思ったのは人生初で,さすが米どころ新潟だと思いました。

 板前さんに寿司を握ってもらっている途中で,「この調子だと量が多いかも知れない」と思い,カッコつけて「シャリ少なめでお願いします」とお願いしたことを後で後悔しました(笑)

 今回はコース料理の一環として,しかもカウンターでいただいたこともあって,お寿司を一貫ずつ御提供いただきましたが,「極み」を注文した際は,こんな感じで提供されるようです。

(新潟すし三昧「極み」(イメージ・広告))
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 新潟県すし商生活衛生同業組合の広告の一部を加工・引用

 高級なお寿司屋さんでも,定額でこれだけの内容なら,観光客でも安心して注文できますよね。

 本当に採算度外視では?と思うほど充実した新潟すし三昧「極み」。

 機会があれば,新潟すし三昧「極み」で,贅沢の「極み」・幸せの「極み」を体験してみてください。


<関連サイト>
 「のっぺ」(農林水産省「うちの郷土料理」新潟県)
 「地域ブランド 安田瓦」(安田瓦協同組合)
 「新潟県すし三昧 極み」(新潟県すし商生活衛生同業組合)
 「鮨・割烹 丸伊」(新潟市中央区東堀通8-1411)

<関連記事>
 「新潟の食文化探訪1 -なぜ燕・三条地域で金属産業が発達し,背脂ラーメンが誕生したのか-

<参考文献>
 まっぷる「新潟 佐渡 '23」(昭文社)
 野瀬泰申「食は「県民性」では語れない」角川新書

2022年7月24日 (日)

新潟の食文化探訪1 -なぜ燕・三条地域で金属産業が発達し,背脂ラーメンが誕生したのか-

 2022年6月中旬に,東京駅から上越新幹線に乗り,新潟県を訪問しました。

(東京駅21番ホーム・上越新幹線「とき」309号・新潟行)
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 燕三条(つばめさんじょう)駅で下車し,新潟県三条市・燕市の観光施設・飲食店などをめぐりました。

 今回は,三条市・燕市の観光施設や飲食店を御紹介し,併せて,この地域で金属産業が発達した理由や背脂ラーメンが誕生した理由についても探ってみたいと思います。


燕三条駅と特産品展示

 燕三条は金属産業の街として有名で,燕三条駅構内にも様々な金属製品が展示されています。

(燕市観光掲示板)
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 「ようこそ!磨き 輝き 集うまち 燕市へ」

 燕市のイメージキャラクターの「きららん」(写真右上)が出迎えてくれました。

(燕三条駅「ジャンボナイフ&フォーク」)
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 駅構内にジャンボナイフ・フォークが展示されています。

 ナイフは長さ4m・重量98kg,フォークは長さ3.8m・重量78kgで,通常のフォーク・スプーンの約1000本分に相当するステンレスが使用されています。

 燕(ツバメ)にかけて,ヤクルトスワローズのマスコットキャラクター「つば九郎」も応援隊長としてまちを盛り上げています。

(燕三条駅・特産品展示コーナー)
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 包丁やカトラリー(ナイフ・フォーク・スプーン)などの金属製品が博物館のようにずらりと展示されているコーナーがありました。

 「まさか,ないとは思うけど…」展示品を順に見て回っていると…

(燕三条駅・特産品展示コーナー(耳かき))
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 「あっ,あった!」

 何と金属製の耳かき(写真左上)まで展示されていました。

 さらに駅構内には,燕三条産品の展示・販売施設「燕三条駅観光物産センター・燕三条Wing」もあり,情報収集・お土産の購入にとても役立ちました。

(燕三条駅)
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道の駅 燕三条地場産センター

 燕三条駅から徒歩で「道の駅 燕三条地場産センター」へ行きました。

 館内に入ると,ジャイアント馬場さんの等身大パネルがありました。

(三条名誉市民・ジャイアント馬場・等身大パネル)
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 三条市御出身のジャイアント馬場さんの身長は209cm!

 ジャンボナイフ&フォークといいジャイアント馬場さんといい,何もかもジャンボサイズです(笑)

 館内にスプーン磨き体験の案内がありました。

(スプーン磨き体験案内)
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 このスプーン磨きを体験してみることとしました。

 申込みを済ませると,研磨前のスプーンを御用意していただきました。

 そのスプーンを持って体験コーナーへ行きました。

 最初に職員の方からスプーン研磨のしくみや方法について学びました。

(スプーン研磨前・研磨後の様子)
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 こちらは研磨前と研磨後のスプーンの様子です。

 バフ(羽布)と呼ばれる円盤状の研磨輪で,くすんだ表面のスプーンをピカピカに研磨します。

 今回はスプーンの背(凸側)の研磨を体験しました。

 エプロンと軍手をお借りし,着用しました。

 今回の研磨は2段階あり,最初に中仕上げ研磨,次に仕上げ研磨を行うとのことでした。

 中仕上げの研磨にはシロ(白砥石(粗目))が使われ,仕上げの研磨にはアオ(青砥石(極細))が使われます。

(バフ機械)
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 こちらがバフで作業する機械です。

 まずは職員の方に研磨のお手本を見せていただきました。

(バフ研磨の様子)
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 このように,回転するバフにスプーンの背をまんべんなく押し込む感じで研磨します。

 このあと私も挑戦しましたが,スプーンに体重をのせるような感じで,スプーンをかなり力で押さえながら研磨する必要があり,大変な作業であることが実感できました。

 ちなみに今回のスプーンは,普通に買っても300円ぐらいするもので,研磨体験用に商品のスプーンにあえて細かなキズをつけたものとのことでした。

 このあと,館内の事務所でレンタサイクルを申し込み,自転車をお借りして,燕市内を周遊することとしました。


燕のご当地グルメ「背脂ラーメン」

 レンタサイクルで燕のご当地グルメ「背脂ラーメン」が味わえるお店「杭州飯店」を訪問しました。

(杭州飯店とレンタサイクル)
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 「杭州飯店」は燕背脂ラーメンの元祖のお店です。

 燕三条から結構な距離があるからか,車で来店する客がメインで,私のように自転車で来店する客は数少ないようです。

 私の住む広島県の「尾道ラーメン」(尾道市)も背脂ラーメンなので親しみを持てます。

 どんなラーメンが味わえるのかワクワクしながら「中華そば」を注文しました。

(中華そば(杭州飯店))
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 醤油ベースのスープに極太麺,具はチャーシュー・メンマ・玉ねぎで,仕上げに豚の背脂がたっぷり加えられています。

(麺の様子(中華そば・杭州飯店))
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 麺はうどんのようにコシのある極太麺です。

 この極太麵が,煮干しだしの濃口醬油スープと背脂のコクをしっかりと受け止めてくれます。

 スープを飲んでみると,見た目ほどには味も濃くなく,背脂のしつこさも感じませんでした。

 背脂が細かく,粗みじん切りの生の玉ねぎが添えられているからだと思います。

 煮干しを使った醤油ベースのスープであることや,仕上げに背脂が加えられることなど,尾道ラーメンとの共通点が多いですが,麵の太さ・背脂の大きさと量・スープの濃さなど,尾道ラーメンとは違なる点もいくつかあります。

 サイドメニューとして,餃子や牛すじ煮込みを注文される方も多く見かけました。

 このラーメンなら,ライスとの相性も良いと思います。

 ボリューム満点でしたが,あっという間に美味しくいただきました。


燕市産業史料館とチタン製スプーン酸化発色体験

 続いて,自転車で燕市産業史料館を目指しました。

(燕市産業史料館とレンタサイクル)
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 館内には,カトラリーなど金属製品の展示室,鎚起(ついき)銅器の展示室,燕の金属産業の歴史と技術の紹介コーナー,企画展示室,矢立(やたて)煙管(キセル)館,体験工房館など数多くの施設・コーナーがあります。

(世界最大のスプーン&フォーク)
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 こちらはギネスブックに認定された世界最大のスプーン(全長204cm・重さ20kg)とフォーク(全長215cm・重さ16kg)です。

 訪問当日は学芸員による「第45回燕手仕事展」の作品解説会が開催されたので,その解説会にも参加させていただきました。
 (約2年半ぶりの記念すべきイベントだったようです。)

 その後体験工房館へ行き,「チタン製スプーン酸化発色体験」にチャレンジしました。

 これは,電解液を入れた水槽の中にチタン製スプーンを入れて電流を流すと,電気分解でスプーンの表面に酸化被膜による着色がなされる仕組みを体験するものです。

(酸化発色したスプーンのサンプル)
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 電解液に浸ける時間(電圧)を変えることにより,様々な色のスプーンを作ることができます。

(発色前のチタン製スプーンと直流電圧機器・電解液水槽)
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 電解液からスプーンを引き上げる時間を段階的にずらせば,色にグラデーションをもたせることもできます。

 私はこの方法でスプーンに着色してみました。

(純チタン製オリジナルカラースプーン)
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 こちらが完成したスプーンです。

 塗料を使わずに金属に着色できることに驚きました。

 御指導いただいた学芸員の方に,私が燕市内を巡った際に感じた疑問を伺ってみました。

 私:「燕市内の道路を自転車で走っていると,どこも路面が赤茶けた色になっていました。これはたくさんの金属を扱う燕ならではの光景なのでしょうか」

(燕市内の道路)
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 学芸員:「あれは道路の雪を溶かす地下水に鉄分が含まれているためです。金属産業が集まっているからではなく,雪国ならではの光景なのですよ」

 なるほど…燕・三条地域の特別な光景だと思っていたのですが,私が雪国の事情をよく知らなかっただけの話でした(笑)


燕・三条地域で金属産業が発達した理由

 ここで,なぜ燕・三条地域で金属産業が発達したのか,さらに,なぜ燕で背脂ラーメンが誕生したのか,簡単に触れておきたいと思います。

 まずは燕・三条地域で金属産業が発達した理由からです。

 燕・三条地域で金属産業が発達した理由はその地理的条件にあります。

 信濃川流域に位置する燕・三条地域は,信濃川の恩恵に授かる一方で,度重なる川の氾濫(水害)に悩まされてきました。

 苦労して農作物を作っても,信濃川の氾濫で一気に流されてしまうことも多かったのです。

 そんな環境に苦しんだ農民は,副業として「和釘」づくりなど金属加工業に取り組むようになりました。

(和釘)
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 リーフレット「燕市産業史料館」(燕市産業史料館)を一部引用

 それは,次の4つの地理的条件に恵まれたからです。

 (1)弥彦山からの材料(銅)供給,(2)下田郷からの燃料(木材・炭)補給,(3)仙台地方(鎚起銅器)や会津地方(矢立・煙管(キセル))からの職人・技術の伝来,(4)川を使った流通(北前船を利用した鉄の入手・出来上がった金属製品の運搬)

(燕で金属産業が発達した地理的条件)
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 リーフレット「燕市産業史料館」(燕市産業史料館)を一部引用

 こうして燕・三条地域では和釘・銅器・ヤスリ・矢立・煙管などの金属産業が盛んとなりますが,明治維新以降,西洋化の進展(洋釘の普及など)や度重なる不況により,再び苦境に追いやられることになります。

 こうした中,これまでの金属加工技術をもとにした金属洋食器の製造に活路を求めるようになりました。

 その後,高度な金属加工技術を持つ燕・三条地域の金属洋食器は,日本のみならず世界でも高い評価を得るようになり,一方で量産化が進められたこともあって,ステンレスなども含むありとあらゆる金属製品を生産するまちとして発展し,現在に至っています。


燕で背脂ラーメンが誕生した理由

 次に,燕で背脂ラーメンが誕生した理由ですが,実はこちらも金属産業と大きく関わりがあります。

 背脂ラーメンは,昭和30年代の高度成長期に,金属洋食器などの製造で忙しい職人のために考案されたラーメンです。

 極太麵は出前でも伸びにくくするため,醤油味の濃い醤油スープは汗をかいて働く職人たちの味覚と体調に合わせるため,背脂は時間が経ってもスープが冷めにくく,コクとボリュームを引き出すためと,まさに金属産業にかかわる職人のために誕生したラーメンなのです。

 さらに,会津地方との人やモノの交流により,会津の金属加工技術だけでなく,食文化も影響を受けたのではないかと私は考えます。

 会津・喜多方の代表的なラーメンは醤油ベースの平打ちちぢれ麺ですが,これは燕のラーメンと共通しています。

 地図で見ても会津と新潟はかなり近く,人々の交流に伴って,食文化においても少なからず影響を受けていることは間違いないでしょう。

 そのため,会津・喜多方ラーメンがお好きな方は,きっと燕の背脂ラーメンも気に入られると思います。
 (尾道ラーメンがお好きな方もきっと(笑))


まとめ

(燕市地図(今回の訪問地))
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 ※画像をクリックすると拡大します。

 レンタサイクルをフル活用して三条市・燕市の施設・飲食店をめぐりました。

(「スプーン磨き体験」のスプーンと「純チタン製オリジナルカラースプーン」)
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 世界に1つだけのオリジナルスプーンは,旅の良き思い出となりました。

(県央大橋から眺めた中ノ口川)
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 川の恵みも氾濫もすべて受入れ,発展してきたまち,燕市・三条市。

 約半日の滞在でしたが,金属産業の成り立ち・歴史から,ご当地グルメ・背脂ラーメンの誕生に至るまで,数多くのことが学べました。


<関連サイト>
 「燕三条駅観光物産センター・燕三条Wing」(新潟県三条市下須頃502-3・JR燕三条駅2F)
 「道の駅 燕三条地場産センター」(新潟県三条市須頃1-17)
 「燕市産業史料館」(新潟県燕市大曲4330-1)

<参考文献>
 新潟県燕市観光ガイド「つばめぐり」(燕市観光振興課・燕市観光協会)
 「燕と弥彦ぐるぐるMAP」(燕・弥彦広域観光連携会議)
 リーフレット「燕市産業史料館」(燕市産業史料館)

2022年7月21日 (木)

みそにこみの耳かき -愛知県名古屋市-

 代表的な名古屋めしの1つ「みそにこみ」の耳かきです。

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 名古屋の味噌煮込みうどんは,土鍋にうどん,具(ねぎ,かまぼこ,かしわ(鶏肉),油揚げなど),そして赤みそをベースにしただし汁を入れて,直火でぐつぐつ煮込んだ料理です。

 赤みそはほかの味噌とは違い,煮込んでも香りが飛ばないという特徴があります。

 土鍋にふたが付いていますが,これはうどんや具を煮込むために使われるものではありません。

 ふたをしてお客さんに温かいまま提供するため,そして,お客さんが味噌煮込みうどんを食べる際にこのふたをひっくり返して「お碗(受け皿)」として使うためです。

 そのため,普通の土鍋と違ってふたに蒸気を逃すための穴がありません。

 私の味噌煮込みうどんデビューは,学生時代に名古屋市内のコンビニで買って食べた「寿がきや」の「カップ味噌煮込みうどん」です。

 寿がきやの店舗でも味噌煮込みうどんが販売されているのではと思いましたが,店舗はラーメンや甘味が中心で,味噌煮込みうどんは販売されてないようですね。

 この記事を書いていると,味噌煮込みうどんが食べたくなってきました。

2022年7月17日 (日)

新幹線車内で駅弁とレモンケーキを味わう -上越新幹線・JR貨物コンテナ弁当・湘南ハニーレモン・ホットサンドスペシャル-

 2022年6月中旬に神奈川県と新潟県を訪問しました。

 神奈川県藤沢市湘南台で1泊し,翌朝,東京駅から上越新幹線を利用して新潟県へ向かいました。

 今回は,新潟県へ向かう上越新幹線車内で味わった駅弁とお菓子などを御紹介したいと思います。


グランスタ東京「駅弁屋 祭」と上越新幹線

 朝,東京駅に着いた私は,新幹線車内で食べる駅弁を買うことにしました。

 東京駅構内の商業施設「グランスタ東京」に「駅弁屋 祭」という大型駅弁販売店があります。

 日本各地の200種類を超える駅弁が販売されている,日本一の駅弁屋です。

 店内を回ってみて,その圧倒的な種類の多さに驚きました。

 全国の珍しい駅弁や入手困難な駅弁も山積みで販売されており,地方とのレベルの違いを感じました。

 どれにしようかと目を輝かせながら選んでいると,前々からいつか味わってみたいと思っていた駅弁が販売されていました。

 「ひっぱりだこ飯」で有名な「淡路屋」(神戸市)が2022年1月1日から販売している「JR貨物コンテナ弁当・神戸のすきやき編」です。

 SNSやマスコミで話題となり,一時期はインターネット販売でも入手困難となった駅弁です。

 これから乗車する上越新幹線の車両に合わせた「新幹線E7系弁当」と迷いましたが,今回は「JR貨物コンテナ弁当」を購入することにしました。

 買い物を済ませた私は,JR東日本の「新幹線eチケットサービス」を利用し,交通系ICカードで自動改札機を通りました。

 東海道・山陽新幹線の「チケットレスサービス」を利用した場合は,自動改札機を通過する際に紙の「EXご利用票」(控え)が発行されるのですが,今回の「新幹線eチケットサービス」では自動改札機から紙製の利用票は発行されませんでした。

 「利用票があると,列車名や座席番号が記載されているので便利なんだけどな…」と思いつつホームへ向かっていると,スマートフォンに1通の電子メールが届きました。

 自動改札機の通過と同時に電子メールが届き,それで列車名や座席番号を確認するという完全なチケットレスシステムなのです。

 このシステムに感心しながら,ホームで上越新幹線の入線を待ちました。

(東京駅21番ホーム・発車案内表示器)
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 今回私が乗車する上越新幹線は,東京駅8時52分発「とき」309号・新潟行きです。

 上越新幹線の乗車は初めてなので,心がトキめきます。

 やがて21番ホームに上越新幹線「とき」309号が入線しました。

(上越新幹線「とき」309号・東京駅21番ホーム入線)
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 駅員:「列車が参ります。黄色い線より下がってお待ちください。危険ですから黄色い線より下がってお待ちくださーい!」

(東京駅21番ホーム・上越新幹線「とき」309号・新潟行)
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 かつて上越新幹線と言えば2階建ての「E4系 Max」が有名でしたが,現在は北陸新幹線と同じE7系で運行されています。

(上越新幹線車内(E7系))
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 しばらくして出発時刻を迎え,「とき」309号は静かに東京駅を出発しました。


淡路屋「JR貨物コンテナ弁当・神戸のすきやき編」

 大宮駅を過ぎたあたりで駅弁をいただくことにしました。

(淡路屋「JR貨物コンテナ弁当・神戸のすきやき編」(包装))
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 こちらが淡路屋の「JR貨物コンテナ弁当・神戸のすきやき編」です。

 JR貨物のコンテナの形をしたパッケージで,まさに鉄道マニア・鉄オタ向けの駅弁です(笑)

 新幹線でJR貨物の弁当を食べるというギャップも楽しめそうです。

 それでは箱を開けてみましょう。

(淡路屋「JR貨物コンテナ弁当・神戸のすきやき編」(中身))
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 中ぶたに伸縮式・プラスチック製の箸が入っており,その中ぶたを取り出すと,すき焼き弁当がお目見えしました。

 パッケージといい,伸縮式・プラスチック製の箸といい,機能性や効率性を重視されているところに,コンテナ貨物らしさを感じました。

 すき焼きの具は,牛肉,ネギ,白菜,玉ねぎ,しらたき,焼き豆腐,人参,椎茸でした。

 ご飯には,すき焼きのたれがたっぷりしみ込んでいました。

 箱型で深さが6~7cmあり,ご飯が底までたっぷり入っていました。

 正直なところ,この形は少し食べづらいのですが(笑),それも楽しみの1つです。

 甘辛く煮たすき焼きとご飯を交互に,美味しくいただきました。

 ちなみに,コンテナをのせる貨車の荷重を示す記号は,軽いものから順に「ム」・「ラ」・「サ」・「キ」と表現されます。

 淡路屋さん,これにちなんで,貨物コンテナ弁当に「ムラサキ」という名で醤油を付けるというアイデアはいかがでしょうか(笑)


湘南クリエイティブガトー葦「湘南ハニーレモン」

 駅弁を味わった後,デザートとしてレモンケーキをいただきました。

 前日に「湘南クリエイティブガトー 葦 湘南台店」で購入した「湘南ハニーレモン」です。

(湘南クリエイティブガトー葦「湘南ハニーレモン」)
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 レモン果汁のアイシングでコーティングされたレモンケーキです。

 5月から8月までの限定販売商品です。

(湘南ハニーレモン(中身))
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 中には大粒のレモンピールが入っています。

 いただきました。

 ケーキ生地にはレモン果汁がたっぷり含まれ,レモンピールもザクザク入っていました。

 また,アイシングにもレモンの酸味を十分感じるほどたっぷりのレモン果汁が入っていました。

 それらが口の中で一体となり,まるでレモンをかじっているかのように鮮烈なレモン風味がするレモンケーキでした。

 ケーキ生地にもアイシングにもレモンの酸味・風味をしっかり感じる,大満足のレモンケーキでした。


湘南クリエイティブガトー葦「ホットサンドスペシャル」と「アメリカンコーヒー」

 前日に「湘南クリエイティブガトー 葦 湘南台店」のカフェを利用したので,その時の軽食・ドリンクも御紹介します。

 軽食のメニューには,サンドイッチ,ホットドッグ,ピザ,グラタンなどがありました。

 私はちょっと贅沢に「ホットサンドスペシャル」と「アメリカンコーヒー」を注文しました。

(ホットサンドスペシャルとアメリカンコーヒー)
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 トマト,レタス,キュウリ,ゆで卵,チーズ,ベーコンが入ったホットサンドです。

 カリッと焼き上げられたパン,新鮮な野菜,ゆで卵とチーズの濃厚なコク,焼きたてのベーコン,それにたっぷりのバター・マヨネーズとアクセントのマスタードを絡めていただくホットサンドは,お腹を満たすだけでなく,心まで幸せにしてくれました。

 そしてアメリカンコーヒーともよく合いました。

 店内はお客さんの列が途絶えることがなく,人気の高さが伺えました。


上越新幹線で新潟へ

 再び上越新幹線のお話に戻ります。

 上越新幹線車内での食事を終え,一息ついていると,列車は群馬県の上毛高原駅に到着しました。

(上越新幹線「とき」309号・上毛高原駅停車)
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 次はもう新潟県内の駅です。

 そして新潟県内に入ると,車窓から広い平野と田んぼが広がる様子が伺えました。

(上越新幹線車窓からの眺め(長岡駅-燕三条駅間))
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 さすが米どころ新潟,規模が違います。

 私はこのあと燕三条駅で下車し,新潟の旅を開始しました。


<関連サイト>
 「駅弁屋 祭 グランスタ東京店」(東京駅構内)
 「淡路屋」(兵庫県神戸市東灘区魚崎南町3-6-18)
 「湘南クリエイティブガトー 葦」(藤沢湘南台店・神奈川県藤沢市湘南台1丁目4-3 ほか)
 「湘南クリエイティブガトー葦の湘南ハニーレモン。」(「chibiaya日記」)

<関連記事>
 「新幹線車内でレモンケーキを味わう -山陽新幹線・東北・北海道新幹線・さかたやのレモンケーキ-
 「クルーズフェリー船内でレモンケーキを味わう -シーパセオの廣島檸檬ケーキ・レモネード・軽食・パフェ,サンイートのレモンケーキ-
 「神奈川の食文化探訪1 -釜揚げしらす・コーンフレーククッキー・湘南チーズパイ・鵠沼魚醤-
 「高速クルーザー「シースピカ」に乗って瀬戸内を楽しむ -しまたびレモンケーキ・大長レモネード・ふわりーぬ・瀬戸内広島お好みソース-

2022年7月10日 (日)

美術館とカフェ・レストランの魅力6 -ひろしま美術館特別展と印象派・バルビゾン派,2種のタルティーヌとペーシュメルバ-

 広島市中区にある「ひろしま美術館」で特別展「ランス美術館コレクション 風景画のはじまりコローから印象派へ」(2022年5月21日~7月3日)が開催されました。

 今回は風景画のはじまりや印象派・バルビゾン派について少し御紹介した上で,この特別展と同美術館に併設するカフェ「カフェジャルダン」の特別メニューを御紹介したいと思います。


印象派・バルビゾン派とは

 はじめに,今回の特別展のテーマである風景画のはじまりや,印象派とバルビゾン派について少し御紹介したいと思います。

 「風景画のはじまり…」
 風景画は今でこそ美術作品の1つとして確立し,評価されていますが,過去のフランスのサロンでは,歴史や宗教,神話画が格上で,静物画や風景画は格下とする風潮がありました。

 ところが19世紀後半,価値観が目まぐるしく変わっていく中で,フランスの美術界においても,伝統と格調を重んじるサロンに対して挑戦的な画家が次々と登場することになります。

 現実をありのままに描く「写実主義(レアリスム)」,光や空気,印象を重んじる「印象派」,自然の美を描く「バルビゾン派」などです。

 フランスのサロンに不満を持つ画家たちは,ついにサロンを無視した(無審査の)グループ展を開催するに至ります。

 その代表作が,モネの「印象,日の出」です。

(クロード・モネ「印象,日の出」)
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(「池上英洋監修「マンガでわかる「西洋絵画」の見かた」誠文堂新光社」p114の一部を加工・引用)

 これはモネが生まれ故郷のル・アーヴル港を描いた作品ですが,「物」ではなく「印象」に重点が置かれています。

 この作品を見た批評家は,「印象に過ぎない。印象主義の展覧会だ」と作品を批判しますが,これが逆に「印象派」として世間に名を知らしめるきっかけとなりました。

 こうした背景には,産業革命による大都市化や,交通機関の発達,持ち出し可能なチューブ式絵具の普及も関係しています。

 画家たちはアトリエを離れ,交通機関を利用して様々な場所で自由に絵を描くことが可能となったのです。

 「バルビゾン派」という名称は,パリから近いフォンテーヌブローの森で,森や自然の姿をスケッチする画家たちが,フォンテーヌブローに近いバルビゾン村の宿屋をたまり場としたことに由来します。

(フランス・印象派関連地図)
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(ひろしま美術館出展リスト「関連地図」の一部を加工・引用)

 世の中の価値観が目まぐるしく変化し,産業革命により急速に工業化・都市化が進んだことで,美術界にも大きな変化が訪れたのです。

 印象派の画家としてはモネ,マネ,シスレー,スーラ,ゴッホ,ルノアールなど,バルビゾン派の画家としてはミレー,コローなどが登場しますが,現代でも幅広く親しまれている画家ばかりです。


ひろしま美術館特別展「風景画のはじまり コローから印象派へ」

 広島市中区基町にある「ひろしま美術館」を訪問しました。

 エントランスには,特別展「ランス美術館コレクション 風景画のはじまり コローから印象派へ」の案内がありました。

(ひろしま美術館・特別展案内)
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 館内で特別展のチラシをいただきました。

(「風景画のはじまり コローから印象派へ」チラシ)
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(ひろしま美術館特別展「風景画のはじまり コローから印象派へ」チラシを引用)

 出品リストを参考に,約80点の作品を見てまわりました。

 その中で私が特に印象に残ったのは,コローの「春,柳の木々」と「湖畔の木々の下のふたりの姉妹」(チラシの絵),ウジェーヌ・ブーダンの「ベルク,船の帰還」,アルフレッド・シスレーの「カーディフの停泊地」などでした。

(ひろしま美術館絵葉書 ジャン=バティスト・カミーユ・コロー「春,柳の木々」)
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(ひろしま美術館絵葉書 ジャン=バティスト・カミーユ・コロー「春,柳の木々」の一部を加工・引用)

 田舎で景色を眺めながらボーッと過ごしているような,どこか心が落ち着き,和ませてくれる作品です。

 印象派やバルビゾン派が求めたのは,激動する時代に生きる人々への絵画を通じた「癒し」だったのかも知れません。

 そう考えると,我々現代人にも親しみがわき,共感できる作品が多いのも納得がいきます。


カフェ・ジャルダン特別メニュー「2種のタルティーヌ」と「ペーシュ・メルバ」

 しばらく絵画を観賞した後,休憩も兼ねて,館内のカフェ「カフェ・ジャルダン(Café Jardin)」へ行きました。

(カフェ・ジャルダン)
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 白と赤が基調のオーブンテラス付きカフェです。

 まるでパリのカフェのようです。

(カフェ・ジャルダンのメニュー掲示板)
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 今回の特別展に合わせて用意されていた特別メニューは,「2種のタルティーヌ」と「ペーシュ・メルバ」です。

 私は庭(ジャルダン)が眺められる店内のテーブル席で,これらの料理・デザートをいただきました。


【2種のタルティーヌ】

 「タルティーヌ」は,フランスのオープンサンドです。

 サーモンとカマンベールチーズにディルとレモンをのせた冷製タルティーヌと,ハムとフロマージュチーズにドライトマトとブロッコリーをのせた温製タルティーヌの2種類が用意されました。

(2種のタルティーヌ)
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 2種のタルティーヌにミネストローネとヨーグルトが付いたプレートです。

 冷製タルティーヌは,バターを塗ったバゲットにサーモンとカマンベールチーズがのせられたもので,サーモンとカマンベールチーズの相性が抜群でした。

 温製タルティーヌは,オーブンで焼かれて熱々の状態で出されました。
 温かいロースハムととろけたチーズをカリカリに焼き上げられたバゲットと一緒に美味しくいただきました。

 今回の特別展は,フランスのランス美術館所蔵の作品を中心に展示されていましたが,ランスはシャンパーニュ地方の中心地です。

 その意味で,シャンパンと一緒にいただくと,より気分が盛り上がりそうです。


【ペーシュ・メルバ(ピーチメルバ)】

 「ペーシュ・メルバ」(ピーチメルバ)は,近代フランス料理の巨匠「オーギュスト・エスコフィエ」が考案したバニラアイスと桃のデザートです。

 バニラアイスの上に桃のシロップ煮をのせ,上からラズベリーソースをかけたもので,正式にはそのお菓子を白鳥をかたどった氷細工の中に盛るという贅沢なデザートです。

(ペーシュ・メルバ)
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 今回用意されたペーシュ・メルバも,バニラアイスの上に桃のシロップ煮がのせられ,その上から真っ赤なラズベリーソースがかけられていました。

 また,スライスアーモンドとピスタチオがのせられた生クリームも添えられていました。

 桃とアイスクリームを同時に食べられるという贅沢なデザートでした。

 ちなみに「メルバ」という名称は,19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したオーストラリア出身のソプラノ歌手の名前です。

 彼女のファンだったエスコフィエが,彼女が出演した演劇の一場面をモチーフに,その感動を表現したお菓子が「ペーシュ・メルバ(ピーチメルバ)」だと言われています。

 同じメルバと付く食べ物に「メルバトースト」があるのですが,こちらは極薄に切ってパリパリ,カリカリに焼き上げたトーストを言います。

 これは体型をとても気にするメルバが極薄のトーストを注文したところ,そのトーストがパリパリ・カリカリに仕上がって美味しかったので,以後メルバのための特別メニューとなり,それが一般の人にも知れ渡って定番メニューになったと言われています。


まとめ

 今回は印象派・バルビゾン派について御紹介しましたが,物から印象へ,理性から個性へ,都市機能・産業機能重視から自然重視へ,象徴・権威主義から人間主義へといった価値観の変化は,現代人にも支持を受けやすく,それが印象派やバルビゾン派のファンが多い理由の1つとなっているように思います。

 それは「印象に残る」・「映える」料理やお菓子を求める現代人の食の価値観にも共通することなのかも知れません。


<関連サイト>
 「ひろしま美術館」(広島市中区基町3-2)

<参考文献>
 池上英洋監修「マンガでわかる「西洋絵画」の見かた」誠文堂新光社
 21世紀研究会編「食の世界地図」文春新書

2022年7月 3日 (日)

デンマーク料理の特徴と主な料理5 -フーゴ・フレスケスタイ・赤キャベツのピクルス・スメアブロ・ニシンのマリネ・エーベンチュアケー-

アンデルセンの「デンマークフェア」と広島アンデルセン

 2022年6月1日から30日までの期間,アンデルセンの各店舗で「デンマークフェア」が開催されました。

 デンマークのパン・料理・ドリンク・食材・雑貨などの販売や,デンマーク関係のセミナー・パーティーの開催など,デンマークの魅力を知り,味わい,楽しむことができる盛りだくさんのイベントが実施されました。

 アンデルセンの旗艦店である広島アンデルセンの玄関には,デンマーク名誉領事館の看板が掲げられています。

(広島アンデルセン入口(デンマーク名誉領事館看板))
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 アンデルセンとデンマークのつながりは,アンデルセンの創業者・高木俊介氏が,デンマークでデニッシュの製法を学び,日本で最初にデニッシュを紹介されたことに始まります。

 こうした縁もあって,広島アンデルセンの建物の中にデンマーク名誉領事館が設置されているのです。

 私は,この広島アンデルセンの2階にあるアンデルセンキッチンで「デンマークビュッフェ」を楽しみました。

 今回はデンマークフェアで提供されたデンマーク料理やお菓子を中心に御紹介したいと思います。


アンデルセンキッチンの「デンマークビュッフェ」

 「デンマークビュッフェ」では,通常の料理に加え,様々なデンマーク料理が用意されていました。


【フーゴ】

 デンマークフェアで私の一番のおすすめは,エルダーフラワーシロップで作られるドリンク「フーゴ」です。

(フーゴ(エルダーフラワードリンク))
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 ライチやマスカットに似たフルーティーな風味が楽しめ,初夏の訪れを感じることができるドリンクです。


【フレスケスタイと赤キャベツのピクルス】

 フーゴでのどを潤した後,料理をいただきました。

(フレスケスタイ(クリスピーデニッシュポーク))
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 フレスケスタイ(クリスピーデニッシュポーク)です。

 注文すると,大きな肉の塊をその場で切り分けていただけました。

 フレスケスタイは,表面の皮の部分に「ハモの骨切り」のように包丁で細かく切り込みを入れ,その切れ目に塩・ローリエ・クローブなどの調味料やスパイスをすり込んで下味をつけ,オーブンで焼いた料理です。

 パリパリで塩気のある皮とジューシーな肉を一度に味わうことができます。

 赤キャベツのピクルスと一緒にいただきました。

 デンマークでは,お祝いの日に食べられる特別な料理なのだそうです。


【スメアブロ】

 スメアブロは,薄く切ったパンにバターを塗り,様々な具を彩りよく盛り付けたオープンサンドイッチです。

 トレコンブロート(ゴマのパン)を一口サイズにカットして作られたスメアブロが数種類用意されていました。

(スメアブロとフレスケスタイ)
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 ゆで卵と海老,フレスケスタイと赤キャベツのピクルス,マリネサーモンのスメアブロです。

 トレコンブロートはどっしりとした生地のパンなので,薄くスライスしたものでも,具材をしっかりと受け止めることができます。

 オープンサンドにすることで,それぞれの具材をより一層美味しくいただくことができました。


【ニシンのマリネ】

(フレスケスタイ・ニシンのマリネ・スメアブロ)
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 スメアブロにニシンのマリネも加えてみました。

 ニシンのマリネは,弾力のある「しめ鯖」のような食感・味でした。

 ビュッフェですから,トレコンブロートにニシンのマリネをのせてスメアブロでいただくのもありですね。


【鴨のロースト(ベリーソース)】

(鴨のロースト(ベリーソース)とニシンのマリネ)
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 ベリーソースを添えた鴨のローストとニシンのマリネです。

 鴨肉にはベリーソース,赤ワインソース,オレンジソースといった甘いソースがよく合います。

 ニシンのマリネは好きなのでおかわりをし,ケイパーを添えていただきました。


【茹で海老・蒸し鶏とトマトソース】

 パンと一緒に,茹で海老やトマトソースを添えた蒸し鶏もいただきました。

(茹で海老・蒸し鶏とトマトソース・ニシンのマリネ)
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アンデルセンキッチンの人気・定番メニュー

 デンマーク料理のほかに,アンデルセンキッチンの人気・定番メニューもいただきました。

【高原黒牛のビーフシチュー】

(高原黒牛のビーフシチュー)
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 人気メニューの1つ,ビーフシチューです。

 注文すると,鉄鍋に入った熱々のビーフシチューが供されました。

 分厚い牛肉がやわらかくトロトロに煮込まれていました。

【サーモンのムニエル・ハーブバターソース】

(サーモンのムニエル・ハーブバターソース)
Photo_20220703115501

 こちらはサーモンのムニエルです。

 ハーブバターソースは酸味の効いたマヨネーズソースのような味わいで,サーモンのムニエルとよく合いました。


【広島熟成どりのクラブハウスサンド】

(広島熟成どりのクラブハウスサンド)
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 やわらかい蒸し鶏,ベーコン,ゆで卵,トマト,レタス,レッドキャベツなどをパンで挟んだクラブハウスサンドです。

 パンは軽くトーストされていました。

 アンデルセンのサンドイッチなら間違いないだろうと注文しましたが,そのとおりの一品でした。


【クリームブリュレ・ティラミス・プリン】

 デザートにクリームブリュレ・ティラミス・プリンをいただきました。

(クリームブリュレ・ティラミス・プリン)
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 こういう欲張りなチョイスができるのもビュッフェならではの楽しみです。

 クリームブリュレは注文を受けてからブリュレ(表面焼き)されます。

 プリンは上品な仕上がりで,カスタードはクリームブリュレの方が濃厚でした。


 アンデルセンキッチンの定番メニューも含め,デンマークビュッフェをお腹いっぱい堪能しました。


エーベンチュアケー

 広島アンデルセン1階のベーカリーショップで,「エーベンチュアケー」というデンマークのお菓子を購入しました。

(エーベンチュアケー)
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 「童話のケーキ」という意味を持つデンマークの焼菓子です。

 直径約6cmで,大福ぐらいの大きさです。

(エーベンチュアケー(中身))
Photo_20220703133502

 クッキー生地の中に,アーモンドベースのマジパンと細かく刻んだドライフルーツがぎっしり詰め込まれていました。

 ドライフルーツはオレンジピール,レーズン,サクランボ,パインアップル,レモンピールです。

 サクサクのクッキー生地の中に,しっとりとしたマジパンとドライフルーツの「あん」が入っており,ドライフルーツたっぷりのカントリーマアムのようなお菓子でした。


まとめ

 冬の長いデンマークでは,夏至を迎える6月はお家から出て太陽のある暮らしを楽しむ季節のようです。

 私はアンデルセンで「デンマークフェア」が開催される時期になると初夏の訪れを感じ,フーゴ(エルダーフラワードリンク)が恋しくなります。

 日本の年中行事で言えば,冬至に近いクリスマスの方がビッグイベントとなっていますが,今後は初夏や夏至の訪れを祝う北欧・デンマークの考えやイベントについても積極的に取り入れ,盛り上がればいいなと思います。


<関連サイト>
 「広島アンデルセン」(広島市中区本通7-1)
 「サービスエリアに行く。(ニクラスさんのルバーブとゆずのデニッシュ)」(「chibiaya日記」)
 「アンデルセンのデンマークチーズとレモンのマフィン。」(「chibiaya日記」)

<関連記事>
 「デンマーク料理の特徴と主な料理1 -なぜオープンサンドイッチが伝統料理なのか-
 「デンマーク料理の特徴と主な料理2 -デンマークバター・ソフトカーネラグブロート・ダンスクウールブロート・スモーブロー-
 「デンマーク料理の特徴と主な料理3 -フリカデラ・赤キャベツのピクルス・フレスケスタイ・フーゴ,デンマークとドイツの食文化-
 「デンマーク料理の特徴と主な料理4 -クランセケーフィンガー-
 「ルバーブの特徴を知る(2) -ルバーブジャム・ルバーブパイ・ルバーブとゆずのデニッシュ-

<参考文献>
 「Denmark Fair」アンデルセン広報誌
 「ブレッド図書館 デニッシュ」(2022年5月28日放送・NHK Eテレ)

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