広島市植物公園「バレンタインフェスティバル2023」 -広島市植物公園のカカオとチョコレート講演会-
広島市植物公園のバレンタインフェスティバル
広島市植物公園で3年ぶりにリアルのバレンタインイベントが開催されました。
(「バレンタインフェスティバル2023」チラシ)
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で,ここ何年か中止を余儀なくされたため,実際に開催された喜びはひとしおでした。
「またあの楽しい先生(佐藤清隆 広島大学名誉教授)にお会いできる」とワクワクしながら,会場の広島市植物公園を訪問しました。
(広島市植物公園)
広島市植物公園です。左奥の建物が大温室です。
この大温室では,全国でも珍しいカカオが栽培されています。
そのカカオの木にカカオの実がなっているそうなので,大温室へ向かいました。
途中,バレンタインデーにちなんだ絵画が展示されていました。
(アルフォンス・ミュシャ「黄道十二宮」)
アルフォンス・ミュシャの「黄道十二宮」です。
私はロートレックやミュシャの絵(ポスター)が好きで,2022年11月には,大阪中之島美術館で開催された展示会「ロートレックとミュシャ パリ時代の10年」を見に行ったのですが,確かにバレンタインデーのイメージによく合っています。
広島市植物公園大温室のカカオ
大温室に着き,園内でカカオを探しました。
(カカオ)
カカオの木がありました。
(カカオの果実)
近づいてみると,確かに緑色のカカオの実がなっていました。
今回,カカオの実が6つでき,今年の5月~6月頃から順次収穫できる見込みだそうです。
(紹介文とカカオの模型)
「果実は幹に直接ぶら下がり,果実を割ってみると白いパルプに包まれた種子が行儀よく並んでる」
「この種子を発酵させ,炒って砕いたものがチョコレートやココアの原料」
「またカカオの油は体温に近い温度で溶けるので医薬品にも使われている」
カカオの油が医薬品にも使われているとは驚きです。
(カカオの種類)
カカオの種類を説明した看板もありました。
「フォラステロ種,トリニタリオ種,クリオロ種」
フォラステロ種は世界で最も多く栽培されている品種,逆にクリオロ種は世界の生産量の1%程度しか栽培されていない希少品種,トリニタリオ種はフォラステロ種とクリオロ種のハイブリッド(いいとこ取り)です。
「カカオだけ観察できたら十分」という気持ちで展示施設を後にしました。
そのため,新種のラン「(デンドロビウム)キシダフミオ」を見逃してしまいました。
岸田首相,次回はぜひバナナとかカカオとか,食べ物に命名してください。
広島ゆかりの食べ物・飲み物として取材し,記事にしますから(笑)
絵本の朗読とチョコレート作り体験
カカオを観察した後,展示資料館2階講堂へ行き,バレンタインフェスティバル関連イベント「絵本の朗読とチョコレート作り体験」に参加しました。
チョコレートの専門家・佐藤清隆先生(広島大学名誉教授)が書かれた絵本「ひと粒のチョコレートに」(福音館書店)の朗読とチョコレート作り体験です。
親子連れの参加者が多く,定員100名でしたが,受付から10分程度で定員いっぱいとなりました。
会場で席に座って開始を待っていると,佐藤先生から「おおっ,お久しぶり」と声をかけていただきました。
私もそれにお応えし,再会を喜びました。
チョコレートを意識した茶色や赤色の服装で,勢いのある熱いトークで講演される佐藤先生のお姿は,拝見するだけで楽しくなります。
みんなの前で少し大げさに話をされるところは,私とそっくりです(笑)
パワーポイントを活用しながら絵本が朗読され,要所要所で,絵本に登場するカカオやチョコレートについて解説していただきました。
次にチョコレート作り体験として,参加者全員にローストされたカカオ豆が用意されました。
(カカオ豆)
こちらがローストしたカカオ豆です。
高級なベネズエラ産の豆だそうです。
固い殻(外皮)に包まれており,この殻を割って中の実(胚乳・カカオニブ)を取り出しました。
(カカオ豆の皮・カカオニブ・カカオ豆)
写真左上がカカオの殻(皮)で,外皮の「カカオシェル」と薄皮の「カカオハスク」があります。
写真中央がカカオの胚乳で「カカオニブ」と呼ばれるものです。
写真右上が殻を割る前のカカオ豆です。
佐藤先生が「カカオニブの中に小さく細長い棒(胚芽)があるので取り出してください」とおっしゃったので,カカオニブを細かく砕きながら探したのですが,どれが胚芽なのかよくわかりませんでした。
やむなく佐藤先生を引き留め,どれが胚芽なのか探してもらうと,すぐに「これです」と取り出してもらえました。
(カカオの胚芽)
写真中央手前の赤丸で囲ったものがカカオの胚芽(ジャーム)です。
5mm前後の大きさで,小さい茶柱のような形をしています。
(カカオの胚芽(2本))
もう1つのカカオ豆からは,自力で胚芽を見つけることができました。
胚芽は次の木を作る元になるものなので,胚芽だけを食べても美味しくないとのことでした。
続いて取り出したカカオニブの実食となりましたが,その際,佐藤先生から「胚芽は取り除くように」とお話がありました。
「そんなにまずいものなのか」と私は胚芽も食べてみましたが,多少ジャリジャリする程度で,カカオニブと一緒に焙煎されていることもあり,カカオニブの風味とそんなに変わらないように思いました。
しかしながら,佐藤先生レベルになると,チョコレートの微妙な食感で,この胚芽が取り除かれているチョコレートかどうかが識別できるのだそうです。
続いて,カカオニブをすりつぶしてドロドロの液状にし,それに砂糖などを加えた「チョコレートの原料」が平たい金属トレーの上に流し込まれました。
そして,そのトレーを机に叩きつけて液体チョコレートの中の空気を抜く「タッピング」と呼ばれる作業が実演されました。
このタッピング作業の際,机に金属製のトレーを叩きつけると,「バシャン,バシャン」とかなり大きな音が会場内に響き渡りました。
実際のチョコレート工場でもタッピングの際は大きな音がするらしく,工場内で働く方々は耳栓をして作業されているとのことです。
このタッピングも数名の参加者(子ども)が体験しました。
その後,タッピングを終えたトレーが前の席から後ろの席へ順に回され,その様子を間近で見ることができました。
(トレーでタッピングしたチョコレート)
タッピングは,チョコレートを薄く延ばすための作業でもあったのですが,時間の関係で厚い板チョコレートになりました。
冷めて固まったチョコレートを一口大に割る作業も,数名の参加者(子ども)が体験しました。
(板チョコレートを割る様子)
こうしてお土産のチョコレートが完成しました。
(お土産のチョコレート)
ソロモン諸島のカカオを70%使ったチョコレートです。
出来たてよりも,1日置いて馴染ませた方がおいしいとのお話だったので,後日いただきました。
わずかに甘さを感じる,ほろ苦いダークチョコレートでした。
後からふわっとさわやかな酸味も感じました。
チョコレートと一緒に,フラワーバレンタインということで,広島市植物公園の方からバラの花をお土産にいただきました。
(フラワーバレンタイン・バラ)
フラワーバレンタインもおしゃれですね。
今回の講演会で新たに学んだこと
今回の講演会で私が新たに学んだことをまとめます。
・カカオニブにハチミツを混ぜて食べるとチョコレートに近い味になる
・カカオの油脂は,赤ちゃんカカオのお乳
・カカオの油脂の成分は,冷やすと整列して固まる
・カカオ農園ではバナナも一緒に栽培され,バナナの日陰でカカオが栽培される
・カカオ豆は,バナナの葉で包むか木の箱に入れて発酵させる
・カカオの実1個にカカオ豆が約40個あり,板チョコレートが1枚作れる
・カカオニブを2~3日すりつぶしてカカオマス(※)が作られる
※すりつぶされたドロドロ状のもの。液体チョコレート
・ブルーム(チョコレートが白く固まった状態)は,花が咲くという意味
・ココアバターの結晶は1型から6型まで6種類あり,その中で最適な結晶を作る作業をテンパリングという
・メキシコではカカオとトウモロコシで作ったドリンクが飲まれている
・メキシコのカカオドリンクはコップ1杯で約600キロカロリーあり,現地の方はこれを朝2杯飲んで昼まで働く
・メキシコのカカオドリンクやモレソースに唐辛子を混ぜる理由はビタミンCを補うため
・カカオは栄養豊富だが,唯一ビタミンCが不足している
・冬の最低気温が16度以下だとカカオは育たない(日本の露地栽培では無理)
・石川県加賀市は,温泉の排熱を利用したカカオ栽培・チョコレート作りに挑戦されている
・油は臭いを吸収するので,チョコレートは冷蔵庫に入れない方がよい
まとめ
2023年2月18日のTBSテレビ「情報7daysニュースキャスター」で,佐藤先生が「現代のチョコレート製法の基礎を作った科学者」として紹介されました。
ココアバターの結晶が1型から6型まで6種類ある中,4型から下だと指で触るだけでチョコレートが溶けてしまい,逆に6型だと固すぎて口の中でチョコレートが溶けないため,5型だけが商品チョコレートとして適しているのだそうです。
その5型にするには「BOB」と呼ばれるパウダー状の油脂が適していると紹介されました。
また,株式会社 明治との共同研究や,佐藤先生が技術支援された島根県出雲市「La Chocolaterie Nanairo(ラ ショコラトリ ナナイロ)」が「世界の美味しいチョコレート10選」に選ばれたことなども紹介されました。
最後にスタジオの安住紳一郎アナが「チョコレート,食べたくなりましたね」と三谷幸喜さんにおっしゃってましたが,これこそ佐藤先生の一番望んでおられることなので,クスっと笑えました。
講演会終了後,佐藤先生と少しお話しました。
再会を約束して最後に握手したのですが,佐藤先生の手は(私の冷たい手と違って)温かく,まさにチョコレート作りに適した手でした(笑)
<関連サイト>
「広島市植物公園」(広島市佐伯区倉重三丁目495番地)
「La Chocolaterie Nanairo」(島根県出雲市斐川町坂田1934)
<関連記事>
「カカオ豆とチョコレート」
「チョコレートの新しい潮流2 -ハイカカオと機能性チョコレート,発酵の重要性-」
「チョコレートの魅力 -ショコラミルの実演とオランジェット作り体験-」
「島根県出雲市のビーントゥバーチョコレート -La Chocolaterie Nanairo(ラ ショコラトリ ナナイロ)-」
このほか「食文化関連記事一覧表・索引」の「食文化事例研究」にある「チョコレートの研究」を御参照ください。
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チョコレートの香りがするラン!
わたし的にはそっちの方が気になりました(^^;)
最近72%の明治のチョコレート効果を食べていますが、高カカオのチョコレートは甘すぎないところが美味しいですね。
投稿: chibiaya | 2023年2月19日 (日) 17時46分
バレンタインイベントという事で、国生さゆりがバレンタインキッスを歌うのかと思いましたが、お若いコウジ菌様には古すぎますね(^_^;)
失礼しましたm(_ _)m
「お口の恋人」にするなら、アルフォンス・ミュシャの「黄道十二宮」の方が良いですね!
子供達は皆チョコレートが大好きだと思いますが、カカオの木や実を観る機会は滅多に無いと思います。
リモート学習だけでなく実際に体験する事は、とても大事!
私もカラムーチョでビタミンCを摂取しながら、チョコレートを食べたくなりました(^_^)
投稿: なーまん | 2023年2月19日 (日) 17時47分
chibiaya 様
chibiayaさん,こんばんは。
いつもコメントいただき,ありがとうございます。
チョコレートの香りがするラン,会場で完全に見落としていました(笑)
「キシダフミオ」と同様,記事を書く段階で気になるという,情けない始末です。
食べ物以外,注意して読まないからでしょうね…。
72%のハイカカオチョコレートを食べておられるのですね。
私も甘いミルクチョコレートよりは,ビターなハイカカオチョコレートの方が好みです。
明治のチョコレート効果はほかにも86%,95%がありますが,甘さとのバランスがとれているのは72%かなと思います。
最近は,いろんなお店でカカオニブが販売されるようになりましたが,そのカカオニブをそのままバリバリ食べるのも私はOKです!(^^)!
投稿: コウジ菌 | 2023年2月19日 (日) 22時20分
なーまん 様
なーまんさん,こんばんは。
いつもコメントいただき,ありがとうございます。
国生さゆりの「バレンタインキッス」,知ってますよ(笑)
ただ曲名は「バレンタインデーキッス」だと思っていました。
広島県呉市の高校出身の国生さゆりとバレンタインキッスと広島のバレンタインイベントをかけておられるなんて,よく御存知で,素晴らしいお気遣いだなと感心致しました。
アルフォンス・ミュシャの絵は,お菓子の包装とかにも使えそうですよね。
こういう女性が恋人だといいな(^-^)
おっしゃるとおり,実際に見たり作ったりして体験してみることは大事ですね。
子どもの場合はなおさらです。
そう思って,本当は私もチョコレート作りを体験したかったのですが,あえて手を挙げず,子どもたちに譲りました(笑)
カカオに唐辛子を加える話,記事をよく読んでくださり,ありがとうございます。
なぜカカオ(チョコレート)に唐辛子なんだろう?と疑問に思っていたのですが,その解決の鍵がビタミンCにあるとは,今回初めて知りました。
ですが,チョコレートを召し上がる際,カラムーチョでビタミンCを補給されるのは,ちょっと話が発展しすぎのような気が…(笑)
交互に食べると,やめられなくなりそうです(^-^)
投稿: コウジ菌 | 2023年2月19日 (日) 23時01分