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2023年7月16日 (日)

アイヌの食文化研究1 -北海道白老町「ウポポイ」のクンネチュプ・パピリカパイ・ペネイモぜんざい-

北海道白老町訪問

 苫小牧駅から室蘭行き普通列車に乗って、白老(しらおい)駅へ向かいました。

(室蘭本線・室蘭行き普通列車(苫小牧駅ホーム))
Photo_20230716134601

 途中、車窓越しに馬が見え、乗車していた子供たちも喜んで眺めていました。

 白老町には競走馬の牧場があるのです。

 やがて列車は白老駅に到着しました。

(JR白老駅)
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 JR白老駅です。

 駅の南側には商店街・住宅街が、北側には観光商業ゾーンが広がっていました。

 観光商業ゾーンには白老町の情報発信拠点施設「ポロトミンタラ」があり、白老町交流促進バス(ぐるぽん)も活躍していました。

(白老町交流促進バス(ぐるぽん))
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 今回は、白老駅北側にあるアイヌ文化施設「ウポポイ(民族共生象徴空間)」とそのショップ・カフェで味わったアイヌ料理を御紹介したいと思います。


ウポポイ(民族共生象徴空間)・国立アイヌ民族博物館

 「ウポポイ」は白老駅から約500m(徒歩10分)の場所にあります。

 ウポポイの入口付近に紺色でアイヌ文様がデザインされた郵便ポストがありました。

(ウポポイ施設内の郵便ポスト)
Photo_20230716135201

 郵便ポストに記載されている「イランカラプテ」はアイヌ語で「こんにちは」という意味です。

(トゥレッポんとエントランス棟)
Photo_20230716135301

 ウポポイのエントランスでは、PRキャラクター「トゥレッポん」が出迎えてくれました。

 「トゥレッポん」は「トゥレプ(オオウバユリ)」をモチーフにしたキャラクターです。

 年頃の女の子で、やがてイルプ(でんぷん)になったり、さらに美味しい料理に変身するそうです。

 アイヌの人々にとって「トゥレプ」は鹿や鮭に並ぶ貴重な食料となっています。

(トゥレプ)
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(萩中美枝・畑井朝子・藤村久和・古原敏弘・村木美幸「聞き書 アイヌの食事」農山漁村文化協会 口絵の一部を引用)

(デンプンとオントゥレプ・オントゥレプ入りサヨ)
Photo_20230716144401
(萩中美枝・畑井朝子・藤村久和・古原敏弘・村木美幸「聞き書 アイヌの食事」農山漁村文化協会 口絵の一部を加工・引用)

 こちらはトゥレプからとれたデンプンとその残りの「デンプンかす」で作られた団子「オントゥレプ」(写真右側)、そしてそのオントゥレプ入りのサヨ(おかゆ)(写真左側)です。

 「トゥレッポん」はこんな風に変身するのですね(笑)

 施設に入場しました。

(体験交流ホールと国立アイヌ民族博物館)
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 写真左の円形の建物が「体験交流ホール」、写真右端の建物が「国立アイヌ民族博物館」です。

(伝統的コタンとポロト湖)
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 こちらは国立アイヌ民族博物館から眺めた伝統的コタン(集落)(写真右上)とポロト湖(写真左上)の様子です。

 国立アイヌ民族博物館も見学しました。

(トゥキとイクパスイ)
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 こちらは「カムイノミ(神々への祈り)」の儀式で使われる「トゥキ(高杯)」と「イクパスイ(酒箸)」です。

 祭りや「カムイ(神)」への祈りの際には、「ピヤパ(ひえ)」や「ムンチロ(あわ)」、に「カムタチ(麹)」を混ぜて「トノト(酒)」が作られます。

(ラタシケプとエモシト)
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 こちらはアイヌ料理「ラタシケプ」と「エモシト」のサンプルです。

 「ラタシケプ」は「和え物」のことで、その代表格がカボチャのラタシケプです。

 このラタシケプは、カボチャにいんげん豆やシケレペ(きはだの実)が混ぜ込まれています。

 「エモシト」は「エモ(ジャガイモ)」で作った「シト(団子)」、つまり「いも団子」です。

 シト(団子)は、祝い事や先祖供養などの儀式の際に作られます。

 タレにつけたり、粥に入れたりして食べられました。

 館内は展示品だけでなく、設備にもアイヌの言葉が併記されています。

(国立アイヌ民族博物館内の消火栓)
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 こちらは館内の消火栓ですが、こうした設備からもアイヌ文化に触れることができます。


「ななかまど イレンカ」のクンネチュプとパピリカパイ

 続いて、ウポポイにあるショップ・カフェでいただいたアイヌの料理・お菓子を御紹介します。

 「歓迎の広場」にあるスイーツショップ「ななかまど イレンカ」で「クンネチュプ」と「パピリカパイ」を購入しました。

(クンネチュプ(カップチーズケーキ))
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 「クンネチュプ」はカップ入りのチーズケーキです。

 「クンネチュプ」はアイヌの言葉で「月」を意味しますが、その名のとおり満月のような色・形のチーズケーキです。

 原材料には北海道産のクリームチーズと白老産の卵が使われています。

 クリームチーズとスフレ生地の二層構造のチーズケーキでした。

 続いては「パピリカパイ」です。

(パピリカパイ(白老牛と鹿肉のカレーパイ))
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 白老牛と鹿肉のカレーソースが包まれたパイです。

(パピリカパイ(白老牛と鹿肉のカレーパイ)(中身))
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 カレー味のミートパイと呼びたいほど、カレーの中に白老牛と鹿肉がゴロゴロと入っていました。

 「パピリカ」とはアイヌの言葉で「豊作」を意味し、豊かな食材で美味しいパイ製品を作っていきたいというお店の方の思いが込められているそうです。


「カフェリムセ」のペネイモぜんざい

 続いて「カフェリムセ」に伺いました。

(カフェリムセ(店舗))
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 「オハウ(汁物)」も味わってみたかったのですが、お昼時に売り切れたとのことでした。

 そこで「ペネイモぜんざいセット」を注文しました。

(ペネイモぜんざいセット)
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 ペネイモぜんざいに漬物と薬草茶がセットになっています。

 「ペネイモ(ペネエモ)」は、ジャガイモを雪の中で繰り返し凍結・解凍させ、発酵させ、アクを取り除き、臼と杵でついて団子にした食べ物です。

(雪に覆われたエモ(ジャガイモ))
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(藤村久和監修「自然の恵み アイヌのごはん」デーリィマン社 p101の一部を引用)

 ジャガイモを繰り返し凍結・解凍させて作る製法は、アンデス山脈の保存食「チューニョ」とよく似ています。

(発酵した春先のジャガイモ)
Photo_20230716142001
(藤村久和監修「自然の恵み アイヌのごはん」デーリィマン社 p77の一部を加工・引用)

 手間暇かかる食べ物ですが、「チューニョ」と同様、必要な時に食べられる保存食としてペネイモが作られ、食べられたのでしょう。

(ペネイモぜんざい)
Photo_20230716142201

 里芋をすりつぶして団子にしたような、ニチャニチャした食感の団子でした。

 「そばがき」にも似ているように思いました。

 甘めのぜんざいとよく合いました。


まとめ

 白老町の「ウポポイ」で、アイヌの文化・料理を学ぶことができました。

 アイヌの食では、穀物(あわ、ひえ、きびなど)、山菜(トゥレプ(オオウバユリ)、プクサ(行者ニンニク))、野菜(エモ(ジャガイモ)、カンポチャ(カボチャ)、キミ(トウモロコシ)など)、果実(シケレペ(きはだの実)、ハツ(やまぶどう)など)、魚(カムイチェプ(鮭)、カジカ、ニシン、タラ、ワカサギなど)、肉(ユク(鹿)、キムンカムイ(熊)など)、そして各種豆類などの自然の恵み豊かな食材が使われていることがわかりました。

 「カムイチェプ(鮭)」、「キムンカムイ(熊)」、「カムイトノト(アイヌ伝統酒)」など、「カムイ(神)」が使われた言葉も多く、神への信仰心の強さも感じられました。

 白老駅から札幌方面へは特急北斗を利用しました。

(特急北斗(白老駅ホーム))
Photo_20230716143201

 いつか特急カムイ(函館本線・札幌-旭川)にも乗りたいです(笑)


<関連サイト>
 「ウポポイ(民族共生象徴空間)」(北海道白老郡白老町若草町二丁目3)

<関連記事>
 「北海道の食文化探訪1 -北広島市と広島のつながり・「くるるの杜」の農村レストラン・農畜産物直売所-
 「北海道の食文化探訪2 -小樽「美園」のアイスクリーム・札幌「日曜日のクッキー。」・札幌「ノースマン」-
 「北海道の食文化探訪3 -札幌グランドホテル ノーザンテラスダイナーの「北海道朝食」とザ・ベーカリー&ペイストリーの「レモンケーキ」-

<参考文献>
 藤村久和監修「自然の恵み アイヌのごはん」デーリィマン社
 萩中美枝・畑井朝子・藤村久和・古原敏弘・村木美幸「聞き書 アイヌの食事」農山漁村文化協会

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コメント

列車と馬が並走したらまるで西部劇ですね(^^)
国立アイヌ民族博物館は行った事がなく、最近縄文文化に関心がある為、とても興味深く拝見しましたm(^^)m
オントゥレプにドーナツの様な穴が空いているのは、紐状のもので束ねたりする為でしょうか?
アイヌ語だとコウジ菌様はカムタチ菌様になるのですね(^.^)
ウチナーグチより難しそうです(^^;;
クンネチュプ原材料を聞いただけで美味そう!
〆はやはりぜんざいですか!
米と小豆どちらか選ぶとしたらどうしますか?

雪がとっても涼しげ~(笑)
ウポポイって何か聞いたことがあるけど…とすぐに思い出せなかったですが、そうだ、できたばかりの博物館ですね。
ジャガイモを繰り返し凍結・解凍させて作る製法があって、それが地球の裏側にも存在する不思議さ。
それにしてもその存在をよくご存じですねー!
チーズケーキもパイもぜんざいもどれも美味しそうです。
でもぜんざいにはやっぱり芋より餅か白玉がいいなあ。

なーまん 様

なーまんさん、こんばんは。
いつもコメントいただき,ありがとうございます。

白老町には広大な馬の牧場があり、列車から眺めると「北海道に来たなぁ」という気持ちになりました。
確かに西部劇のような雰囲気も感じました。

国立アイヌ民族博物館をはじめとするウポポイは、体験型プログラムも多く、本気で見学・体験しようとすると半日以上かかりますが、それだけ数多く学ぶことができる施設です。機会があれば御訪問ください。

オントゥレプの穴は、おっしゃるとおり、長期保存のため、いくつかまとめて束ねておくためのようです。
飢饉になることを恐れていたので、保存食を作る技術も発達したようです。

カムタチ菌、書こうか書くまいか悩みましたが、同じことをなーまんさんも考えられたとは…(笑)
「お酒に弱いくせに書くな」と言われそうで書く勇気がありませんでした(笑)

クンネチュプ、トルコの国旗や千葉家の家紋と同じ月です(笑)
白老産と言えば、白老牛もあります。

〆のぜんざいは、ペネイモを甘い小豆のぜんざいと組み合わせることで、ペネイモをより美味しくいただくことができました。

米と小豆、どちらか1つを選ぶとしたら、やはり米を選んでしまいます。
米の方が、主食となる一方で、カムタチ菌の働きで甘味もアルコールも作ることができ、万能だからです。
小豆は嗜好品に近いような気がします。

chibiaya 様

chibiayaさん、こんばんは。
いつもコメントいただき,ありがとうございます。

時期外れの風景となり、涼しさまで伝わったようで、お詫び申し上げるべきか喜ぶべきか…(笑)

ウポポイって、それだけでも印象的な、かわいいイメージのネーミングですよね。
おっしゃるとおり、白老町にできたばかりのアイヌ博物館・文化交流施設です。

ジャガイモを繰り返し凍結・解凍させて作るアンデス山脈のチューニョは、凍結したジャガイモを足で踏みつけて作るという話がとても衝撃的だったので、たまたま記憶に残っていました。
高野豆腐・凍み豆腐と同じ原理ですね。

アイヌの製法・食材が使われた料理・お菓子を御紹介しましたが、現代風にアレンジされていることもあり、どれも食べやすく美味しかったです。

ぜんざいに入っていたペネイモは、食感がイモというよりはもはや団子や餅に近く、アイヌでは米から作る団子や餅の代わりにイモで団子や餅が作られたのではないかと思います。
素朴な団子・餅の味・食感でした。
とは言え、団子か餅のぜんざいも食べたくなりました(笑)

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