アイヌの食文化研究2 -トノト・チタタプ・オハウ・チポロシト・鮭(ルイベ)・ヒグマ・合鴨・エゾシカ・プクサ・シケレペ・エント-
札幌・すすきの
札幌市の繁華街・すすきのを訪問しました。
(すすきの)
ニッカウヰスキーのネオン看板などがある「すすきの交差点」です。
大阪・道頓堀(戎橋)のネオン看板と同様に、記念撮影する観光客の方がたくさんおられました。
今回はすすきのにある北海道郷土料理・アイヌ料理店「海空のハル」でいただいたアイヌ料理を御紹介します。
アイヌ料理
お店に入り、予約している旨をお伝えして、席を御案内いただきました。
席には毛筆で私の名前とともに「イランカラプテ(こんにちは)」と書かれたメッセージカードが用意されており、その温かいおもてなしに感動しました。
代表的なアイヌ料理が揃った「アイヌ創作料理セット」をいただきました。
(アイヌ創作料理セット)
木製の皿や器、笹の葉などにアイヌ料理が美しく盛り付けられています。
【トノト】
まずは食前酒として「トノト」をいただきました。
(トノト)
「トノト」はお酒のことですが、「殿様の乳」に由来する言葉だそうです。
「ピヤパ(ひえ)」と「カムタチ(麹)」を混ぜて作られたお酒です。
ドロッとした口あたりで、ほのかに甘みも感じる、甘酒に似た飲みやすいお酒でした。
【チタタプ】
続いては「チタタプ」です。
(チタタプ)
こちらは鮭のチタタプです。
「チタタプ」は、鮭などを細かく刻んだ「たたき」のことです。
アイヌの人々は、ナタや包丁で「チタタプ、チタタプ」と言いながら鮭などを細かくたたいて作られるそうです。
鮭のチタタプは主にアラ(頭・エラ・中骨・ヒレ・白子・内臓など)を細かくたたいて作る料理ですが、今回御用意いただいたチタタプは食べやすさに配慮し、主に鮭の身を細かくたたいたものを御提供いただきました。
ねっとりとした食感で、鮭の濃厚な旨味を楽しむことができました。
ちなみに鮭の目玉はチタタプには入れず、子供の大切なおやつ(※)にされたようです。
※目玉を生のままくり抜き、あめ玉のようにしゃぶりながら食べられたようです。
【オハウ】
「オハウ」は「汁物」のことです。
(オハウ)
このオハウは、野菜(ゴボウ、冬瓜、人参、フキ、インゲン、ネギなど)と焼き鮭が入っていました。
(オハウ(中身))
昆布と焼き鮭でだしをとり、塩で味を調えたシンプルな味付けの汁です。
骨ごと焼いた鮭から香ばしさがにじみ出て、滋味深い味わいの汁でした。
【チポロシト】
「チポロシト」です。
(チポロシト)
じゃがいもにデンプンを加え、油脂で揚げた「いももち」(エモシト)にイクラをのせた料理です。
「チポロ」は「イクラ」、「シト」は「お餅、団子」という意味です。
イクラをすり鉢ですりつぶしたものを「いももち」と一緒に食べるのが伝統的な食べ方だと教えていただきました。
「いくらなんでも、イクラをすりつぶすなんてもったいない…」と思いましたが、すりつぶすとねっとりとして美味しさが増すのだそうです。
モチモチしたじゃがいものお餅に、ほんのり塩気の効いたイクラがとてもよく合っていました。
【鮭の塩焼き】
「鮭の塩焼き」です。
(鮭の塩焼き)
鮭はアイヌ語で「カムイチェプ(神の魚)」と呼ばれることからもわかるように、アイヌ料理には欠かせない食材の1つです。
ほんのりと塩味が効いた、厚切りの鮭の塩焼きでした。
【北海道ジビエ(ヒグマ・合鴨・エゾシカ)】
北海道ジビエの低温調理ロースト3種盛り(ヒグマ・合鴨・エゾシカ)です。
(北海道ジビエ(ヒグマ・合鴨・エゾシカ))
写真左から、ヒグマ、合鴨、エゾシカです。
ヒグマは、肉に適度な弾力があり、赤身の美味しさを堪能できました。
新鮮だからか、獣臭さが全くないのが不思議でした。
合鴨は赤身がやわらかくクリーミーで、脂身は口の中で溶けてその甘みとコクを楽しめました。
エゾシカは、やわらかくきめ細かい赤身が印象的で、ヒグマと同様に臭みは全く感じられませんでした。
3種のジビエは、いずれも新鮮で肉がやわらかく、そのレベルの高さに驚きました。
お店の看板メニューの1つに違いないと思いました。
ヒグマや鮭を堪能したところで、ふと目の前の置物に目が留まりました。
(熊と鮭の置物)
熊が鮭を食べ、その両方を私が嬉しそうに食べている…。
カムイ(神)は私をどう御覧になっているでしょうか(笑)
「ヒンナヒンナ(感謝、感謝)」
【鮭のルイベ】
続いて、単品料理をいくつかいただきました。
(鮭のルイベ)
鮭の身を凍らせ、厚く切った刺身です。
昆布エキスを抽出した「海水醤油」という透明な調味料でいただきました。
半解凍状態でひんやり冷たく、シャリッ、もちっとした食感を楽しめました。
【プクサ(行者ニンニク)の醤油漬け】
アイヌ料理の代表的な食材の1つに「プクサ(行者ニンニク)」があります。
(プクサ(行者ニンニク))
(藤村久和監修「自然の恵み アイヌのごはん」デーリィマン社 p80の一部を引用)
「キト」、「キトビロ」とも呼ばれる山菜で、ニンニクのような強い香りを持っています。
私は石川県能登地方でいただいたことがあります。
お店のメニューに、このプクサ(行者ニンニク)の料理があったので注文しました。
(プクサ(行者ニンニク)の醤油漬け)
「プクサ(行者ニンニク)の醤油漬け」です。
シャクシャクした食感で甘味があり、「わけぎ」に似ていると思いました。
【シケレペ茶】
シケレペを使ったお茶が御用意されていたので注文しました。
(シケレペ茶(茶器))
「シケレペ」はミカン科の樹木で、和名は「きはだ」です。
茶器のフタを開けて中の様子をのぞいてみましょう。
(シケレペ茶(中身))
湯気とお湯でよくわかりません…(笑)
しばらく抽出させて、カップに注ぎました。
(シケレペ茶)
シケレペ茶は、しょうが茶のような刺激のあるお茶でした。
シケレペの実を取り出してみました。
(シケレペの実)
見た目(色・大きさ・形)は黒い粒コショウのようです。
このシケレペの実について、お店の方から教えていただいたことは、
①たくさん食べるとお腹の調子が悪くなる可能性があるので、食べるなら少量に留めること
②実に「当たりはずれ」があり、ピリピリと辛味を感じる実も混じっていること
でした。
シケレペの実を食べてみると、甘くて柑橘の風味を感じましたが、たまにピリピリと山椒の実のような辛い実がありました。
その辛い実に当たると舌や口の中がしびれ、その状態がしばらく続くことになります。
(ラタシケプとエモシト)
これは国立アイヌ民族博物館に展示されている「ラタシケプ」と「エモシト」のサンプルですが、このラタシケプ(カボチャの和え物)にポツポツと見える黒い点がシケレペです。
シケレペはアイヌ料理に欠かせない食材とされていますが、人によって好き嫌いが分かれるため、最近ではシケレペを使わないケースもあるそうです。
【エントプリン・エント茶】
「エント(なぎなたこうじゅ)」はシソ科の植物で、花が咲いている時に採取し、乾燥保存させ、主にお茶として利用されます。
(エント(なぎなたこうじゅ))
(藤村久和監修「自然の恵み アイヌのごはん」デーリィマン社 p98の一部を引用)
この「エント」から作られた「エントプリン」と「エント茶」のセットをいただきました。
(エントプリンとエント茶)
エント茶は上品な香りがするハーブティーでした。
また、エントプリンには「ほうじ茶プリン」のような香ばしさも感じられました。
まとめ
今回のお店や北海道白老町の「ウポポイ」でたくさんのアイヌ料理を味わい、アイヌの食文化を学ぶことができました。
そこでわかったことは、アイヌの人々は自然の恵み(山菜・果実・魚・肉(ジビエ)・穀物など)をそのまま受け入れ、様々な工夫をして無駄なく食べておられることです。
その根底には、自然の恵みをもたらすカムイ(神)への尊敬や感謝の気持ちがあるでしょう。
アイヌ料理を通じて、北海道の自然の恵みを味わうことができました。
<関連サイト>
「海空のハル」(札幌市中央区南4条西5丁目8 F-45ビル地下1F)
「ウポポイ(民族共生象徴空間)」(北海道白老郡白老町若草町二丁目3)
<関連記事>
「アイヌの食文化研究1 -北海道白老町「ウポポイ」のクンネチュプ・パピリカパイ・ペネイモぜんざい-」
<参考文献>
藤村久和監修「自然の恵み アイヌのごはん」デーリィマン社
萩中美枝・畑井朝子・藤村久和・古原敏弘・村木美幸「聞き書 アイヌの食事」農山漁村文化協会
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へえーアイヌ料理のレストランがあるんですね。
派手さはないけど、シンプルで美味しそうです。
芋好きとしてはチポロシトが食べてみたいですが、北海道ジビエも気になります。
特にヒグマ!
ローストビーフっぽくて、すごく美味しそうです。
投稿: chibiaya | 2023年8月13日 (日) 17時14分
私がお店に行ったら「イランカラキタ?」と言われそう ^o^
イラン事言ってすみませんm(_ _)m
「カムタチ(麹)」はアイヌ語でしょうが「トノト」は語源からして和人由来でしょうか?
出来ればヒメト飲みたいですが ^o^
鯵のチタタプは時々食べますが、鮭のチタタプは食べた事ありません!
縄文人もこんな感じで調理していた?
ヒグマのローストは北海道ならでは!
まさに「食うか食われるか」という感じですね(⌒-⌒; )
投稿: なーまん | 2023年8月13日 (日) 17時16分
chibiaya 様
chibiayaさん、こんばんは!
いつもコメントいただき,ありがとうございます。
今回の北海道旅行では、アイヌ料理をいただくことを大きな目的としていました。
そこでお店を探したところ、今回御紹介した札幌のアイヌ料理店と、白老町の「ウポポイ」へ行くことを決めたというわけです。
今回のお店、新鮮な食材が使われ、お店の方の接客サービスも良かったですよ。
チポロシトは、もっちりとしたジャガイモのドーナツのような感じで、イクラとの相性が抜群でした。
そして一番のおすすめは、おっしゃるとおり北海道ジビエです。
ヒグマの肉は新鮮で臭みがなく、見た目どおりとてもやわらかくて美味しかったです。
合鴨も今まで食べた中でここが一番と思えるほど美味しかったです。
投稿: コウジ菌 | 2023年8月13日 (日) 20時58分
なーまん 様
なーまんさん、イランコトマタユータ!
外出先でコメントを拝見し、周りに人がいる前で思わず笑ってしまいました(^-^)
相変わらずお上手ですね。
「カムタチ(麹)」は、和人の古語と共通しており、「醸す」とか口噛み酒の「噛む」に由来する言葉のようです。
お店の方から、トノトの「トノ」は「殿」だと教えていただきましたが、確証はありませんが、確かに和人由来の言葉っぽいですね。当時の歴史的背景も関係してそうです。
そしてやっぱりヒメトときましたか(笑)
なーまんさんが召し上がるのは鯵のチタタプではなく、鯵のたたきか「なめろう」のことだと思います(笑)
アイヌの人々は、川や海での魚、山の動物、山菜、果実といった昔からの自然の恵みを大切にし、食文化を形成されてきたのでしょうね。
ヒグマに食うか食われるか。
きっとマタギのようなプロの方が狩猟されておられるのでしょうが、私のようなドジな人間は、写真の熊の置物のように、熊に食われた鮭のようになってしまうのでしょうね…。
投稿: コウジ菌 | 2023年8月13日 (日) 21時37分