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2024年4月

2024年4月28日 (日)

京都の「澄まし粉豆腐」と「にがり豆腐」 -「森嘉」の嵯峨豆腐と擬製豆腐・「祇園うえもり」の湯豆腐会席-

京都には2種類の豆腐がある

 京都には2種類の豆腐があることを御存知でしょうか。

 1つは凝固剤に「にがり(塩化マグネシウム)」を使った豆腐、もう1つは凝固剤に「澄まし粉(硫酸カルシウム)」を使った豆腐です。

 今回は、京都で「にがり(塩化マグネシウム)」に代わって「澄まし粉(硫酸カルシウム)」を使った豆腐が作られるようになった歴史的背景と、澄まし粉豆腐を使った料理を御紹介したいと思います。


京都で「にがり豆腐」に代わって「澄まし粉豆腐」が作られるようになった理由

 京都では元々「にがり」を使った豆腐だけが作られていたのですが、その「にがり」が使えなくなる事態が発生しました。

 その原因は、太平洋戦争の戦局悪化に伴う(武器生産に必要な金属資源などの)物資不足を補うため、金属類の回収を行うことを定めた「金属類回収令」にあります。

(金属類回収令(戦争めし))
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 魚乃目三太「戦争めし 命を繋いだ昭和食べ物語 其の弐 豆腐が消えた日」秋田書店から一部引用

(金属類回収令(快盗くいしん坊))
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 ビッグ錠「俺流!絶品めし vol.33 快盗くいしん坊 第32話」ぶんか社から一部引用

 お寺の鐘や学校のストーブ、通天閣の鉄骨まで回収されたようです。

 さらに「金属類回収令」は、豆腐の凝固剤として使われる「にがり(苦汁)」の回収にまで及びました。

(にがりの回収)
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 魚乃目三太「戦争めし 命を繋いだ昭和食べ物語 其の弐 豆腐が消えた日」秋田書店から一部引用

 一見、「にがり」は金属類とは関係がないように思えますが、実は「ジュラルミン」の精製に「にがり」の主成分である塩化マグネシウムが必要とされたのです。

(「にがり」と「ジュラルミン」の関係)
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 魚乃目三太「戦争めし 命を繋いだ昭和食べ物語 其の弐 豆腐が消えた日」秋田書店から一部引用

 「ジュラルミン」は、軽くて強度がある金属なので、日本海軍の戦闘機・ゼロ戦の翼の骨組みなどに用いられました。

(「ジュラルミン」とゼロ戦)
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 魚乃目三太「戦争めし 命を繋いだ昭和食べ物語 其の弐 豆腐が消えた日」秋田書店から一部引用

 「にがり」を使って豆腐を作らず、ゼロ戦が製造されたというわけです。

 ※同様の話として、戦時中、ワイン(の結晶)から作られた兵器「水中聴音機(パッシブソナー・海中の潜水艦などをいち早く探知するための装置)」があります。

 こうして日本中の豆腐屋は「にがり」を入手することが困難となり、戦時中は営業の自粛を余儀なくされました。

 そんな中、満州へ出兵していた京都の豆腐屋出身の兵士が、満州で「豆腐」を見つけます。

 この兵士が地元の人に「豆腐」の作り方を尋ねたところ、中国では豆腐の凝固剤として「石膏のとぎ汁」が使われることがわかりました。

 終戦を迎え、日本(京都)へ帰国したこの兵士は、不足していた「にがり」に代わり、「石膏(澄まし粉・硫酸カルシウム)」を使って豆腐屋の営業を再開することを提案します。

(中国の石膏を使った豆腐の提案)
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 魚乃目三太「戦争めし 命を繋いだ昭和食べ物語 其の弐 豆腐が消えた日」秋田書店から一部引用

 やがて、石膏を使った豆腐は「つるっとして食べやすい」と評判になり、嵯峨・嵐山周辺の精進料理や湯豆腐に使われるようになりました。

 さらに、川端康成が小説「古都」で澄まし粉を使った豆腐を紹介したこともあって、京都の豆腐は全国的に有名になりました。


嵯峨豆腐「森嘉」

 京都の澄まし粉豆腐を求めて、嵯峨嵐山を訪問しました。

(221系と223系・嵯峨嵐山駅)
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 近畿エリアの代表的なJR車両、221系(写真左)と223系(写真右)の連結車両です。

(嵐山・渡月橋)
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 嵐山の渡月橋(とげつきょう)周辺は観光客、とりわけ外国人観光客でとても賑わっていました。

 嵐山の観光地を離れ、嵯峨野の街を北へ向かってしばらく歩いたところに、澄まし粉豆腐を販売されているお店・嵯峨豆腐「森嘉(もりか)」があります。

(嵯峨豆腐「森嘉」店舗)
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 豆腐を買い求めるお客さんで賑わっていました。

(森嘉豆腐・商品案内)
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 嵯峨豆腐のほか、油揚げ、厚揚げ、ひろうす(がんも)など、数多くの商品が販売されています。

(嵯峨豆腐「森嘉」・店内の様子)
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 豆腐製造場の一部が販売スペースとなっています。

 嵯峨豆腐には、「大」・「小」(一般的な豆腐パックの大きさ)・「はだか」と3種類あり、地元の方は「大」を購入される方を多く見かけました。

 湯豆腐を作られるのでしょう。

 私は「嵯峨豆腐」(小)と「擬製豆腐(ぎせどうふ)」を購入しました。

 このお店のすぐそばにあるお寺「清涼寺(せいりょうじ)」へも行ってみました。

(清涼寺(嵯峨釈迦堂))
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 お釈迦様と光源氏にゆかりのあるお寺です。

 このお寺の境内には、嵯峨豆腐が食べられるお店「竹仙(ちくせん)」があります。

(清涼寺「竹仙」)
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 また、「森嘉」の向かいにも嵯峨豆腐が食べられるお店「おきな」があります。

(嵯峨「おきな」)
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 嵯峨豆腐「森嘉」の豆腐(澄まし粉豆腐)を取り扱っておられる飲食店は、嵯峨嵐山を中心に20店舗以上あります。


「祇園うえもり」の湯豆腐会席

 その日の夕方、澄まし粉豆腐の料理を味わうため、四条河原町から歩いて祇園を目指しました。

(四条・川端通り(八坂神社方面))
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 学生時代は京都に住んでいましたが、木屋町や河原町でのコンパ(飲み会)しか経験のない私にとって、祇園は全く縁のない街でした。

 ネクタイを締め、ジャケットを着用して、少し緊張しながらお店を訪問しました。

(「祇園うえもり」店舗)
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 こちらが祇園で澄まし粉豆腐(森嘉の嵯峨豆腐)を取り扱っておられるお店「祇園うえもり」です。

 カウンター席を御案内いただきました。

 目の前で板前さんが料理される姿を拝見しながら食事ができるのがカウンター席の魅力です。

 あらかじめ予約しておいた「湯豆腐と湯葉の会席」をいただきました。

(湯葉炊き)
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 湯葉炊きです。クコの実とおろしわさびが添えられています。

 何層にも重ねられた湯葉は、プツンプツンと心地よい歯応えがあり、美味しい出汁をたっぷりと含んでいました。

 続いて、湯葉と鮪の刺身が用意されました。

(湯葉と鮪の刺身)
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 湯葉の刺身は適度な弾力があり、濃厚な大豆の味を楽しめました。

 鮪は中トロの刺身で、いいもの・美味しいものを食べてほしいという、お店の意気込みを感じました。

 そしていよいよ、湯豆腐の登場です。

(湯豆腐桶)
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 目の前に湯豆腐桶がセットされました。

 下部にある固形燃料から発する火で、豆腐などの具が加熱されています。

 手前の褐色のビンには湯豆腐の「たれ」が入っています。

 しばらく待っていると、食べ頃を迎えました。

(湯葉と湯豆腐)
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 木のフタを開けると、モワッと蒸気が漂いました。

 豆腐の上に湯葉がのせられています。

 小さな金網で湯豆腐をすくい、たれを注いだ小皿に入れました。

(湯豆腐(祇園うえもり))
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 これが澄まし粉豆腐(森嘉の豆腐)を使った湯豆腐です。

 澄まし粉豆腐の特徴は、ツルンとして、とてもやわらかいことです。

 まさに湯豆腐に最適な豆腐で、大豆の濃厚な風味と、とろけるような食感を味わうことができました。

 ただ、湯豆腐がとてもやわらかいので、箸で持ち上げるのに苦労しました。

 箸の扱いに慣れていない外国人観光客はなおさら難しいのではないかと、板前さんに質問してみました。

 すると、やはり「(湯豆腐を食べるのに)スプーンを求められるお客様が多く、外国からおいでのお客様はほぼ全員スプーンで召し上がります」とのことでした。

(ひろうす 湯葉あんかけ)
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 こちらは「ひろうす」の湯葉あんかけです。

 「ひろうす」は,つぶした豆腐に野菜を中心とした様々な具を詰めて油で揚げたもので,「飛竜頭(ひりょうず・ひりゅうず)」,さかのぼればポルトガルの揚げ菓子「フィリョース」がその名の由来とされています。

 いわゆる「がんも」,「がんもどき」のことです。

 今回の料理は、「森嘉」の銀杏とゆり根を包んだ「ひろうす」に、刻んだ湯葉のあんかけをかけた一品です。

 やわらかい湯豆腐とは対照的に、弾力があり、揚げた豆腐の旨味がぎゅっと凝縮されていました。


 このほか、天ぷらの盛合せ、ちりめん山椒ごはん・赤だし・漬物、デザートとしてチョコレートムースをいただき、大満足の会席でした。


森嘉の嵯峨豆腐(寄せ鍋・湯豆腐)・擬製豆腐

 後日、「森嘉」で購入した豆腐を味わってみました。

(森嘉の嵯峨豆腐(パック))
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 こちらは森嘉の嵯峨豆腐(小パック)です。

 この豆腐で寄せ鍋を作りました。

(嵯峨豆腐の寄せ鍋)
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 寄せ鍋のだしをたっぷりと含み、ふっくらとした豆腐に仕上がりました。

 豆腐はおたまですくわないと鍋の中で崩れてしまいますが…(笑)

 鍋に昆布を敷き、湯豆腐でも楽しみました。

(嵯峨豆腐の湯豆腐(鍋))
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 湯豆腐にはまとまった量の豆腐が必要となること、そのためには嵯峨豆腐(小)よりも嵯峨豆腐(大)の方が適していることが理解できました。

 醤油に広島県産の紅八朔(べにはっさく)の絞り汁を加えたポン酢でいただきました。

(嵯峨豆腐の湯豆腐)
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 だし汁をたっぷりと含み、ふわふわで繊細な湯豆腐を味わえました。

 これは澄まし粉豆腐ならではの味わいです。

 その優しい味わいに、体も心も温まる湯豆腐でした。

 擬製豆腐もいただきました。

(擬製豆腐(包装))
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 森嘉の店頭で時間をかけて丁寧に包装していただきました。

(擬製豆腐)
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 ずっしりと重たく、表面は厚焼き玉子のようです。

 表面にけしの実がまぶされています。

 一口サイズに切り分けました。

(擬製豆腐(切り分け))
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 見た目は焼き豆腐のようですが、甘い厚焼き玉子のような味のお菓子です。

 豆腐にかなりの圧力がかけられているからか、かまぼこのような弾力があります。

 和菓子の「松風(まつかぜ)」にも似ていると思いました。

 ほんのり甘い、上品でヘルシーな豆腐菓子です。


まとめ

 今回は京都の「澄まし粉豆腐」を中心に御紹介しましたが、左京区の南禅寺周辺では「にがり豆腐」を使った湯豆腐が提供されています。

 つまり、現在の京都では「にがり豆腐」を使った湯豆腐と「澄まし粉豆腐」を使った湯豆腐の食べ比べができるのです。

 「にがり豆腐」と「澄まし粉豆腐」

 それぞれの良さがあり、まさに甲乙つけがたいのですが、食感の違いから、判別はしやすいと思います。

 京都に住んでいた頃、スーパーやコンビニで豆腐を買う際に「京都の豆腐はサイズが大きいな」と思いましたが、今になってみれば、それだけ京都では豆腐が愛され、たくさん食べられている証拠なのだと思います。

 京都での同窓会の折、地元京都出身の同級生から発せられた言葉が衝撃的でした。

 私が「嵯峨には澄まし粉豆腐のお店があって、今朝そのお店へ行ってね…」と自慢たっぷりに話したところ、それを聞いた彼女は澄ました顔でこう言ったのです。

 「えっ、知ってるわ。当たり前やん!」

 それを聞いた私は、凝固剤を入れた豆腐のように一瞬で固まりました(笑)

 地元京都では有名な話のようです…。


<関連サイト>
 「豆腐の添加物を知る」(一般財団法人全国豆腐連合会)
 「戦時中のワイン造りの奨励」(国税庁・税の歴史クイズ)
 「嵯峨豆腐 森嘉」(京都市右京区嵯峨釈迦堂藤ノ木町42)
 「清涼寺(嵯峨釈迦堂)」(京都市右京区嵯峨釈迦堂藤ノ木町46)
 「清凉寺 竹仙」(京都市右京区嵯峨釈迦堂藤ノ木町46)
 「嵯峨 おきな」(京都市右京区嵯峨釈迦堂大門町11)
 「祇園うえもり」(京都市東山区祇園町南側570-6)

<参考文献>
 魚乃目三太「戦争めし 命を繋いだ昭和食べ物語 其の弐 豆腐が消えた日」秋田書店
 ビッグ錠「俺流!絶品めし vol.33 快盗くいしん坊 第32話」ぶんか社

2024年4月21日 (日)

菓子パン「アベック」の謎に迫る1 -ニシカワ食品「アベック」・岡野製パン所「アベックパン」-

「アベック」の意味

 「アベック」は、フランス語で「avec」と表記し、「~と、~と一緒に」という意味を持つ言葉です。

 英語の「with(ウィズ)」と同じ意味となります。

 この「アベック」という言葉は、かつて日本では「恋人」という意味で使われていました。

 現在では「カップル」という言い方が一般的で、「アベック」という言い方はすっかり昭和の言葉となってしまいましたが、今でも少数ながら「アベック」を使う方もおられます。

 私としては、「カップル」という言葉には「一般的、あっさり」というニュアンスが、「アベック」という言葉には「懐かしの、じめじめ、ベタベタ」というニュアンスが込められている印象があります。

 そして「パートナー」とか「ペア」という言葉になると、「アベック」のニュアンスからはますます遠ざかるようにも思います。

 そんな複雑な事情を抱える「アベック」という言葉を、あえて商品名にされている菓子パンを見つけました。

 今回は、私が見つけた「アベック」パンを2つ御紹介し、最後にパンの名称「アベック」に込められた意味についても検証してみたいと思います。


ニシカワパン「アベック」

 兵庫県加古川市の「ニシカワ食品」から、「アベック」という菓子パンが販売されています。

 広島市中区の「パントリー そごう広島店」で購入しました。

(アベック(包装))
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 金色の文字で「アベック」、「ミルク風味のクリームを折り込んで焼き上げたパンにミルクホイップを絞り チョコで仕上げました」と説明書きがあります。

 袋を開けてみましょう。

(アベック)
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 長さ約11cm、幅約7cm、高さ約6.5cmのパンです。

 パンの間にホイップクリームが詰められ、その上にチョコレートがコーティングされています。

(アベック(真上))
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 真上から眺めると、キスを求める唇のようにも見えます。

(アベック(断面))
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 断面を見ると、パンがハート形に見えます。

 そのパンの谷間には、ホイップクリームがぎっしり詰められていることがわかります。

 コッペパン(ロールパン)にホイップクリームをサンドし、チョコレートでコーティングした「銀チョコ(ロール)」とよく似ています。

 ユニークな形をしたパンなので、パンを裏返してみました。

(アベック(底面))
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 平たい円形のパンに切れ目を入れ、その切れ目で半分に折り返してボリューム感のある立体型に仕上げられていることがわかりました。

 ここが「銀チョコ(ロール)」との違いです。

 ずっしりとして、とてもボリュームがあるパンのように見えますが、パンがフワフワでとても軽いので、意外とすんなりいただけました。

 その軽いパンがホイップクリームとチョコレートをうまく受け止め、エクレアのような感覚で美味しくいただけました。

 ニシカワ食品のウェブサイトでは「アベック」について、「1980年代の登場から「ずっと仲良し」スイーツなパン」、「コーヒー・紅茶もとても仲良し」と紹介されています。

 チョコレートとホイップクリームが出会い、パンの上で「仲良く」一緒になった、みんなに愛される菓子パンです。


岡野製パン所「アベックパン」

 広島県尾道市因島で創業し、同県福山市に本社を構える「岡野製パン所」から、「アベックパン」という菓子パンが販売されています。

 広島県三原市の「フジグラン三原店」で購入しました。

(アベックパン(包装))
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 この「アベックパン」のデザイン、フォント、色…まさに「アベック」と呼ばれた時代のイメージそのものです。

 よく見ると、袋に大きく「AVEC」と記載されています。

 袋にホイップクリームやチョコレートがベタベタついているのも、これまた「アベック」感を出しています(笑)

 開封しました。

(アベックパン)
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 長さ約17cm、幅約7cm、高さ約4.5cmのパンです。

 パンの間にホイップクリームが詰められ、チョコレートとホワイトチョコレートがコーティングされています。

 ホイップクリームはチョコレートがコーティングされたあとにのせられています。

(アベックパン(断面))
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 半分に切ってみると、やはりパンがハート形に見え、そのパンの谷間にホイップクリームがぎっしり詰められています。

 ホイップクリームと2種類のチョコレートの「アベック」です。

 パンの底を確かめてみました。

(アベックパン(底面))
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 こちらもパンに切れ目を入れて二つ折りになされています。

 1つのパンが寄り添うのも「アベック」と呼ばれる理由の1つかも知れません。

 見た目からドーナツのような重い生地のパンをイメージしましたが、実際にいただいてみると、そのイメージとは裏腹に、クロワッサンのような軽い生地のパンでした。

 パンを軽めの生地にした方が、ホイップクリームやチョコレートとのバランスがとれるからでしょう。

 食べ進めるうち、このパンはホイップクリームと2種類のチョコレートだけではないことに気付きました。

 パンの中にさらに「つぶあん」が練り込まれているのです。

 どこに入っているのか、次の図解を御覧ください。

(アベックパン(図解))
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 ※画像をクリックすると拡大します。

 アベックどころの話じゃない複雑な関係が展開されています(笑)

 ホイップクリームとチョコレート、ホイップクリームとあんこ、いずれも相性抜群の「アベック」なので、これらを一度にいただくと、美味しさもお得感も飛躍的にアップしました。


まとめ

 今回は「アベック」という菓子パンについて検証しましたが、現在主流の「銀チョコ(ロール)」も含め、チョコレートとホイップクリームを組み合わせたパンは、今も昔も不動の人気であることは間違いありません。

 「アベック(パン)」は、その見た目や組合せから、洋菓子の「エクレア」にヒントを得たパンではないかとも思います。

 「アベック(パン)」ではなく「カップルパン」と呼べばより親しみがわくかと言われたら、そんな感じもせず、やはり今はほとんど使われなくなった「アベック」という言葉だからこそ、インパクトや話題性を持つパンなのだと思います。

 まとめると、菓子パンの「アベック」という名称には、
①1つの丸いパンが身を寄せ合い
②その形が唇やハートに見え
③ホイップクリームとチョコレートが出会い
④コーヒーや紅茶とも仲良く
⑤時代を超えて長年愛され続けたい
という意味が込められているように思います。

 また、秋田の「たけや製パン」では食パンにジャムとマーガリンを組み合わせた「アベックトースト」というロングセラーパンも販売されています。

 「アベック」は、時代を超えてパンの世界で受け継がれ、愛され続けているのです。


<関連サイト>
 「ニシカワ食品」(兵庫県加古川市野口町長砂799番地)
 「岡野製パン所」(広島県福山市神村町3120-1)
 「アベックトースト」(たけや製パン・秋田県秋田市川尻町字大川反233-60

2024年4月19日 (金)

広島のレモン菓子・レモンケーキ22 -呉市「NISHIMAKI」(シャルロット)の「まんまるレモンケーキ」-

タイムスリップイベント「クレトロ巡り」

 2024年3月24日(日)に、広島県呉市で呉海軍グルメと呉のレトロスポットを楽しむタイムスリップイベント「クレトロ巡り」(呉海軍グルメ研究会主催)が開催されました。

(「クレトロ巡り」チラシ)
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 私は呉YWCAで開催された「クレハイカラお茶会」に参加したり、ジャズや尺八の演奏を楽しんだりして、半日のんびりと過ごしました。

(呉YWCA2階・コーヒー)
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 館内では、着物・礼服・旧海軍の制服などで着飾った人々が思い思いの場所で写真撮影を楽しんでおられました。

 私はお茶席の合間に呉YWCA館内でコーヒーを飲んでくつろぐなど、和洋ごちゃ混ぜのハイカラな1日を過ごしました。

 呉YWCAの受付で手作りクッキーが販売されていました。

(呉YWCAで購入したクッキー)
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 ザクザクとした手作り感満載の美味しいバタークッキーでした。


NISHIMAKI(シャルロット)のまんまるレモンケーキ

 イベントに参加した後、呉YWCAに近いレストラン「NISHIMAKI」を目指しました。

 「NISHIMAKI(シャルロット)」のレモンケーキを購入するためです。

 しかしながら、お店の場所がよくわからず、呉駅まで戻ってしまいました。

 呉駅近くのショッピングセンター「ゆめタウン呉」で買い物して帰ろうと、食品売場を見て回っていると…呉銘菓のコーナーでNISHIMAKIの総菜やレモンケーキが販売されていました。

 一度はあきらめていただけに、喜びもひとしおでした。

(NISHIMAKI(シャルロット)のまんまるレモンケーキ(包装))
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 このレモンケーキの大きな特徴は、何と言ってもその形です。

 丸くてレモンチョコレートがかかったレモンケーキは珍しいです。

(NISHIMAKI(シャルロット)のまんまるレモンケーキ)
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 直径約6cm、高さ約3.5cmの丸いレモンケーキです。

 千葉・幕張メッセで開催された「スーパーマーケットトレードショー」にも出品され、好評だったようです。

(NISHIMAKI(シャルロット)のまんまるレモンケーキ(中身))
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 ケーキ生地に、レモンチョコレートが厚めにコーティングされています。

(NISHIMAKI(シャルロット)のまんまるレモンケーキ(底面))
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 レモンケーキの底も、こんがりと美味しそうな焼き色が付いています。

 しっとりとしたケーキ生地で、アーモンドと洋酒の香りが効いていました。

 レモンチョコレートにもレモンの酸味がしっかり効いており、レモンケーキを食べたという満足感がありました。

 瀬戸内の太陽をイメージするようなレモンケーキです。


<関連サイト>
 「呉海軍グルメ研究会」(月刊くれえばん編集室)
 「呉YWCA」(広島県呉市幸町3-1)
 「おうちレストランNISHIMAKI」(広島県呉市中通一丁目3-20 小柴ビル)

2024年4月14日 (日)

東京會舘の「舌平目の洋酒蒸 ボンファム」と「マロンシャンテリー」

 東京・日本橋、日本橋三越本店の本館7階にある「特別食堂日本橋」を訪問しました。

 このお店では、東京會舘の伝統的な料理やデザートを味わうことが出来ます。

 今回は、東京會舘の伝統的な料理・デザートを御紹介します。


本日のスープ(カボチャのポタージュ)

 本日のスープとして、カボチャのポタージュが提供されました。

(本日のスープ(カボチャのポタージュ))
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 カボチャの甘みとコクが楽しめる、濃厚なポタージュでした。


舌平目の洋酒蒸 ボンファム

 東京會舘の代表的な料理の1つに「舌平目の洋酒蒸 ボンファム」があります。

 舌平目とシャンピニオン(マッシュルーム)を白ワインと魚の出汁で煮込み、さらに卵黄とバターたっぷりの「オランデーズソース」をかけてオーブンで焼き色を付けた料理です。

 この料理はとても手間がかかります。

 料理のベースとなるフォン(だし)やソースだけでも、①魚の「あら」からとったフォン「フュメ・ド・ポワソン」、②フュメ・ド・ポワソンに白ワインや生クリーム・バターなどを加えた「ヴァンブランソース(白ワインソース)」、③卵黄やバターで作った「オランデーズソース」を用意する必要があるのです。

 こうして作られる濃厚で重いソースは、正統派・クラシックフレンチの特徴でもあります。

 「舌平目の洋酒蒸 ボンファム」がテーブルに運ばれてきました。

(舌平目の洋酒蒸 ボンファム)
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 お皿の中心に舌平目を置き、その周りに刻んだシャンピニオン入りのソースがたっぷりとかけられています。

(舌平目の洋酒蒸 ボンファム(接写))
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 焼き色が付けられたソースから香ばしいバターの香りが漂い、食欲がそそられました。

 舌平目は、ふっくらとジューシーに焼き上げられています。

 舌平目の淡白な白身と、バタークリームをベースにした濃厚なソースの相性が抜群でした。

 この料理のもう1つのお楽しみは、ライス(またはパン)との組合せです。

 私はライスを選びました。

 ライスとソースを交互にいただくのも美味しいのですが、ライスをソースに混ぜていただくのもおすすめです。

(舌平目の洋酒蒸 ボンファムとライス)
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 少々お行儀が悪いですが、こうしてソースの上にライスをのせ…

(ライスにソースを混ぜ合わせた様子)
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 ライスにソースを混ぜ合わせます。

 濃厚なクリームシチューにご飯を混ぜたような味わいで、あまりの美味しさに、あっという間に食べ尽くしてしまいました。

【「ボンファム」の意味を考える】

 「ボンファム」はフランス語で「Bonne Femme」と表記されます。

 日本語に直訳すれば「良い女性」で、料理名では「貴婦人風」・「良い妻風」・「おふくろ風」などと訳されています。

 念のため手元の仏和辞典で調べてみると、「bonne femme」は口語で「おばさん」と訳されていました。

 貴婦人からおばさんまで訳し方によって随分違いがあります(笑)

 「貴婦人」には「dame(ダム)」という表現もあることから、私としては、この料理には「(こなれた・仕立ての良い)お母さん・おふくろの味」といった意味をあてるのが適当ではないかと思います。


マロンシャンテリー

 デザートとして、東京會舘の代表的なお菓子「マロンシャンテリー」をいただきました。

(マロンシャンテリーとコーヒー)
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 マロンシャンテリーは、東京會舘の初代菓子長がモンブランを日本人向けにアレンジしたお菓子です。

(マロンシャンテリー)
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 東京會舘のマロンシャンテリーと言えば、この生クリームの外観が有名ですが、中身がどうなっているのかも気になります。

(マロンシャンテリー(中身))
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 マロンシャンテリーの中身はこんな感じになっています。

 そぼろ状にした黄色い栗のペーストが入っています。

 黄色いモンブランのマロンクリームと生クリームを逆に盛り付けたようなお菓子です。

 この栗ペーストは、和菓子の「きんとん(そぼろ状のあんこ)」とよく似ており、和菓子の要素を組み入れた洋菓子だと思いました。

 甘くてほろりとした栗のペーストを、生クリームがしっかりと受け止めてくれる、東京會舘オリジナルのお菓子です。


<関連サイト>
 「東京會舘」(特別食堂日本橋・東京都中央区日本橋室町1-4-1 日本橋三越本店本館7Fほか)

<参考文献>
 辻調理師専門学校監修「基礎からわかるフランス料理」柴田書店

2024年4月 7日 (日)

ポーランド料理の特徴と主な料理2 -ラツーシュキ・プラツキ・トファルク・トマト入りスクランブルエッグ・キェウバサ・シャルロトカ-

ポーランドの朝ごはんプレート

 東京・外苑前の「World Breakfast Allday」(ワールド・ブレックファスト・オールデイ)を訪問しました。

 2024年2月・3月のスペシャルメニューは、「ポーランドの朝ごはん」です。

(ポーランドの朝ごはんプレート)
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 今回は、この「ポーランドの朝ごはん」を御紹介します。


【ラツーシュキ】

 ポーランドの代表的な果物としてリンゴが挙げられます。

 「ラツーシュキ」は、そのリンゴが入った甘いパンケーキです。

(ラツーシュキ)
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 表面はサクサク、中はフワフワのパンケーキです。

 パンケーキの中には、角切りのリンゴが入っており、おやつ感覚でいただきました。


【プラツキ】

 ポーランドの代表的な食材の1つにジャガイモがあります。

 「プラツキ」は、すりおろしたジャガイモをフライパンで焼いたパンケーキです。

(プラツキ)
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 ハッシュドポテトのようなザクザク感が楽しめました。

 塩気と酸味のあるサワークリームを添えると、より一層美味しくいただけました。


【トファルク】

 「トファルク」は、生乳を軽く発酵させて作られる、酸味の効いた白いフレッシュチーズ(カッテージチーズ)です。

 今回は、ラディッシュや白ネギを混ぜ、パンにのせた状態で提供されました。

(トファルクとパン)
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 軽く黒コショウを振り、ディルが添えられています。

 さっぱりとして、ほのかに塩気と酸味が感じられるフレッシュチーズで、野菜やパンとの相性も抜群でした。


【トマト入りスクランブルエッグ】

 プレートにトマト入りのスクランブルエッグがありました。

(トマト入りスクランブルエッグ)
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 トマトの旨味が加わった、トロトロのスクランブルエッグでした。


【キェウバサ】

 「キェウバサ」は、ポーランド語で「ソーセージ」を意味します。

(キェウバサ)
Photo_20240407075001

 今回は、ソフトな食感の粗挽きソーセージが提供されました。

 ソーセージと言えばドイツをイメージしますが、ポーランドでも数多くのソーセージが食べられています。


シャルロトカ

 食後のデザートとして、「シャルロトカ」を注文しました。

 「シャルロトカ」は、ポーランドのリンゴケーキです。

(シャルロトカ)
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 バニラアイスとミントが添えられています。

 表面はホロホロのクランブル(※)、中はリンゴを褐色になるまで煮詰めたコンポート(リンゴジャム)、底はサクサクのタルト生地で、アップルクランブルタルトに似たお菓子でした。
 ※小麦粉、バター、砂糖などをそぼろ状に混ぜ合わせた生地。シュトロイゼル。

 ポーランドは「セルニク(セルニック)」と呼ばれるチーズケーキも有名で、セルニクとシャルロトカがポーランドの代表的なケーキとなっています。


<関連リンク>
 「World Breakfast Allday」(外苑前店・東京都渋谷区神宮前3-1-23-1F ほか)

<関連記事>
 「ポーランド料理の特徴と主な料理1 -ピエロギ・ビゴス風スープ・チョコとベリーのケーキ,食の多様化と食堂車-

<参考文献>
 沼野恭子編「世界を食べよう!東京外国語大学の世界料理」(東京外国語大学出版会)

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