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2024年5月 5日 (日)

多磨全生園「お食事処なごみ」と映画「あん」・国立ハンセン病資料館 -森の釜めし・旅する小豆たち・ハンセン病療養所の食・白桃クリームパン-

多磨全生園(たまぜんしょうえん)

 東京都東村山市にある国立療養所「多磨全生園」・国立ハンセン病資料館を訪問しました。

 西武鉄道・池袋駅から池袋線の電車に乗り、秋津駅で下車しました。

(西武鉄道・秋津駅)
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 多磨全生園へは、近隣の駅から相当な距離があることから、バスを利用するのが一般的ですが、私は街の散策も兼ねて、秋津駅から徒歩で向かいました。

 そのため、多磨全生園まで約20分かかかりました。

 多磨全生園は、かつては隔離された施設でしたが、現在は居住区など一部の施設を除き、一般にも開放されています。

(「多磨全生園」入口)
Photo_20240505135901

 入口にはたくさんのお願い・注意事項が示されており、マナーを守って入園する必要があります。

 園内に入ってしばらく歩くと、総合案内図がありました。

(「多磨全生園」総合案内図)
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 総合案内図で食堂(お食事処なごみ)の場所を確かめ、その食堂を目指しながら散策しました。


「お食事処なごみ」の「森の釜めし」と「旅する小豆たち」

 「お食事処なごみ」に到着しました。

(「お食事処なごみ」店舗)
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 入所者の皆さんのための食堂ですが、一般にも開放されています。

(「お食事処なごみ」店舗の様子)
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 柘植 文「森の釜めし」(少年画報社「ひとりごはん No.17」)から一部引用

 店内の様子は、この絵のとおりです。

 客席のうち、半分がテーブル席、半分が座敷席となっています。

 テーブル席に着き、テーブルに置かれていたメニュー表を眺めました。

 しばらく考えたのち、「森の釜めし」(とり五目釜めし)を注文しました。

 お店の方から「釜めしは約20分かかりますが、よろしいですか?」と尋ねられたので、私は「あっ、大丈夫です」とお答えしました。

 釜めしが炊き上がるのを待つ間、店内を見学させていただきました。

(映画「あん」関連品展示コーナー)
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 樹木希林さん主演の映画「あん」の関連品が展示されていました。

 この食堂が映画のロケ地となったからです。

 映画製作時に樹木希林さんと市原悦子さんが愛用された急須、湯呑み、マグカップがラップをかけて展示されていました。

 再び席に戻り、パンフレットを読みながら、のんびりと出来上がりを待ちました。

 その時、後ろから「アイーン!」という声が聞こえてきました。

 「えっ、志村けん?」

 振り向くと、ソフトクリームを買いに来た親子がおられ、キャッシュレス決済をされているところでした。

 「アイーン」という声は、東村山市のキャッシュレス決済「アインPay」の決済音のようです。

 名称の「アイン」は、地域愛の「アイ」とコインの「イン」に由来すると説明されていますが…私には、東村山市出身の志村けんさんの名言を意識して作られているようにしか思えません(笑)

 クスクス笑いながら過ごしていると、釜めしが運ばれてきました。

(森の釜めし(とり五目釜めし)セット)
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 お釜でじっくり炊き上げた釜めしに、味噌汁と漬物がセットになっています。

(森の釜めし(とり五目釜めし))
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 具は鶏肉、しめじ、人参、ゴボウ、タケノコ、絹さやです。

 人参と絹さやが、赤い花のように見えます。

 鶏肉と野菜の旨味がご飯にたっぷり染み込んだ、具だくさんの釜めしでした。

 釜めしを味わった後、ぜんざいも注文しました。

(ぜんざい「旅する小豆たち」(店舗))
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 お店の方がぜんざいを持って来られた際、しみじみと「ここのぜんざいは美味しいですよー」と教えてくださいました。

 とろりとして、ほど良い甘さのぜんざい、モチモチの白玉、ぜんざいの甘さを引き立たせる塩昆布。

 思わず「アイーン!」と声に出したくなるような、美味しいぜんざいでした。


人権の森と国立ハンセン病資料館

 食事を済ませ、園内を散策しました。

 人と出会う度にあいさつを交わし、清々しい気持ちになりました。

(「いのちとこころの人権の森宣言」の碑)
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 多磨全生園の散歩道は「人権の森」と呼ばれ、いのちとこころの人権の学びの場となっています。

 その「人権の森」の中に「国立ハンセン病資料館」があります。

(国立ハンセン病資料館)
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 館内には、ハンセン病対策の歴史や療養所での暮らしなどが展示・紹介されています。

 今回学んだことをいくつか御紹介します。

・1907年頃、国と県が療養所をつくってハンセン病患者を閉じ込める政策を開始した

・1930年頃、国はすべてのハンセン病患者を療養所に閉じ込めてしまうことにした(絶対隔離)

・いったん入所した患者は死ぬまで外に出られず、家にも帰れないようにした(終生隔離)

・それぞれの県で、どこが早くすべての患者を療養所に入れてしまえるか競争した(無癩県運動)

・各療養所に、逃亡を試みたり、職員へ反抗した患者を閉じ込めるための監禁室が作られた

・入所者が療養所から逃げ出さないよう、持参金を取り上げられ、療養所の中でしか使えないお金(※)に換えさせられた
 ※「園内通用券」と呼ばれた。多磨全生園では1952年まで使用

・治療薬「プロミン」が出るまで、ハンセン病の治療には大風子油(※)の筋肉注射しかなかった
 ※大風子(たいふうし)という木の種からとった油。効果は不明

・入所者は病気を治すどころか、食事の支度や洗濯、重病患者のお世話などの労働「患者作業」をさせられた

・入所者の給料はわずかで、入所者へ食べ物や包帯を買うためのお金が原資とされたため、給料の支払いが増えると、逆に入所者の食べ物や包帯を買うお金が減ることとなった

・入所者が子どもを産むことは許されず、断種・中絶手術が行われた

・亡くなって火葬されても家のお墓に入れず、園内の納骨堂に眠っている人がたくさんおられる


ハンセン病療養所の食とショッピングセンター「多磨」

 国立ハンセン病資料館で「隔離の中の食 -生きるために 悦びのために-」という冊子をいただきました。

 ハンセン病患者・療養所の食についても、いくつか御紹介します。

・ハンセン病で味覚と嗅覚が冒されることはほとんどない

・隔離された環境で暮らす人々にとって、食は数少ない楽しみの1つ

・かつては園内で野菜や果物の栽培、養鶏・養豚が行われた

・大量の主食(麦飯)に味噌汁・漬物・わずかなおかずが付く程度の献立、一汁一菜の献立が長く続いた

・様々なおかずが作られるようになったのは、食料事情が安定する1960~1970年代以降

・症状や後遺症の重い患者へは、職員が食事を介助したり、食材をすりおろして提供したり、自助具付きスプーン・フォーク・湯呑みが支給されたり、プラスチックの食器が用いられたりした

・食材を調理前に受け取り、自分で調理する(例:「焼き魚」→生の魚を自分で焼く、「ご飯」→米を自分で炊く(※))人もおられる
 ※「現品支給」と呼ばれる

・自分のお金で好きな食品を買って食べる「補食」が認められるようになり、園内に売店も設置された


 売店はその後、スーパーマーケット化され、現在はショッピングセンター「多磨」として営業されています。

 このショッピングセンター「多磨」は、「お食事処なごみ」の隣にあります。

(ショッピングセンター「多磨」)
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 店内では食料品や日用品など様々な商品が販売されています。

 私は地元のパン屋さんで作られた菓子パンを購入しました。

(白桃クリームパン(包装))
Photo_20240505150001

 商品のパンが、スーパーなどで見かけるロール型のポリ袋に入っているところに味があります。

 包装がポリ袋で、周りに商品案内もなかったので、お店の方にどんなパンなのか尋ねると、「おそらく白桃ホイップクリーム入りのパンだと思います」とのお話でした。

(白桃クリームパン(中身))
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 ホイップクリームと白桃クリームの二層で、白桃クリームの中には細かくカットされた白桃がザクザク入っており、予想を大きく上回る美味しさでした。


「旅する小豆たち」と映画「あん」

 「お食事処なごみ」で会計をする際、お土産用ぜんざい「旅する小豆たち」も購入しました。

(ぜんざい「旅する小豆たち」(お土産用・包装))
Photo_20240505150901

 その際、お店の方から「映画「あん」は御覧になりましたか?」と問われ、私は「あ、いえ、まだ観てません」とお答えしました。

 するとお店の方から「ぜひ御覧ください。この店も登場しますから」とお話があったので、私は「あ、ぜひ映画も観てみます」とお話しし、お店を後にしました。

 後日、映画「あん」を観賞しました。

 どら焼き屋を営む千太郎(永瀬正敏)のもとに、徳江(樹木希林)が訪れ、そのお店で働くことを懇願します。

 千太郎は当初、老齢の徳江を雇うつもりはなかったのですが、徳江が持ち寄った小豆あんを食べて、その美味しさに考えが一変し、徳江に働いてもらうこととなりました。

 次第に徳江の作るあんこの味が評判となり、開店前からお客さんが列をなすほど人気店になったのですが…

 徳江の変形した手に気づいた人から、ハンセン病患者だという噂が街で広まったのです。

 ハンセン病への偏見から、やがてお客さんは遠のき、その異変に気付いた徳江は辞職し、療養所に戻ってしまいます。

 徳江を引き留められなかったことを悔いた千太郎は、常連客のワカナ(内田伽羅)とともに徳江の住む療養所(多磨全生園)を訪問するようになりますが、ある日突然、徳江は亡くなってしまいます…


 徳江はあんこを作る際、小豆に語りかけたり、小豆の声を聴いたりと、小豆に愛情をたっぷり注ぐのですが、それが美味しさの秘密だったというわけです。

 ぜんざいの商品名「旅する小豆たち」も、「小豆がやってきた旅の話を聴いてあげる」ことに由来するようです。

 映画「あん」を観賞してから、ぜんざい「旅する小豆たち」をいただきました。

 包装紙を広げてみると…

(ぜんざい「旅する小豆たち」(お土産用・包装紙とレトルトパウチ))
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 包装紙の裏側には、映画「あん」と「お食事処なごみ」について、写真入りで詳しく紹介されていました。

 映画を観て、改めて気付いたことも多かったです。

 レトルトパウチを開け、ぜんざいをお椀に盛りました。

(ぜんざい「旅する小豆たち」(お土産用・盛り付け))
Photo_20240505152401

 地元・東村山市に工場がある「遠藤製餡」で作られたぜんざいです。

 小豆の一粒一粒をふっくらと炊き上げ、全体がねっとりとした食感に仕上げられています。

 甘さ控えめで、小豆の風味が生かされています。

 徳江さんがにこやかに語りかけてくれているような、やさしくてホッとする味のぜんざいでした。


<関連サイト>
 「国立療養所多磨全生園」(東京都東村山市青葉町4-1-1)
 「多磨全生園 お食事処なごみ」(東京都東村山市青葉町4-1-10 多磨全生園内)
 「国立ハンセン病資料館」(東京都東村山市青葉町4-1-13)
 「あん」(映画「あん」製作委員会)
 「遠藤製餡」(工場・営業本部 東京都東村山市久米川町5-36-5)

<参考文献>
 柘植 文「森の釜めし」(少年画報社「ひとりごはん No.17」)
 「「人権の森と史跡」めぐり」多磨全生園入所者自治会
 「常設展示解説シート はじめてのみなさんへ」国立ハンセン病資料館
 「隔離のなかの食 -生きるために 悦びのために-」国立ハンセン病資料館

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コメント

何でまたハンセン病の…と思ったら、そんなマンガや映画があるんですね。
恥ずかしながらハンセン病についてはほとんど知識がなく、東京にこんな資料館があるのも初めて知りました。
今はハンセン病は治せると病気だという認識なのですが、まだ入所されている方がいらっしゃる…?
白玉がいい感じで、ぜんざいがとっても美味しそうです。

多磨全生園は以前車で前を通った事がありますが、一般に開放されているとは知りませんでした!
ここで亡くなった北条民雄の「いのちの初夜」と言う、壮絶な実体験に基づく小説を読んだ事があります!
所沢在住の宮崎駿監督が全生園を訪れ、その経験を元に「もののけ姫」を制作したとも聞いています。
かつての隔離施設を一般開放し、差別の歴史を伝える事は偏見を払拭する大事な取り組みですね!
「アンアンアンとっても大好きあんこちゃん〜♪」
と歌いながら召し上がっている姿が浮かびました(^_^)

chibiaya 様

chibiayaさん、こんばんは。
いつもコメントいただき、ありがとうございます。

多磨全生園や「お食事処なごみ」のことは、柘植 文先生の「森の釜めし」という漫画を読んで知りました。
一般にも一部開放されているとは、素晴らしい取組みをされているなと思い、いつか行こうと思いました。
私もハンセン病の知識はなく、それどころか映画「あん」も観てないのに訪問したのですが、とても勉強になりました。

おっしゃるとおり、今ではハンセン病は治療でき、感染力も弱いことが判明しているようです。
しかしながら、社会や家族にうまく受け入れてもらえないなどの理由から、今も療養所で暮らしている方はおられます。
今も居住区にお住まいの方がおられることから、園内での写真は控えました。

ぜんざい、小豆がふっくらとして、汁の甘さが控えめで、とても美味しかったです。
自宅で食べたレトルトのぜんざいにも白玉をのせるべきでした…(笑)

なーまん 様

なーまんさん、こんばんは。
いつもコメントいただき、ありがとうございます。

そうですか。多磨全生園付近に車で来られたことがあるのですね。
今度近くに来られた時は、車をどこかに駐車して、園内を散策されるのも良いかも知れません。

北条民雄さんの「いのちの初夜」。
恥ずかしながら初めて知りましたが、映画「あん」や、その原作・ドリアン助川さんの小説「あん」との共通点もたくさんありそうですね。
そして宮崎駿さんの「もののけ姫」とも関係が深いとは、驚きです。
たくさんの有益な情報を教えていただき、ありがとうございます!

今回、多磨全生園へ行ってみたいと思った一番の理由は、施設を一部開放されるという取り組みに感動したからです。
こうした取り組みをきっかけに差別もなくなってほしいです。

そうそう、私はあんこがとっても大好きなんです。
でもドラえもんの替え歌を歌いながら、ぜんざい食べていたら…「変なおじさん」と呼ばれそうです(笑)

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