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2024年6月 2日 (日)

広島工業大学公開講座「食資源、食品製造、健康科学の分野から食を考える」を受講して

広島工業大学公開講座

 広島工業大学では、毎年一般市民を対象とした公開講座が開催されています。

 令和6年度は「食」の分野の講座が開催されました。

 テーマは「食資源、食品製造、健康科学の分野から食を考える -人と食と健康についての知見を再認識しよう-」です。

(広島工業大学公開講座チラシ)
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 講座は3日間、各日2講座(1講座90分)ずつの計6講座で構成され、全講座受講すれば修了証も交付されます。

 「食」をテーマにした大学の公開講座であればぜひ受講したいと思い、私も申し込みました。

 講座開催当日、広島市中区の「サテライトキャンパスひろしま(広島県民文化センター)」を訪問しました。

(サテライトキャンパスひろしま(広島県民文化センター))
Photo_20240602131201

 広島県民文化センターの建物です。

 「サテライトキャンパスひろしま」はこの建物の5階にあります。

(会場案内)
Photo_20240602131301

 1階ロビーで会場を確かめ、5階の会場に伺いました。

 私は全講座受講しましたので、各講座の概要を御紹介したいと思います。

※広島工業大学関係者様へ
 以下の記事は講座の概要紹介に留め、直接研究内容に触れる資料・レジュメについては掲載しておりませんが、何か支障となる記事や表現がございましたら御連絡ください。すぐに修正させていただきます。


講座1「食品マーケティングと新商品開発」

 生命学部食品生命科学科の畠中和久教授から、「食品マーケティングと新商品開発」について学びました。

○マーケティングを理解したからと言って、決して売れるとは限らない

○「ニーズ」は「何かが不足している状態、その状態から沸き起こる欲求」、「ウォンツ」は「ニーズを満たしてくれる特定のモノ・サービスに対する欲求」

○顧客の声を聴き、顧客の要求や困りごとに応えるのが「マーケットイン」、一方、買い手のニーズやウォンツよりも企業側の理論を優先させるのが「プロダクトアウト」

○これまで大ヒットした商品は、実はすべて「プロダクトアウト」(市場創造型)商品
(例:カップヌードル、ボンカレー、カニかまぼこ、ウォークマン、スマートフォン、パソコン)

○「セグメンテーション(顧客の切り分け・細分化)」も重要
 例:明治の「フラン」…30歳前後の女性、帰国子女を対象にしたおしゃれな感じのチョコレート

○アサヒの「スーパードライ」は、消費者志向(コクとキレ味)を優先し、そのネーミングと一点集中戦略で大ヒットした

○アマノフーズのフリーズドライ技術が世界初のカップラーメンの具材(エビ・ネギ)として採用された


講座2「高電圧を用いた殺菌・食品加工技術」

 生命学部食品生命科学科の松井雅義准教授から、「高電圧を用いた殺菌・食品加工技術」について学びました。

○高電圧殺菌法は、非加熱なので食品の品質劣化を防ぐことができる

○高電圧の食品加工は、非加熱でやわらかくでき、細胞に適度な傷をつけることができ(調味料がしみ込みやすくなり)、加工と同時に殺菌もできる(消費期限が長くなる)というメリットがある

○高電圧パルス電界(Pulsed Electric Field:PEF)の研究事例として、魚肉のアニサキス死滅、ポテトチップスの改良(細胞に適度な傷を入れるとカラッと揚がり、油切れも良くなる)、フレッシュジュースの改良(色よく仕上がる・消費期限の延長)などがある

○PEF印可によるタンパク質(食品アレルギーの元)の構造変化の研究
 ※印可(いんか)…電気回路に電源や別の回路から電圧や信号を与えること

○放電プラズマを利用したコーヒー豆の焙煎
 ※プラズマ…原子核(プラスイオン)と電子(マイナスイオン)がバラバラに動き回っている状態


講座3「食とがん予防」

 生命学部生体医工学科の十川千春教授から、「食とがん予防」について学びました。

(会場(講座3「食とがん予防」)とレジュメ)
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○食生活を見直す(塩分を控える、野菜・果物を食べる、熱いものは少し冷まして摂取する)ことも、がん予防につながる

○「ファイトケミカル」は「抗酸化・殺菌・免疫力向上などが期待できる植物由来の微量成分」

○免疫細胞の約7割が腸内に存在するため、腸内環境を整えることも大切


講座4「ゲノム情報を駆使して行う新しい時代の農作物品種の創造」

 生命学部食品生命科学科の今井章裕准教授から、「ゲノム情報を駆使して行う新しい時代の農作物品種の創造」について学びました。

○細胞は筋肉細胞、皮膚細胞、神経細胞などに分化するが、その分化した細胞を元に戻した(脱分化・多能性をもった細胞に戻した)ものがiPS細胞

○植物の生殖様式には「種子繁殖」のほか、根・茎・葉から次世代の植物が無性的に繁殖する「栄養繫殖」(挿し木(芽)・種芋・株分けなど)がある

○倍数性育種法(コルヒチンなどを用いて染色体数を増減させた育種法)の事例として、4倍体のジャガイモ、6倍体のサツマイモ・パンコムギ、8倍体のイチゴなどがある

○ハイブリッド野菜の例:「ハクラン(白菜とキャベツ(※))」、「オレタチ(オレンジとカラタチ)」、「千宝菜(キャベツと小松菜)」、「メロチャ(メロンとカボチャ)」、「はなっこりー(菜心とブロッコリー)」
 ※キャベツの和名は「甘藍(かんらん)」

○ゲノム編集食品の例:「天然毒素低減ジャガイモ」、「GABA高蓄積トマト」、「高オレイン酸ダイズ」、「穂発芽耐性コムギ」、「無花粉スギ」


講座5「超高齢社会における健康寿命の延伸への取り組み」

 生命学部生体医工学科の玉里祐太郎講師から、「超高齢社会における健康寿命の延伸への取り組み」について学びました。

(会場(講座5「超高齢社会における健康寿命の延伸への取り組み」)とレジュメ)
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○「平均寿命」は、(今生きている人全体ではなく)生まれたばかりの赤ちゃん(0歳)の平均余命

○「健康寿命」は、日常的に介護を必要としないで、自立した生活ができる生存期間
 (平均寿命-介護を必要とする年数=健康寿命)

○日本人は現在のところ平均寿命・健康寿命とも世界トップ

○日本は高齢化社会や高齢社会を超え、超高齢社会に突入している

○日本が取り組むべき栄養課題は、「食塩の過剰摂取」、「若年女性のやせ」、「経済格差による栄養格差」

○和食は脂肪が少なく、野菜が多く、バランスが良い一方、塩分が多い

○長寿の食として、野菜・果物・魚・未精製の穀物・オリーブオイル・赤ワインを多く摂取する地中海食が注目されている


講座6「健康づくりの定番!「食と運動」の再検討」

 生命学部食品生命科学科の長﨑浩爾教授から、「健康づくりの定番!「食と運動」の再検討」について学びました。

○エネルギーが余ると脂肪細胞に脂肪が蓄積され、エネルギーが必要になると脂肪は遊離脂肪酸とグリセロールに分解されてエネルギーとして利用される

○血糖の80%以上は筋肉で使われる

○食事をすると血糖値が上昇し、すい臓から血糖降下作用のあるインスリンが分泌される

○インスリンの情報伝達が異常をきたすと、血糖の筋細胞への流入がブロックされ、血糖が消費されなくなる

○体内にインスリンが出回ると、脂肪合成の促進や脂肪分解の抑制作用が働き、さらに太ってしまう

○食後に血糖値が急上昇・急低下する現象を「血糖値スパイク」という

○体脂肪は1グラムあたり約7キロカロリー。脂肪を1kg減らすためには、約7000キロカロリーを消費する必要がある

(脂肪(1kg)の模型)
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○フルマラソン(42.195km)走っても消費カロリーは2000~3000キロカロリー。運動だけでダイエットすることは容易ではない

○食事制限だけで減量させると、筋肉や骨まで減少し、基礎代謝も低下し、太りやすい体質となる

○ダイエットには、「いい加減に」食事制限・運動することが有効

 最後に質問の時間があり、残り時間にも若干余裕があったので、長﨑先生へ質問させていただきました。

【質問】
 「血糖値の急激な上昇を防ぐ「低GI食品」がありますが、筋細胞での血糖取り込みと比べて有効性はいかがでしょうか」

【回答】
 「低GI食品にも一定の有効性があると思うので、食生活にうまく取り入れていくのが良いでしょう」

 この回答に続き、長﨑先生から聴講者向けに「GIとはグリセミック・インデックスの略で…」と補足説明していただきました。

 回答だけでなく、フォローまでしてくださり、ありがとうございました。


まとめ

 こうして3日間、全6講座を受講しました。

(講座レジュメ)
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 各講座に用意されたレジュメも厚みがある冊子で、質・量ともに充実していました。

 講座終了後、受付で修了証をいただきました。

(修了証)
Photo_20240602135301

 ライトグリーンの厚紙で作成された、名前と交付番号入りの立派な修了証でした。

 自分が興味を持った講座を受講でき、大学から修了証までいただけたことに感動しました。

 こうした講座を通じて、一般市民や大学進学を目指す高校生などに学問に興味を持ってもらう機会が増えれば、大学にとっても受講者にとってもメリットは大きいと思います。

 科学的な視点から「食」を考える良い機会となりました。


<関連サイト>
 「広島工業大学」(広島市佐伯区三宅2-1-1)
 「サテライトキャンパスひろしま」(広島県広島市中区大手町一丁目5-3・県立広島大学)

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コメント

卒業証書なら数枚持ってますが修了証はありません!
免許証書き換え講習を受けて免許証を再交付して貰った事はありますが(^.^)
健康寿命とがん予防、ハイブリッド野菜やゲノム編集食品の講義を受けてみたいです^^
赤ワインの飲み過ぎに注意しながら、地中海料理を食べたいと思いました(^.^)v

なーまん様

なーまんさん、こんばんは。
いつもコメントいただき、ありがとうございます。

卒業証書に再交付の免許証、様々な証書をお持ちですね!
少し大げさな話ですが、今回いただいた修了証は、自分が興味のある分野で、自発的に3日間通っていただいたものなので、卒業証書よりもよっぽど嬉しかったです。

実は今回の記事は、ブログに掲載しても文章ばかりになるので、受講するだけに留めようと思っていました。
しかしながら、昨日の夕方、講演をすべて聴講して修了証をいただいた瞬間に感動して、これはブログ記事にしようと考えが一転し、記事を作りました(笑)

健康寿命が長いと幸せですよね。
ハイブリッド野菜やゲノム編集食品の試食会とかあれば、盛り上がりそうです。
(食べる人と食べない人が出てきそうですが…)
赤ワインは抗酸化作用が期待できますし、地中海料理は長寿に適しているようです。
美味しいお酒、食べ物で健康にも良いなら、言うことなしです!!

平均寿命が生まれたばかりの赤ちゃんの平均余命、というのは知らなかった!
てっきり今生きている人のだと思ってました。
長生き=よいことみたいな感じですが、健康でなければ長生きもしんどいだけなので、健康寿命の方が大事ですね。
そのためには日頃の食生活には気をつけなければとは思うものの、なかなか…なのが現状です(^^;)
カロリー消費って、ホント難しいですよね。
あんなに動いたのにこれだけー?!って思うことがしょっちゅうです。

chibiaya 様

chibiayaさん、こんばんは。
いつもコメントいただき、ありがとうございます。

深く読んでくださり、ありがとうございます。
そうなんです。「平均寿命」の定義、私もちょっとした驚きだったので御紹介しました。
0歳の赤ちゃんが対象で、今、平均寿命について考えることのできる人には関係のない年齢のようです(笑)

医療の助けを借りて無理矢理生かされるより、自発的に何でもできる方が自分にとっても、周囲にとってもありがたい話ですよね。
だから、chibiayaさんと同様、私も健康寿命が大事だと思います。

私も受講していて思いました。「運動も大事、食生活に気を付けることも大事、それはわかっているけど…」というのが、私を含む大半の人の本音なのでしょうね。
食や健康の正しい知識を持つこと、感心を持つことも求められていると思います。

カロリー消費、生命維持のためには、そう簡単に消費しないように(エネルギー(脂肪)として蓄えておくように)できているんでしょうね。
それなら食べない方がマシと思ったりするのですが、それを続けるとかえってリバウンドを起こしやすくなるようで、適度な運動による代謝も必要なようです…

食品のマーケティングについて、大学で受けてた講義を思い出しました。
食品そのものについてではないのですけど、飲食物の商品を市場に投入するときの、
包装の仕方・パッケージデザイン、メディア広告などでおいしさ・魅力を伝える、顧客への訴求効果について。
購買欲に響かせるネーミングやキャッチコピー、包装やロゴのデザインなど、
そういったところからも人の食生活、飲食スタイルは度合にともかく
日々変化にあるものと考えさせられたり。
おいしいと思えるものをおいしく頂ければそれでいいと思うんですけど、
文明の発展にそう簡単には…そう難しく考えなくてもいいのかな…。

サウスジャンプ 様

サウスさん、こんばんは。
いつも丁寧にお読みいただき、ありがとうございます。

へぇー、食品マーケティングを勉強されたのですね!
飲食物の商品は消費者にとって身近なだけに、マーケティング次第で、ヒット商品にもなれば、全く売れない商品にもなるでしょうね。

おっしゃるとおり、ヒット商品を生み出すには、食生活、ライフスタイル、流行、嗜好、競合商品、さらには将来予測まで徹底的に調べたり、それらを元にパッケージデザイン、キャッチコピー、広告、価格・出荷量設定、タイミングなどを決めたりと、大変な時間と労力がかかるでしょうね。
消費者に「この商品を買ったら美味しくて幸せになる」と思わせる何かが求められます。
(消費者視点で)考えればいくらでも難しく考えてしまいそうですが、(供給側の)パッとしたひらめきでヒット商品が生まれることもあるのが面白いところです(笑)

ロングセラーの「チョコボール」1つ例にあげても、キョロちゃんのデザイン、当たり(金・銀のエンゼル)の演出、CMソング、プレゼントの「おもちゃのかんづめ」のアイデアなど、マーケティングの宝庫だと思います。
「おもちゃのかんづめ」欲しさに、大人買いしようかと思うことがある私も、マーケティングで想定されているとおりの、「わかりやすい」消費者なのでしょう(笑)
サウスさんに金のエンゼル・銀のエンゼルが当たりますように!!

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