広島のいなり寿司 -「尾道いなり」と「棒いなり」(ばあちゃんの駅弁・いなりとチキン)-
今回は広島県内の「いなり寿司」を2種類、御紹介します。
尾道いなり
広島県尾道市に「尾道いなり」と呼ばれるいなり寿司があります。
この「尾道いなり」を、広島市西区のいなり寿司専門店「狐尾(きつねのお)」(「LECT(レクト)」1階)で購入しました。
(「狐尾」のいなり寿司(パック))
包装紙にキツネのロゴマークが描かれています。
(「狐尾」ロゴマーク)
このキツネ、よく見ると玉に片足を乗せています。
これは、尾道の石工職人が作った「玉乗り狛犬(たまのりこまいぬ)」がモチーフにされているからです。
狛犬は神社などに左右一対で設置されている像で、様々なタイプがありますが、「玉乗り狛犬」は「尾道型」とも呼ばれ、石工で栄えた尾道を象徴する石造物なのです。
つまり、玉乗りのキツネには、「尾道のキツネ(狐)」という意味があるのです。
店名の「狐尾」もこの意味から名付けられたのではないかと思います。
(尾道いなり)
こちらが「尾道いなり」です。
いなり寿司の上下をひっくり返し、すし飯の上に薄桃色の「えびのおぼろ(えび粉)」がたっぷりまぶされているのが特徴です。
「えびのおぼろ(えび粉)」は茹でた海老の身を包丁で叩いて細かくし、砂糖・みりん・酒などで甘く炒りつけたもので、巻き寿司やちらし寿司などに用いられます。
(尾道いなり(中身))
すし飯には人参・ごぼう・椎茸が入っており、そのすし飯が甘めに炊かれた「いなりあげ」で包まれています。
この「いなりあげ」ですが、三角形に(いなりあげの角が中心に立つように)握られるのは、キツネの耳の形に似ているからなのだそうです。
旨味が凝縮したほんのり甘い「えびのおぼろ」が、甘めのいなり寿司とよく合いました。
(狐尾いなり)
こちらは「狐尾いなり」です。
「尾道いなり」とは「えびのおぼろ(えび粉)」がまぶされているかどうかの違いだけで、すし飯の具は一緒です。
「えびのおぼろ(えび粉)」は尾道の郷土料理であり、これを用いたいなり寿司が「尾道いなり」と呼ばれているのです。
さらに私には、いなり寿司をひっくり返した姿が港町・尾道に関わりの深い「船」の形にも見えるのですが、いかがでしょうか。
元祖名物おばあちゃんの棒いなり
広島駅の「ekie(エキエ)」2階にある「安芸太田町みんなの店」では、「棒いなり」や「ばあちゃんの駅弁」、安芸太田町のお土産・特産品などが販売されています。
お店の前を歩いていて、ふと「ばあちゃんの駅弁」に目が留まりました。
(「ばあちゃんの駅弁」販売の様子)
手書きの商品POPで「ばあちゃんの駅弁」が面白く説明されています。
例えば…
「子供や孫に食べさせちゃいものを はなえてみたけぇねぇ(作ってみましたの意味)」
「今日は暑くなるみたいなけぇ、塩は少し多めかなぁ」
「さぁ~今日も笑顔で楽しんでこうねぇ みんないつもありがとう」
「ばあさんより」
ごはんもおかずもぎっしりと詰められた愛情たっぷりの「ばあちゃんの駅弁」です。
お弁当のごはん(広島菜にぎりめし・炊き込みご飯・棒いなり)もおかずも、様々な種類・組合せがあり、お好みのものを選ぶことが出来ます。
私は、このお店の名物「棒いなり」が入った「ばあちゃんの駅弁」を手に取り、レジへ向かいました。
レジ前では単品の「棒いなり」が販売されていました。
(「棒いなり」販売の様子)
「棒いなりは しいたけ・人参・かんぴょう・ごま・油あげ・山くらげ・竹の子が入ってますよぉ~♪」
外国人観光客向けに、英語でいなり寿司を説明したPOPもありました。
「Inari sushi is sushi made by stuffing vinegared rice in fried tofu」
(いなり寿司は、油揚げにすし飯を詰めた寿司です)
本当にばあさんが書いているのか?(笑)
レジで私より先に並ばれた外国人観光客の方がお弁当を購入されるのを待っていると、年配の女性店員さんがその外国人観光客と英語で流暢に会話されていたので驚きました。
私の順番となったので、私はその女性店員さんに「棒いなり」についてお話を伺いました。
私:「この棒いなりは大きいですね。通常のいなり寿司の2倍くらいありそうですね」
店員さん:
「(手で棒いなりの長さを測りながら)うーん、どうなんでしょう」
「名古屋からいらっしゃるお客さんの話では、名古屋のいなり寿司の3倍くらいあるそうです」
「名古屋のいなり寿司は小ぶりで具がなく、うちのような具だくさんの田舎いなりは珍しいようです」
「その名古屋のお客さんは広島に来られる度にうちの棒いなりを買ってくださいます」
私:「なるほど、ありがとうございます」
精算の際、その店員さんから「650万円です」と言われ、ついさっきまで外国人に英語で値段を伝えておられたのに…とクスっと笑ってしまいました。
県外にもファンがいる理由は、商品の魅力だけでなく、店員さんのお人柄の良さにもあるようです。
それでは私が購入した「ばあちゃんの駅弁」を御紹介します。
(ばあちゃんの駅弁)
棒いなり1本に、様々なおかずがセットになった弁当です。
なぜ私がこの弁当を選んだのか、その理由は、いなり寿司と鶏の唐揚げがセットになっていたからです。
(いなりとチキン)
このお弁当を見つけた瞬間、「こっ、これは沖縄で人気の『いなりとチキン』の組合せじゃないか!」と嬉しくなりました。
ちなみに鶏の唐揚げは「ひとくち山賊からあげ」と呼ばれるにんにく醤油味の唐揚げで、こちらもお店の看板商品です。
棒いなりをもう少し詳しく見てみましょう。
(棒いなり)
棒のように長く、ずっしりと重いいなり寿司です。
測ってみると、長さ約13cm、幅約4cm、高さ約3.5cmありました。
底がどうなっているか、ひっくり返してみましょう。
(棒いなり(底))
大きな「いなりあげ」で全体がきっちりと包まれており、すし飯が見えません。
この「いなりあげ」を広げてみました。
(棒いなり(いなりあげを広げた様子))
具だくさんのすし飯が入っていました。
「いなりあげ」も「すし飯」も、甘くべったりした感じに仕上げられています。
(棒いなり(中身))
しいたけ・人参・かんぴょう・ごま・油あげ・山くらげ・竹の子・ゴマと、山の幸たっぷりのいなり寿司です。
しっかりとした甘辛さを感じる「田舎いなり」ならではの味付けとなっています。
1本で十分な食べ応えがありました。
おかずも、大きな鶏の唐揚げ(ひとくち山賊からあげ)2個をはじめ、海老天ぷら、カマボコ(花と三色団子)、インゲンのゴマ和え、紅白なます、煮しめ(しいたけ・コンニャク・がんもどき)、もち(メロン風味・カスタードあん)と、たくさん詰められており、それぞれ美味しくいただきました。
こちらのお店では、「棒いなり」と「山賊焼き(鶏肉の串焼き)」をお得なセット価格で販売されています。
これも「チキンといなり」のセットとなっており、「チキンといなり」の人気が沖縄だけではないことがわかりました。
このほか、広島菜、祇園坊(柿)のお菓子、絶大な人気を誇る「鯛焼屋よしお」の鯛焼き(冷凍)など、地元ならではの食品・お宝級の食品も販売されています。
広島県内のいなり寿司だけでもバラエティーに富んでいるだけに、全国には様々ないなり寿司があることでしょう。
いなり寿司から地域の食文化を分析してみるのも面白そうです。
<関連サイト>
「いなり寿司 狐尾(キツネノオ)、尾道生まれの専門店が広島市に初出店」(広島ニュース 食べタインジャー)
「えび粉/巻き寿司 広島県」(「うちの郷土料理」農林水産省)
「安芸太田町みんなのお店」(広島駅「ekie(エキエ)」2階(インスタグラム))
「鯛焼屋よしお」(広島県山県郡安芸太田町加計3494-9)
<関連記事>
「沖縄の食文化探訪6 -沖縄のいなり寿司の特徴・なぜ沖縄で「いなりとチキン」が人気なのか-」
「尾道の夏のお菓子「ふなやき」 -「ふなやき」の由来と「麩の焼き」について-」
<参考文献>
「LECTR(レクター)vol.22」(2023年10月)
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揚げ豆腐というと、つい揚げ出し豆腐をイメージしてしまいますが、薄くスライスした豆腐を油で揚げたのが油揚げですから「fried tofu」に違いありませんね^ ^
いなり寿司というと油揚げを半分に切ってご飯を詰めるイメージですが、切らずに長辺から裂いて詰めればボリューム満点^o^
所変わればいなり寿司も変わる(^_−☆
投稿: なーまん | 2024年8月18日 (日) 17時14分
その細長い稲荷寿司は、埼玉は熊谷の聖天寿しと同じですね。
しかも郷土料理らしいです。
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/33_29_saitama.html
投稿: chibiaya | 2024年8月18日 (日) 18時09分
なーまん 様
なーまんさん、こんばんは。
続いてコメントいただき、誠にありがとうございます。
そうですね…「fried tofu」については、英訳されたニュアンスをそのまま出そうと、「揚げ豆腐」と直訳してしまいましたが、「揚げ豆腐」だと揚げ出し豆腐や厚揚げ(白い豆腐が残っているもの)の意味が強くなりますね…。
ここは御指摘のとおり、意訳で「油揚げ」とするのが正解ですね。
フォローまでいただきながら恐縮ですが、記事を修正させていただきます。
ありがとうございました。
今回御紹介した棒いなり、長くてずっしりしていました。
おっしゃるとおり、長辺からすし飯を詰めておられるのでしょうね。
このやり方で、「尾道いなり」のようなすし飯が見えるタイプ(いなりあげが開いたタイプ)を作れば、相当な量のすし飯が詰められ、超巨大ないなり寿司が出来そうです(笑)
投稿: コウジ菌 | 2024年8月18日 (日) 22時15分
chibiaya 様
chibiayaさん、こんばんは。
いつもコメントいただき、ありがとうございます。
へぇー、お近くの熊谷市にも、広島の棒いなりとよく似たいなり寿司「聖天ずし」があるんですね!
「聖天ずし」の長さは約13~14cmと紹介されているので、「棒いなり」とサイズが全く一緒です。
かつてハレの日の料理だったというのも、おそらく一緒だと思います。
かんぴょうや紅しょうがの有無に違いがありそうです。
あと、「稲荷ずし(聖天ずし)3本と巻きずし4切れで1人前」とは、すごい量だなと思いました。
さすがchibiayaさん!
いつもながら貴重な情報、ありがとうございました。
投稿: コウジ菌 | 2024年8月18日 (日) 22時36分
お弁当を販売されているお店、なんだかPOPで賑やかそうな感じですね。
POPを大切にするショップ(飲食関連に限らず)には親近をおぼえます。
店員さんのインターナショナルに通じてもいて、ひらけた優しいお店って印象です。
投稿: サウスジャンプ | 2024年8月31日 (土) 13時10分
サウスジャンプ 様
サウスさん、こんにちは。
いつもコメントいただき、ありがとうございます。
広島駅にある「棒いなり」や「ばあちゃんの駅弁」を販売されているお店、バラエティーに富んだ手作りPOPがたくさんあり、楽しめました。
サウスさんのおっしゃるとおり、POPって、商品とお客さんに紹介するツール・お客さんの心をつかむツールとして大事ですね。
このお店のPOPは、おばあちゃんの表現だけでも、「おばあちゃん」、「ばあちゃん」、「ばあさん」と様々で、こうしたところにも親近感を感じました。
こういうツッコミどころがありながら、外国人観光客とは英語でやりとりされる、そのギャップも面白かったです。
お店はやっぱり、最後は「人」ですね。
投稿: コウジ菌 | 2024年8月31日 (土) 14時46分