イギリス料理の特徴と主な料理6 -ベイクウェルプディング・マーマレードケーキ・キャロットケーキ・イートンメス・ミンスパイ・クロテッドクリーム・スコーン-
広島市内のデパート・福屋 八丁堀本店で「英国展」(2025年5月8日~13日)が開催されました。
会場でイギリスのお菓子が販売されていたので、いくつか購入しました。
今回はこの「英国展」で購入したお菓子を中心に、イギリスのお菓子について理解を深めたいと思います。
ベイクウェルプディング
「ベイクウェルプディング(Bakewell Pudding)」は、イングランド北部のピークディストリクト国立公園にある小さな村・ベイクウェルで生まれた地方菓子です。
日本で「プリン(プディング)」と言えば、卵・牛乳・砂糖などを蒸して冷やし固めた「カスタードプリン」が一般的ですが、イギリスの「プディング」はもっと広い意味で使われます。
イギリスの「プディング」は、「小麦粉・パン・米などに卵・牛乳などを混ぜて蒸したり焼いたりしたやわらかい食べ物」といった意味で使われているのです。
「ベイクウェルプディング」は、パイ生地の一種「パフ・ペイストリー(Paff Pastry)」にジャムをのせ、さらにアーモンドフィリング(アーモンドクリームの生地)を流し込んで焼き上げたお菓子です。
このお菓子は、「小麦粉を使ってふわふわに焼き上げている」ことから「プディング」と呼ばれています。
(ベイクウェルプディング)
外側がふわふわのペイストリー、中心がしっとりとしたアーモンドフィリングとなっています。
(ベイクウェルプディング(中身))
底に赤いラズベリージャムが入っています。
パフ・ペイストリーはパイ生地の一種ですが、小麦粉生地とバターを何層にも折り重ねたサクサクのパイではなく、シュークリームの皮に似たやわらかい(フニャフニャした)練り粉のパイです。
その食感は、ローストビーフに添えられる「ヨークシャープディング(Yorkshire Pudding)」にも似ています。
対照的に、中のアーモンドフィリングはアーモンド風味のしっとりした生地に仕上げられていました。
甘酸っぱいラズベリージャムがアクセントとなったお菓子でした。
マーマレードケーキ
「マーマレード(Marmalade)」はイギリスで人気の果皮入りジャムです。
オレンジのマーマレードが使われた「マーマレードケーキ(Marmalade Cake)」をいただきました。
(マーマレードケーキ)
焼き上げられたケーキの上にオレンジマーマレードがたっぷりかけられています。
(マーマレードケーキ(オレンジピール))
しっとりとしたケーキで、中にオレンジピールがザクザク入っていました。
オレンジマーマレードとオレンジピールが使われた、オレンジの風味を存分に楽しめるケーキでした。
キャロットケーキ
「キャロットケーキ(Carrot Cake)」は、生地にすりおろした人参を使ったケーキです。
砂糖が高価だった中世に、砂糖の代わりに人参の甘さを利用して考案されたケーキです。
日本で販売されているキャロットケーキには、ケーキの上にクリームチーズのフロスティングがのせられたものも多く見かけます。
(キャロットケーキ)
ケーキ生地に粗く刻んだ人参とクルミがたっぷり入っていました。
人参の甘みとスパイス(シナモン、ナツメグ、オールスパイスなど)の風味がよく効いた素朴なケーキでした。
イートンメス
「イートンメス(Eton Mess)」は、生クリームにメレンゲやいちごを加えた、イギリスの夏を代表するお菓子です。
イギリスのパブリックスクール「イートン校」発祥の、「ごちゃ混ぜの・乱雑な(mess)」という意味をもつお菓子です。
この発想・呼び方は、同じイギリスのお菓子「トライフル(Trifle:つまらないもの)」とよく似ています。
(イートンメス)
生クリームにメレンゲといちごがのせられています。
(イートンメス(中身))
生クリームの中にもメレンゲといちごが混ぜ込まれていました。
上にのせられたメレンゲはサクサク、生クリームに混ぜられたメレンゲはしっとり柔らかくなっていて、異なる食感を一度に味わうことができました。
生クリームに甘いメレンゲと甘酸っぱいいちごが加わった、シンプルで美味しいお菓子です。
ミンスパイ
「ミンスパイ(Mince Pie)」は、洋酒(ブランデー・ラム酒など)にドライフルーツやナッツ、スパイス(シナモン・クローブなど)を漬け込んだ「ミンスミート」と呼ばれるフィリングが詰められたパイ菓子です。
「ミンス」は日本で言う「ミンチ」のことで、細かく刻んだ肉(ミンチ)を詰めた肉入りのパイがミンスパイの起源とされています。
その名残で、現代でもフィリングに牛脂(ミンスミート)を加えて作る製法があるようです。
クリスマスプディングと同様に、クリスマスシーズンに人気の伝統菓子です。
(ミンスパイ)
丸いパイ生地の中にミンスミートが詰められ、上に星形のパイがのせられています。
初期のミンスパイは、キリスト降誕の言い伝えにならい、飼い葉桶(かいばおけ)の形をしたパイにミンスミートが詰められ、その上に小さな人形のパイがのせられましたが、清教徒(ピューリタン)革命以後、これが「偶像崇拝」にあたるとされ、現在のような丸い形のパイになりました。
(ミンスパイ(中身))
ミンスミートは干しぶどう・りんご・アーモンドが使われており、甘くねっとりとして、ラム酒の風味もよく効いていました。
クロテッドクリーム・スコーン
「クロテッドクリーム(Clotted cream)」は、生乳を低脂肪乳と生クリームに分離させ、その生クリームを低温で加熱して作られるクリームです。
(ロダス・コーニッシュ クロテッドクリーム(包装))
こちらは「ロダス(Roddas)」の「コーニッシュ クロテッドクリーム」です。
(クロテッドクリーム)
ロダスのクロテッドクリームは、低温オーブンで蒸し焼きして作られるため、表面に黄色い膜(クラスト)ができています。
試しにクロテッドクリームだけで食べてみましたが、濃厚でクセのない(塩気もない)クリームでした。
スコーンに塗っていただくのが一番とされるので、スコーンとジャム(いちごジャム)も用意しました。
(スコーン・クロテッドクリーム・いちごジャム)
スコーンをパカッと横に割りました。
「はい、大きく口を開けてー」と歯医者さんになった気分です。
(スコーンを横に割った様子)
割ったスコーンに、クロテッドクリームを塗り、さらにいちごジャムを塗りました。
(スコーンにクロテッドクリームといちごジャムを塗った様子)
スコーンだけでも十分美味しいのに、さらにクロテッドクリームといちごジャムを添えていただくとは、何とも贅沢な食べ方です。
今回、紅茶と一緒にこのスコーンをいただいたのですが、クロテッドクリームやいちごジャムは紅茶との相性も良く、スコーン(クロテッドクリーム・ジャム)と紅茶のセットが「クリームティー(Cream Tea)」と呼ばれる理由も理解できました。
「イギリストースト」と「ふらいすこーん」
おまけとして、イギリスの食文化を踏まえ、日本人向けにアレンジされた創作パン・創作菓子を御紹介します。
スコーンにクロテッドクリームといちごジャムを添えていただいた際、ふと頭に浮かんだのが、日本でロングセラー商品となっている、食パンにマーガリンといちごジャムを塗った菓子パン(ジャム&マーガリン)です。
(イギリストースト・ジャムストライプ)
特に「工藤パン」(青森市)の「イギリストースト」シリーズの「ジャムストライプ」は、スコーンがイギリスパン、クロテッドクリームがマーガリンになっただけで、よく似ています。
もう1つ、広島の和菓子店「青柳屋」で販売されている「ふらいすこーん・つぶあんバター(折生地スコーン)」を御紹介します。
(ふらいすこーん・つぶあんバター(折生地スコーン))
スコーンを油で揚げ、あんこ(つぶあん)とバターをサンドした創作菓子です。
揚げたスコーンはザクッとしたクッキーのような食感で、あんドーナツ・小倉トースト・あんバターサンド・かりんとう饅頭といった様々な要素が取り入れられた創作菓子です。
日本でも様々な形でイギリス菓子が取り入れられ、独自のアレンジもなされていることがよくわかります。
<関連サイト>
「ブリティッシュプディング」(大阪市住之江区西住之江2-7-9)
「ジェリーズ・パイ」(京都市右京区嵯峨天龍寺瀬戸川町6-7)
「ロダス」(銀座三越店 東京都中央区銀座4-6-16ほか)
「フォートナム・アンド・メイソン」(三越広島店 広島市中区胡町5-1ほか)
「イギリストースト」(工藤パン 青森市金沢三丁目22-1)
「青柳屋(インスタグラム)」(広島市中区幟町5-8)
<関連記事>
今回のイギリス料理を含む世界の料理は、「食文化関連記事一覧表・索引」の「各国料理の特徴と主な料理」を御覧ください。
<参考文献>
21世紀研究会編「食の世界地図」文春新書
地球の歩き方編集室「世界のお菓子図鑑」Gakken
最近のコメント