神戸の洋食・船舶料理 -神戸市中央区「グリルミヤコ」のテールシチューと焼きプリン(洋食で皿の周囲にマッシュポテトが添えられる理由)-
みなとまち神戸と洋食
神戸は幕末から明治の時期に開港して以来、外国船の往来する「みなとまち(港町)」として発展してきました。
それは料理界において、外国人向けホテルや外国船の料理人を通じて神戸に洋食が広まり、発展することにもつながりました。
神戸の洋食は大きく2つの系譜があると言われています。
1つは外国人居留地の中心に外国人専用ホテルとして誕生したオリエンタルホテルの系譜、もう1つは外国船の料理人が神戸で開店したレストラン・洋食店の系譜です。
神戸では、現在もこの流れを汲むレストラン・洋食店が営業されています。
神戸の洋食店「グリルミヤコ」
そんな神戸の洋食の歴史を脈々と受け継いでおられるお店の1つが「グリルミヤコ」です。
「グリルミヤコ」の創業者・宮前敬冶さんは、大阪商船(現在の商船三井)の船内で提供されていた洋食の味を受け継ぎ、神戸市内で洋食店を開業されました。
現在はその創業者の御子息である宮前昌尚さんが二代目としてお店で腕を振るっておられます。
神戸の洋食の味を求めて、神戸・西元町の「グリルミヤコ」を訪問しました。
(グリルミヤコ店舗)
「欧風料理みやこ」と書かれた木の看板や、船の碇(いかり)が描かれたお店のマークなどがあり、伝統的な神戸の洋食のお店であることが伺えました。
(受け継がれる船上の味)
「船のコックだった先代の宮前敬冶がソースを先輩から受け継ぎ、降船時に持ち帰りました」
「1965年(昭和40年)の創業以来、追い足しながら煮込み続けています」
「ソースの歴史は…(中略)…敬冶の先輩、そのまた先輩を含めると100年は続いています」
「この貴重なドゥミグラスソースをぜひご賞味ください」
お店の歴史を知った上で、意を決してお店のドアを開けました。
テールシチュー
お店に入ると、二代目の宮前昌尚さんと店員さんが温かく迎えてくださいました。
テーブル席に着き、しばらくメニュー表を眺めた後、伝統的なデミグラスソースが使われている「テールシチュー」を注文しました。
カウンター越しの厨房で、宮前シェフが丁寧に一生懸命料理されているお姿が印象的でした。
しばらくして、テールシチューとライスが運ばれてきました。
(テールシチューとライス)
パンかライスを選ぶ際、宮前シェフから「ライスにデミグラスソースをからめて食べても美味しい」と伺ったので、ライスでお願いしました。
(テールシチュー)
テールシチューは、イメージしていたよりずっとボリュームがあり、私が思わず「えーっ、こんなに大きいとは思いませんでした」と言うと、「牛テールは骨付きですから」と笑いながらお返事がありました。
じっくりと時間をかけて煮込んだ牛テールに、デミグラスソースがたっぷりとかけられていました。
そして注目すべきは、皿の縁をぐるりと囲んだマッシュポテトです。
この独特なマッシュポテトの盛り付けは、かつて外国船内でテールシチューなどの料理が提供されていた時、船が揺れても料理やソースがこぼれ落ちないよう工夫された名残なのです。
写真でも、マッシュポテトが防波堤となり、デミグラスソースが中でとどまっているのがわかります。
実際は少し決壊しテールけど…(笑)
(テールシチュー(牛テール))
牛テールはじっくりと時間をかけて煮込まれているため、とても柔らかく、ホロリとした食感でした。
コクと深みのあるデミグラスソースをまぶしながら、ボリューム満点の肉を心ゆくまで味わうことができました。
肉が残りわずかとなったところで、宮前シェフへ「ライスにデミグラスソースをからめていただいてもいいですか」と伺ったところ、宮前シェフから、「美味しい食べ方で召し上がっていただくのが一番ですよ」と勧めていただきました。
あわせて、テールシチューの皿にライスを移し、フォークの背でライスにデミグラスソースをからめて食べたらよいことも教えていただきました。
「デミグラスソースにはパンよりライスをからめた方が日本人向けだね」ともおっしゃってました。
(デミグラスソースをまぶしたライス)
ライスとデミグラスソースを、フォークの背で時間をかけて丁寧に混ぜ合わせました。
ちょっとお行儀は悪いものの、「うん、確かに美味しい!」と納得の味でした。
東京・銀座の資生堂パーラーでも、ビーフシチューにライスをからめていただいたことを思い出しました。
テールシチューは他の料理に比べると少々お高いですが、ボリュームがあり、とても贅沢な気分が味わえました。
すっかりテールシチューのファンになりました。
焼きプリンセット
ひととおり食べ終えたところで、デザートとして、焼きプリンとドリンクがセットになった「焼きプリンセット」を注文しました。
やがて、焼きプリンとコーヒーが運ばれてきました。
(焼きプリンセット)
ほろ苦いカラメルがたっぷりかかった焼きプリンとコーヒーのデザートです。
焼きプリンは弾力があり、ほろ苦いカラメルがたっぷりとかけられた、洋食の王道を行くプリンでした。
まとめ
食事を終え、ふと店内を眺めると、船舶の絵画が展示されていました。
(貨客船「プレジデント・ウィルソン」)
どの会社の船かはファンネル(煙突)マークを見ればわかるのですが、赤地に白い鷹が描かれたファンネルマークはどこの船だろうかと思い、宮前シェフにお尋ねしました。
この船は「APL(アメリカン・プレジデント・ラインズ)社」の貨客船「プレジデント・ウィルソン」なのだそうです。
続けて私が「(デリック)クレーンも装備した船なんですね」とお話しすると、「昔は岸壁(陸側)にガントリークレーン(※)」がなかったので、船のデリッククレーンで荷物や貨物の積み下ろしされており」、「神戸港はポートアイランドができてから急速に発展し、ガントリークレーンが設置されるようになった」と教えてくださいました。
※岸壁に設置された大型クレーン、その形から「キリン」とも呼ばれる。
宮前シェフからデミグラスソースのお話も伺いました。
デミグラスソースのスパイスとして、シナモン(肉桂)も使っておられるとのことでした。
そして、そのシナモンは粉末でもスティックでもなく、樹皮そのものを使っておられました。
宮前シェフにシナモンの樹皮を出していただいたので、香りを確かめてみたところ、目が覚めるくらい鮮烈にシナモンの香りがしました。
あと、宮前シェフが渡仏された際、フランス人シェフに「継ぎ足しを繰り返し、100年以上デミグラスソースの味を受け継いでいる」ことを話すと、そのフランス人シェフがとても驚いたというお話も伺いました。
会計を済ませ、お店を後にする際、宮前シェフもお店の外まで出てきてくださいました。
そしてお店の案内看板を紹介してくださいました。
案内看板中央の写真は、先代がアメリカの五大湖で仲間と一緒に写った記念写真とのことです。
そして看板が調理鍋で作られていることも教えていただきました。
(調理鍋の案内看板)
改めてよく見てみると、確かに洋食店のシンボルとも言える調理鍋(寸胴鍋)で作られていることがわかりました。
美味しい料理やデザートを御提供いただいたこと、神戸の洋食はもちろん、外国船や神戸港の歴史まで教えていただいたことにお礼申し上げ、お見送りいただきながら、お店を後にしました。
温かい人情に触れることができ、心地よい余韻を感じながら、夜の神戸の街を歩きました。
<関連サイト>
「グリルミヤコ」(神戸市中央区元町通5-3-5 ヴィラ元町)
「“船系”に“ホテル系”?歴史ある港町、神戸の洋食物語」(BRUTUS)
<関連記事>
「東京・銀座「資生堂パーラー」のレストラン -ポタージュ・サラダ・ミートクロケット・ビーフシチュー・カスタードプリン-」
<参考文献>
「あまから手帖(2025年3月号)」クリエテ関西
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フランス料理店というとお高いイメージですし、洋食屋というと味噌汁が付いてきそう!
本格西洋料理と言われるより、欧風料理と言われる方が力が抜けてミディアムなイメージ
になりますね (^。^)
テールシチューというのは日本で言うと霜降り牛のすき焼きではなく、牛皿や牛丼つゆだ
くに近いイメージ?
日本では焼き鳥やうなぎのタレを継ぎ足して使用しますが、欧米はしないのでしょうか?
投稿: なーまん | 2025年11月30日 (日) 17時02分
牛テールは、髄の部分が美味しいとか聞いたことがありますが、
ちゅうちゅう吸ったりしましたか?(笑)
自宅だったらできても、さすがにお店ではできないか(^^;)
お箸でも食べられそうな柔らかさのお肉であることが写真からも伝わってきます。
焼きプリン、カラメルたっぷりで超美味しそうです!
投稿: chibiaya | 2025年11月30日 (日) 21時06分
なーまん様
なーまんさん、こんばんは。
いつもコメントいただき、ありがとうございます。
おっしゃるように、お店の呼び方1つで、イメージが大きく変わってきますね(笑)
私は西洋料理と言えば明治維新・文明開化の時期に西洋から日本に入ってきた料理を、欧風料理と言えばポトフなどの煮込み料理を、洋食と言えば、ライス・スープ(味噌汁)・千切りキャベツなどが付いた日本人向けの料理をそれぞれイメージします。
テールシチューは(牛の)しっぽのシチューですので、高級霜降り肉とは異なりますが、手間暇かけてじっくり煮込まれたことで、やわらかくてとても美味しい肉料理となっていました。
日本で言うと…牛のもつ煮込みとか、鯛のかぶと煮(あら炊き)いったところでしょうか。
日本では焼き鳥やうなぎのタレを継ぎ足して、タレ(ソース)をいつまでも大事にしますが、デミグラスソースもそれに近い製法ですよね。
逆にフランス料理の世界では、そうした継ぎ足して作る(重い)ソースは重要視されなくなったようです。
だから宮前シェフが「100年以上デミグラスソースの味を受け継いでいる」とフランス人シェフに話すと、(まだそんなソースを作っているのかと)驚かれたのだと思います。
天ぷらの揚げ方にならった「とんかつ」や、継ぎ足すタレにならった「デミグラスソース」などは、日本で独自に「洋食」として発展を遂げてきたのだと思います。
投稿: コウジ菌 | 2025年11月30日 (日) 22時54分
chibiaya 様
chibiayaさん、こんばんは。
いつもコメントいただき、ありがとうございます。
そうそう、牛テールの骨の中心部に髄がありました。
ナイフとフォークでいただいたので、髄まではいただきませんでした。
たまにスーパーマーケットや精肉店で骨付きのテールが売られているので、いつか自分で煮込み料理を作り、人目を気にせず髄もすすってみたいと思います(笑)
テールのお肉はとてもやわらかく、ゼラチン状になっている部分もありました。
ナイフとフォークは、中心部の骨から肉を切り離すために使ったようなものです。
ボリューム満点で、この大きさでこの値段ならと納得しました。
焼きプリンは、二代目の宮前昌尚シェフがフランスで修行されていたお店でデザートの担当だった時に習得されたお菓子のようです。
カラメルは色が濃く、見た目からしてほろ苦そうな感じがしますが(笑)、プリンがしっかりと受け止め、美味しさが増しました。
カラメルをプリンにジャブジャブにつけて食べると、贅沢な気持ちになれますよね!(笑)
投稿: コウジ菌 | 2025年11月30日 (日) 23時12分
継ぎ足しを繰り返して100年以上、そこに震災を乗り越えて至る、
ほかでは絶対味わえないものだし、とっても感慨深いです、
今に感謝の念をおぼえる料理ですね。
夜の神戸の街歩きに、それもまたすてきな味わいですね。。。
投稿: サウスジャンプ | 2025年12月20日 (土) 23時15分
サウスジャンプ 様
サウスさん、こんばんは。
いつもコメントいただき、ありがとうございます。
伝統のデミグラスソースを、震災があっても必死に守り続け、今に伝えるのは素晴らしいことですよね。
そしておっしゃるとおり、この味はほかでは味わえません。
ただ、私がお店でいただいた時は、そこまで意識してなかったような…(笑)
夜の神戸の街歩きについても感想いただき、ありがとうございました。
温かい人情に触れた後だったので、幸福感もあってか、神戸の街がとてもキラキラ輝いて見えました。
これも神戸の味ですね!
投稿: コウジ菌 | 2025年12月21日 (日) 22時13分