季節・旬の味

2023年9月24日 (日)

幻の高級魚・アコウ(キジハタ)の魅力 -広島県尾道市「尾道あこう祭り」のあこう煮付御膳・おこぜ唐揚げ-

アコウ(キジハタ)について

 「アコウ(キジハタ)」と呼ばれる魚を御存知でしょうか。

 「冬のフグ、夏のアコウ」と評される高級魚で、全国的に水揚げ量が少ないため、「幻の高級魚」と呼ばれています。

 釣りの対象魚としても人気の魚で、広島県でも尾道市の「しまなみ海道」エリアなどで釣ることができるようです。

 茶褐色で、赤色やオレンジ色の斑点があり、見た目はカサゴ(ホゴメバル)やアイナメに似ています。

 私は過去に一度だけ、尾道の食堂でアコウの煮付けを食べたことがあります。

 その食堂は、棚に陳列されているおかずの中から食べたいものを取るセルフサービスのお店だったのですが、アコウのことを知らなかった私は「アイナメの煮付けだ」と思ってそのおかず皿を選び、いただきました。

 「脂がのって、とても美味しいアイナメだったな」と満足しつつ、帰りにレジで精算すると、予想をはるかに上回る金額を請求され、驚きました。

 そしてその時初めて、お店の方からこの煮魚がアコウであったことを教えていただきました。

 これが私のアコウとの出会いです。


尾道あこう祭り

 尾道で「尾道あこう祭り」が開催されています。(令和5年9月1日~30日)

(尾道あこう祭りチラシ(開催案内))
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 黒色と金色をベースにした、高級感のあるチラシです。

 尾道のアコウを広く知ってもらうことを目的に、尾道の飲食店16店舗でアコウ料理が提供されるイベントです。

 あこうの煮付けのほか、雑炊、アクアパッツァ、洗い(刺身)、ほうろく焼き、釜めし、キノコと貝のソース(パスタ)、活き造りと様々な料理が御用意されています。


事前予約しても食べられない可能性がある魚

 「尾道あこう祭り」でアコウ料理を食べようと決意し、2日前の夜、お店に予約の電話をしました。

 するとお店の方から「アコウが入荷できるかどうか、漁によって決まるのですが、今日はお店が休みなので、当日になってみないとわかりません。それでもよろしいですか」とお話がありました。

 まずは、知らなかったとは言え、お店が休みの日に電話してしまったことをお詫びしました。

 私の頭の中で、(遠く尾道まで行ってでも、アコウが味わえない可能性もあるのか…それでも賭けてみる価値があるだろうか…)と一瞬考え込みましたが、お店の方の誠意を感じ、「この方ならきっとアコウの入荷に一生懸命動いてくださる。それでもなかったなら、それを快く受け入れよう。あってもなくても尾道へ行こう」と思い、予約をお願いしました。

 漁で水揚げがあるかどうかに左右されるとは、やはりアコウは幻の魚なのだと実感しました。


尾道水道と尾道の街並み

 予約当日。広島のアコウ浪士は覚悟を決め、尾道へ向かいました。

(向島行き渡船と尾道水道)
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 写真手前は尾道と向島を結ぶ渡船、写真奥が尾道大橋です。

 穏やかな港町の様子は、いつも心を癒してくれます。

 尾道の路地も散策しました。

(尾道の路地(テーラーアダムと千光寺))
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 レトロな看板の先には千光寺の赤い本堂が見えました。

(尾道の路地(ひねもすのたり))
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 路地では、カラフルな旗や赤い鳥居が一層映えて見えました。

 尾道は海だけでなく、路地も魅力です。


尾道「青柳」の「あこう煮付御膳」

 予約時刻を迎えたので、お店を訪問しました。

(「青柳」店舗)
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 尾道市土堂海岸通りにあるお食事処「青柳」です。

(「青柳」と「尾道あこう祭り」ポスター)
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 店頭には「尾道あこう祭り」のポスターも掲示されていました。

 お店に入り、予約した名前を告げると、奥におられたお店の方が笑顔で「アコウ入っております」とおっしゃいました。

 目の前がパッと明るくなり、「それは良かったです」とお応えしながらテーブル席に着きました。

 「あこう煮付御膳」が出来上がるのを待つ間に、食事券の応募用紙を持ってきていただきました。

(尾道あこう祭り・食事券応募用紙)
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 「尾道あこう祭り」でアコウ料理を食事された方の中から抽選で20名に2,000円のクーポン券が当たるという企画です。

 しばらくして、待望の「あこう煮付御膳」が運ばれてきました。

(あこう煮付御膳)
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 思わず「おおっ」と声が出るほど大きなアコウでした。

 ご飯、味噌汁、小鉢3種(レンコン・ゴボウ・人参のきんぴら、厚焼き卵、青菜とミョウガの酢の物)、漬物がセットになっていました。

(あこう煮付け)
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 見てください、このボリューム、そして美味しそうな色つや!

 今日はやっと1尾だけ入荷できたとのことで、とても貴重な一皿となりました。

 あこうの煮付けをいただきました。

 とても新鮮で、その証拠に身がまだ骨にぎゅっとくっついていました。

 たっぷりと脂がのった白身は、弾力があってプリプリでした。

 見た目からはメバルやアイナメの煮付けをイメージしますが、脂の含有量が全然違います。

 上品で旨味が凝縮された白身は、鯛やフグに勝るとも劣らない味でした。

 私は魚の煮付けが大好物で、行く先々のお店で「猫にあげるエサがなくなった」と言われるほど、頭から尻尾まで身をきれいに食べ尽くしてしまいます。

(あこうの骨)
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 今回もこんな感じで食べ尽くしました(笑)

 お店の方が頃合いを見計らって、デザートを運んで来られました。

(わらび餅)
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 ただ、この時点では、ご飯と味噌汁はまだ半分程度残していました。

 なぜなら、もう1品注文するつもりでいたからです(笑)


尾道「青柳」の「おこぜ唐揚げ」

 このお店の看板料理であり、アコウより前から尾道の地魚として有名な「オコゼ」の唐揚げを追加注文しました。

 しばらくして、揚げたてアツアツの「おこぜ唐揚げ」が運ばれてきました。

(おこぜ唐揚げ)
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 オコゼの頭をぶつ切りにし、唐揚げにした一品です。

 魚の頭を丸ごと唐揚げにして提供されるとは、よほどの自信を持っておられる証拠です。

 いただきました。

 鰻のような、ねっとりとしてたっぷりと脂がのった白身でした。

(おこぜの身)
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 淡白なメバルの唐揚げをイメージしていた私は、衝撃的な体験でした。

 アコウが無理だった場合、オコゼの料理をいただこうと思っていたのですが、オコゼの唐揚げも注文して正解でした。


まとめ

 食事を終え、帰り際にお店の方にお礼とアコウとオコゼをいただいた感想をお伝えしました。

 アコウが漁の水揚げに左右され、「あこう祭り」の時でさえも安定的に提供できないことも学びました。

 私が「予約を受けておられても、お客さんに提供できない時はつらいですね」とお話しすると、お店の方も「そうなんです。明日もお二人御予約いただいてますが、今日は漁がないので…多分入荷できないでしょう…」とおっしゃってました。

 東京や大阪などの大都市では世界各国・全国各地から食材が集まり、様々な料理を味わうことができます。

 でも、今回御紹介したアコウやオコゼのように、その地方へ行かないと味わえない新鮮な食材や料理、そして感動があることも事実で、それが地方の強みだと言えます。

 お近くの新鮮な地魚を御賞味ください。

 そして機会があれば、美味しいアコウやオコゼの料理が味わえる尾道へもお越しください。


<関連サイト>
 「尾道季節の地魚の店」(尾道季節の地魚の店連絡協議会)
 「青柳」(広島県尾道市土堂2-8-15)

2023年2月 5日 (日)

小田巻蒸し(おだまきむし)-小田巻蒸しの由来と「道頓堀今井」の小田巻むし-

「小田巻蒸し」について

 今回は寒い季節にぴったりの料理「小田巻蒸し(おだまきむし)」を御紹介します。

 小田巻蒸しは,簡単に言えば「うどん入り茶碗蒸し」です。

 大阪・船場(せんば)が発祥とされています。

 「漫画版 朝日新聞 記憶の食」でも,寒い冬の夜に受験勉強をする娘のために,お母さんが夜食に「小田巻蒸し」を作って食べさせるシーンがあります。
 ※長崎のお話なので,長崎弁での会話となっています。

(記憶の食「小田巻蒸し」小田巻蒸しの夜食)
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 (朝日新聞社・フジヤマヒロノブ「漫画版 朝日新聞 記憶の食」少年画報社 p46の一部を引用)

娘:「今晩は寒か…(ハァーッ,ハァーッ)」
母:「京子」
娘:「なに?」
母:「これ(小田巻蒸し)食べんね?」

(記憶の食「小田巻蒸し」小田巻蒸しの作り方)
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 (朝日新聞社・フジヤマヒロノブ「漫画版 朝日新聞 記憶の食」少年画報社 p47の一部を引用)

娘:「これなんね!? 大きな茶碗蒸し?」
母:「小田巻蒸しというんだよ」
娘:「小田巻蒸し?」
母:「鶏肉にニンジン」,「シイタケと青ねぎをきざんで」,「うどんの入った丼に生地を流し込んで蒸すの」

 茶碗蒸しだけでも嬉しいのに,中にうどんまで入っているとは,寒い季節にぴったりの料理です。


「小田巻蒸し」と「苧環(おだまき)」

 「小田巻蒸し」の「小田巻」は「苧環(おだまき)」の当て字だと言われています。

 「苧環」は紡いだ麻糸を丸く巻いたもので,かつてはその巻き糸から織物「倭文(しつ)」が作られました。

 これに関して「伊勢物語」に次のような古歌があります。

 「いにしへの しづのおだまき 繰りかへし 昔を今になすよしもがな」

 現代語訳では「倭文の苧環(しづのおだまき・糸巻き)のように,もう一度(楽しかった昔に)時を巻き戻すことができたら」という意味になります。

 また,その古歌を踏まえて静御前(しずかごぜん)は,

 「しづやしづ しづのおだまき 繰りかへし 昔を今になすよしもがな」

 という歌を詠んでいますが,これは現代語訳で「源義経が私を「しづ(静)」と呼んでくれたようにもう一度(楽しかった昔に)時を巻き戻すことができたら」という意味が込められています。

 このように「おだまき」はグルグル巻かれた糸巻きのことで,歌の世界では,その「おだまき」に昔の世界までも巻き戻してほしいという願いが込められたようです。

 「小田巻(蒸し)」の場合は,この「倭文の苧環(しづのおだまき)」のように,丼のうどんがグルグル巻きに見えたことに由来するのでしょう。

 かつては大阪を中心に多くのお店で出されていた「小田巻蒸し」。

 いつか味わってみたい,それが無理なら自分で作ってみたいという思いが,おだまきのように繰り返すのでした。


小田巻蒸し

 大阪市中央区道頓堀にやってきました。

 道頓堀筋を歩いていると,昔の道頓堀を彷彿とさせる,何とも味わい深い小路がありました。

(浮世小路)
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 「一寸法師」の物語も,ここから始まったようです。

 「今晩は寒か…」と思いつつ,ふと隣のお店の案内板を見ると…。

(小田巻むしの案内)
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 「小田巻むし!」

 今月(11月)のおすすめ品として「小田巻むし」の案内がありました。

 「昭和30年頃までは,この季節になると浪速の町のあちこちのうどん屋さんの店先では「小田巻むし」が入った大きなセイロが湯気をシュンシュンと上げていたそうです。「小田巻むし」は簡単に言うとうどんの入った茶碗むしです。蒸し上がるのに15分程かかりますが,何かとせわしない時代に一杯やりながら,ゆっくりと小田巻むしを待つのもおつなものでは?」

 なるほど。

 やっと小田巻蒸しに出会えました。この感動を私も歌で一句。

 「これやこれ めしのおだまき あったがな なにわの味やで 知らんけど」

 私が通りすがりのお店に入ることは珍しいのですが,「小田巻むし」をむしすることはできず,巻き込まれるようにお店に入りました。

(道頓堀今井(店舗))
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 のれんをくぐり…

 私:「邪魔すんで~」
 店員:「邪魔すんやったら帰ってや~」
 私:「あいよ~って,なんでやねんな!」

 ということはなく(笑),実際はとても親切で丁寧な応対・サービスをしていただけるお店でした。

 道頓堀は人が多くとても賑やかな街ですが,店内は落ち着いた雰囲気で,ゆっくり過ごすことができました。

 「小田巻むし(お寿司付き)」を注文し,お茶を一杯やりながらゆっくり待ちました。

 しばらくして,私の席に小田巻むしが運ばれてきました。

(小田巻むし)
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 見た目は大きな茶碗蒸しです。

 具は,茶碗蒸しだと中に入っていますが,この小田巻むしは見栄えよく上側に盛り付けられています。

(小田巻むしと鯛笹まきずし)
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 鯛の切り身と山椒の葉をのせた笹まきずしとセットでいただきました。

 茶碗蒸しを崩すのがもったいないと思いつつ,箸で中のうどんを取り出しました。

(小田巻むしのうどん)
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 太めのもっちりとした,熱々のうどんでした。

 「うん,これは確かに温まる。寒い季節にぴったりの料理だ」と思いました。

(小田巻むしの具とうどん)
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 こうしてみると,中心の具がぐるっと一回転するように盛られ,中のうどんも糸のようにまとめられているので,確かに糸巻き(おだまき)のように見えます。

 具は鶏肉,サワラの切り身,アナゴ,かまぼこ,椎茸,ぎんなん,みつば,柚子の皮で,1つ1つが大きくて食べ応えがありました。

 そして旨味と香りが凝縮されただし汁もたっぷり入っていました。

 心も体も温まる美味しいうどん料理でした。


<関連サイト>
 「道頓堀今井」(大阪市中央区道頓堀一丁目7-22)
 「道頓堀筋・浮世小路」(道頓堀商店会)

<参考文献>
 朝日新聞社・フジヤマヒロノブ「漫画版 朝日新聞 記憶の食」少年画報社
 古川のり子「昔ばなしの謎 あの世とこの世の神話学」角川ソフィア文庫

2022年6月 5日 (日)

ルバーブの特徴を知る(2) -ルバーブジャム・ルバーブパイ・ルバーブとゆずのデニッシュ-

広島県廿日市市吉和のルバーブ

 広島県廿日市市吉和は,広島県北西部,隣は山口県と島根県に位置する地域です。

 標高が高い豪雪地帯にあって,その気候を生かして栽培されているのがルバーブです。

 私はその吉和のルバーブでルバーブパイを作り,美味しくいただいたことがあります。

 ゴールデンウイークに吉和を訪問した際,ちょうどルバーブの収穫時期だったようで,お店の産直コーナーにルバーブが販売されていました。

(「魅惑の里」特産館)
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 吉和にある総合レジャー施設「魅惑の里」の物販施設「特産館」です。

 お店に近づいてみると…

(ルバーブの販売案内)
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 段ボールに手書きで「ルバーブ入荷中」と書かれた看板がありました。

 「あった!またルバーブパイが味わえる」と喜びながらお店に入りました。

 店内ではルバーブの茎だけにカットされたものが販売されていました。

(ルバーブ(茎))
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 どっさりルバーブが入手できたところで,ルバーブジャム・ルバーブパイ作りに挑戦です。


ルバーブジャムを作る

 最初にルバーブジャムを作りました。

(ルバーブの皮)
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 前回購入したルバーブは皮が緑色だったのですが,今回は赤色でした。

 これなら赤色のルバーブジャムができるだろうと,皮をむかずにそのまま,包丁で茎を2~3cmの大きさに切りました。

(ルバーブの茎を2~3cmに切った様子)
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 細かく切ったルバーブをボウルに入れて砂糖を加えました。

(ルバーブに砂糖を加えた様子)
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 この状態で1~2時間置いておくと,ルバーブから水分が出てきて,甘さが浸透します。

 片手鍋に移し変え,砂糖をさらに加えた上で,ルバーブを煮ました。

(ルバーブを鍋で煮る様子)
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 ルバーブの茎は,生だと繊維の筋があるのですが,煮ると面白いほどクタクタに溶けます。

(ルバーブジャムの完成)
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 水分がなくなるまで煮詰めて,ルバーブジャムの完成です。

(ルバーブジャム)
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 予想どおり赤色のジャムになりました。


ルバーブパイを作る

 続いてルバーブパイを作ります。

 市販の冷凍パイシートの生地を麺棒で少し伸ばし,ルバーブジャムをのせました。

 もう1枚のパイシートで,フォトフレームのように四角く切ったものと,細い短冊形に切ったものを用意しておきました。

 ルバーブジャムをのせたパイシートの上に四角い枠の生地で縁どりをし,細い短冊形の生地を交互に置きました。

 縁どりの部分はジャムがはみ出ないようフォークでしっかりと押さえ,生地の表面には焼き色をつけるための卵黄液(卵黄を少量の水で溶いたもの)を塗っておきます。

(パイ生地とルバーブジャム(焼く前))
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 この状態で180℃に熱したオーブンに入れ,15分から20分焼きます。

 ほどよく焼き色がつけば,ルバーブパイの焼き上がりです。

(ルバーブパイの焼き上がり)
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 大きなルバーブパイが2枚できました。

(ルバーブパイ)
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 赤いルバーブパイです。

 ルバーブパイが美味しい理由は,ルバーブジャムの酸味とパイのバター風味がとても良く合うからです。

 酸味のあるリンゴを使うと美味しくなるアップルパイと同じ理由です。

 今回のルバーブパイもその味を期待して食べました。

 が,ルバーブジャムの砂糖の量が足りなかったので,ルバーブの酸味が目立つルバーブパイとなってしまいました…。

 たくさんできたので,一口サイズに切り分けて職場へ持って行き,みんなにおすそ分けしようと考えていたのですが,納得のいく味にならなかったので,私がすべて食べました。
 (控えめな甘さを好む私には許容範囲だったのですが…。)


ルバーブとゆずのデニッシュ

 広島に本社がある「アンデルセン」の創業者・高木俊介氏は,デンマークでデニッシュの製法を学び,日本で最初にデニッシュを紹介された方です。

 デニッシュは「アンデルセン」の看板商品の1つですが,その「アンデルセン」でルバーブのデニッシュが販売されていました。

 ルバーブのデニッシュは,「アンデルセン」の「デンマークフェア」(2022年6月1日~30日)にちなんだ期間限定商品です。

 「アンデルセン」デンマーク店のペストリーシェフ・ニクラスさんが,デンマークの食材を使ったデニッシュとして開発されました。

 「アンデルセン」の店頭でデンマークフェアの映像を拝見したのですが,ニクラスさんが,ルバーブはデンマークでおなじみの「野菜」だと紹介されていました。

 ルバーブは一般的に甘くして食べますが,分類は「野菜」なのだと改めて認識しました。

 ルバーブとゆずの組合せは,デンマークの食材(ルバーブ)に和のテイスト(ゆず)を加えた一品となっています。

(ニクラスさんのルバーブとゆずのデニッシュ)
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 デニッシュの中心部にカスタードクリームと赤いルバーブが盛られています。

 いただきました。

 ざく切りのルバーブは,甘いシロップが浸透して,形が崩れそうなほど柔らかく仕上げられていました。

 ゆずとカルダモンの風味も効いていました。

 バター風味豊かなデニッシュ生地と甘酸っぱいルバーブの組合せは抜群です。


ルバーブとシュウ酸

 ルバーブを食べる際,注意しておくことがあります。

 ルバーブにはシュウ酸が含まれていることです。

 葉に多く,茎には少ないようですが,茎を食べるときも煮てアクをとるなど,なるべくシュウ酸を除いた状態で食べた方がよいでしょう。

 私は今回作ったルバーブパイやルバーブジャムを食べて,そのことを身をもって経験しました。

 みんなにおすそ分けしないならと,毎日のようにルバーブパイやルバーブジャムを食べました。

 すると約1週間後の朝,急に下腹に激痛が走り,気分が悪くなって,立ち上がることさえできなくなりました。

 救急車を呼ぼうかと思ったほどの痛みです。

 しばらくして落ち着きましたが,その後数日にわたって何度かその重く激しい痛みを経験しました。

 病院へ行こうにも,どの診療科へ行けばいいのかわからず,困りました。

 過去に尿路結石ができたことがあり,その時も同じような症状でとても苦しんだので,もしかしたら今回もそうかなと思いつつ,過ごしていました。

 そんな時,たまたまルバーブのことをインターネットで調べていたら,ルバーブにはシュウ酸が多く含まれていることを知りました。

 それを知った瞬間,私は「あっ,これが原因か。自業自得なのか」と思わず笑ってしまいました。

 ルバーブを煮る際にきちんとアクをとらなかったことと,ルバーブを食べ続けたことがよくなかったのでしょう。

 これで尿路結石であることが確定したので,あとはこの結石が尿と一緒に出るのを待つだけです。

 気持ちが楽になったからか,その後しばらくして痛みは消え,結石も尿で流れ出たようです。

 ルバーブを食べると尿路結石になるというお話ではなく,結石を作りやすい人は,アクを取るとか,摂取量・摂取回数を少なくするなどの対応が必要になるというお話です。

 私は結石を作りやすい体質なのでしょう。

 前回は,ほうれん草を毎日食べ過ぎたことが原因でした。

 ルバーブにせよ,ほうれん草にせよ,個人差はありますし,極端な量・回数でなければ問題はありません。

 塩だって一度に多く摂取すれば体に有害なのと同じで,食材にどういう特徴があるのかよく理解した上で,いろんな食材・料理を美味しく,楽しく,バランスよく食べたいものです。


まとめ

 今回,あえて私の体験談も御紹介しましたが,それはルバーブを控えた方がよいという話ではなく,ルバーブの特徴をよく御理解いただいた上で,ルバーブをより多くの皆様に楽しんでいただきたいからです。

 ルバーブを自分で調理して食べる場合は,アクをよく取り除き,適量を美味しくいただきたいものです。

 
 食の世界のアクなき探求は,これからも続きます。


<関連サイト>
 「ルバーブ」(廿日市市観光公式サイト)
 「魅惑の里」(広島県廿日市市吉和132)
 「アンデルセン」(「広島アンデルセン」広島市中区本通7-1ほか)

<関連記事>
 「ルバーブの特徴を知る(1) -ルバーブジャム・ルバーブパイ-

<参考文献>
 「Denmark Fair」アンデルセン広報誌
 「ブレッド図書館 デニッシュ」(2022年5月28日放送・NHK Eテレ)

2022年3月27日 (日)

岩手県大船渡市の早採りわかめと宮城県気仙沼市のめかぶ -生わかめ・めかぶ鍋・たたきめかぶ・冷奴・おでん(わかめ)-

 日本で流通するわかめのうち,国産は約2~3割で,そのうちの約7割が宮城県・岩手県を中心とした三陸産です。

 2011年3月11日に発生した東日本大震災では,三陸沿岸のわかめ養殖施設も甚大な被害を受けました。

 震災発生から11年を経た今,現地のわかめ漁の現状と,わかめの魅力について学ぶため,震災復興支援事業の一環でもあるオンラインイベントに参加しました。

 今回は岩手県大船渡市の早採りわかめと宮城県気仙沼市のめかぶを御紹介し,併せてオンラインで学んだ岩手県大船渡市のわかめ漁の現状やわかめ・めかぶの魅力などについてもお話ししたいと思います。


岩手県大船渡市の生わかめと宮城県気仙沼市のめかぶをお取り寄せ

 わかめ・めかぶは春が旬です。

 1年で海の水が一番冷たくなるのは冬ではなく春なのだそうで,その海水が一番冷たい時期にわかめ漁は行われます。

 2022年2月下旬,まだまだ寒さ厳しい岩手県大船渡市・宮城県気仙沼市から,採れたての生わかめ・めかぶをお取り寄せしました。

(生わかめ・めかぶ(梱包))
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 わかめ(写真左側)とめかぶ(写真右側)がそれぞれ袋詰めされています。

 袋を開けると,遠く離れた三陸の潮の香りが漂いました。

(生わかめ)
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 岩手県大船渡市で採れた生わかめの様子です。

 「早採りわかめ」と呼ばれる,間引きのために早く収穫したわかめです。

 そのため,あまり大きいものではなく,1本の長さは約1メートルでした。

 続いて,めかぶを袋から取り出しました。

(めかぶ)
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 宮城県気仙沼市で採れためかぶです。

 この大きさのめかぶは,十分な大きさに育ったわかめから採れたものです。

 先程御紹介した「早採りわかめ」ではまだ十分な大きさのめかぶに育っていないため,わかめとめかぶは別々の産地から届けられました。

(生わかめ・めかぶ)
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 今回届いた生わかめとめかぶの全体量はこんな感じです。取り出してみるとかなり量がありました。

 このわかめとめかぶを使っていろんな料理を作り,味わい尽くしたいと思います。


わかめ・めかぶについて理解を深める

 ここで,わかめとめかぶについて,岩手県大船渡市の漁師・千葉 豪(ちば ごう)さんから学んだことを中心にまとめてみます。

【わかめとめかぶの違い】
 植物の葉っぱや茎のように見えるところが「わかめ」と呼ばれる部分。
 葉っぱのように見える箇所を「葉状体」,茎のように見える箇所を「芯」と呼ぶ。
 その根元にあるのが「めかぶ」。
 わかめの生殖器にあたる部分で,正式名称は「胞子葉」。
 春になると胞子を出す。

(わかめとめかぶの構造)
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(東北食べる通信「生若布」説明書の一部を引用)

 この絵は,天然のわかめ・めかぶの様子を描いたものです。
 養殖のわかめ・めかぶは,上から吊り下げられた状態で育てられるため,上下が逆になります。

【わかめ漁師とめかぶ漁師】
 成長のタイミングにずれがあるため,わかめを中心に栽培する漁師と,めかぶを中心に栽培する漁師がおられる。

【国産わかめと外国産わかめの比率】
 日本国内に流通しているわかめのうち,国産が約2~3割,外国産が約7~8割。
 地域によって比率が異なり,大阪など大都市部では国産が1割程度となる。

【早採りわかめ】
 大きく育つ前のわかめを,間引きのために早く収穫したもの。
 70cm~1m程度で収穫する。(大きく成長したわかめは4m前後になる)

【わかめ・めかぶの成長】
 海水温が高いと早く成長する。
 桜前線が日本列島を北上するのと同じイメージで旬が訪れる。
 岩手より南に位置する宮城の方が海水温が高いため,今回のお取り寄せは岩手の早採りわかめと宮城のめかぶという組み合わせとなった。

【わかめの保存】
 生わかめをしばらく保存させる場合は,できるだけ早めに湯通しして塩をまぶしておくと日持ちする。
 そのままにしておくと,例え冷蔵庫に入れておいてもすぐに傷む(劣化する)。

【生わかめの流通・販売】
 生わかめは痛み(劣化)が早いため,生産地=消費地となる。
 生わかめを流通させることは難しいため,生わかめが販売されている地域は限られる。


 皆様は生のわかめを召し上がったことがあるでしょうか。

 私は食べたことがあるのですが,今回のオンライン参加者20名のうち12名(6割)は「今回のお取り寄せで生わかめを初めて食べた」との回答でした。

 私の住む広島市はわかめの養殖が盛んな地域で,毎年2月頃に鮮魚店・鮮魚売場や漁業協同組合などで生わかめが販売され,広島市水産振興センターでも生わかめの魅力をPRされているのですが,これは沿岸部の限られた地域で行われていることなのだとわかりました。


わかめクイズ

 オンラインイベントの中で,わかめに関するクイズコーナーもありました。

1 わかめの養殖の発祥地は次のうちどれでしょうか。
(1)韓国 (2)三陸 (3)徳島(鳴門)

2 わかめは在来種・外来種どちらでしょうか。
(1)在来種 (2)外来種

3 今回の漁師・千葉 豪さんの好きなわかめ料理は何でしょう。
(1)しゃぶしゃぶ (2)天ぷら (3)漬物

 最後のクイズなど知っているわけありませんが(笑),正解は1…(2)三陸,2…(1)在来種,3…(3)漬物です。

 わかめの養殖は,岩手県大船渡市末崎町の小松藤蔵さんが取り組み,成功したのが始まりで,同町には「わかめ養殖発祥の地」の石碑があります。

 韓国では誕生日・女性の産後・お祝いする日などに「わかめスープ」を食べる習慣があり,わかめがたくさん食べられていることから,私は「わかめは外来種かも」と思ったのですが,在来種とのお話でした。
 逆に海外では,わかめを「外来種」の悪者扱いにしている国もあるようです。

 わかめの漬物は産地ならではの料理で,茎わかめ・人参・生姜などを刻んで塩や醤油,めんつゆなどで漬けて作られるようです。
 この漬物が絶品なのだそうです。


生わかめ・めかぶを茹でてみる

 わかめ・めかぶについて理解を深めたところで,調理と実食に移ります。

 めかぶをお湯で茹でてみました。

(茹でめかぶ)
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 茹でた瞬間,鮮やかな緑色に変化し,表面にヌルヌル・ネバネバした粘りが出てきました。

(茹でめかぶ(粘り))
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 めかぶは,この粘りが特徴です。

 次に生わかめを茹でてみました。

(茹でわかめ)
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 生わかめも茹でた瞬間に鮮やかな緑色に変化しました。

 粘りは出ず,ハリとシャキシャキ感が増しました。

 茹でたわかめやめかぶは,醬油やポン酢,マヨネーズなどで刺身のようにいただきました。

 新鮮な生のわかめ・めかぶだからこそできる一品で,美味しくいただきました。


生わかめ・めかぶ鍋と雑炊

 生わかめ・めかぶを入れた寄せ鍋を作りました。

(生わかめ・めかぶ鍋)
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 本当はわかめとめかぶがメインのしゃぶしゃぶにする予定でしたが,たくさん具を入れたので,寄せ鍋になってしまいました(笑)

 鍋を味わった後は,そのだし汁に生卵とねぎを入れて雑炊にしてみました。

(生わかめ・めかぶ鍋の雑炊)
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 わかめとめかぶからとても良いだしが出て,鍋や雑炊に適していることがわかりました。

 わかめやめかぶを一度にたっぷりと食べられることも魅力です。


たたきめかぶ

 茹でためかぶを包丁で細かく刻み,たたきめかぶを作りました。

(たたきめかぶ)
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 仕上げにうずらの卵の黄身をのせました。

 めかぶを茹でると表面にヌルヌルとした粘りが出るのですが,そのヌルヌルでめかぶが移動し,包丁で細かく刻むことが想像以上に大変でした。

 そのため,フードプロセッサーを使って刻む方法もあるようです。

 醤油をかけていただきました。


めかぶの冷奴

 たたきめかぶを豆腐の上にのせ,冷奴にしてみました。

(めかぶの冷奴)
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 昆布にも似ためかぶの旨味が加わって,冷奴の味が格段に高まりました。


おでん(わかめ)

 わかめをおでんの具にしても美味しいに違いないと思い,おでんに生わかめを入れて煮込みました。

(おでん(わかめ))
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 おでんの中心がわかめです。

 「うん,やっぱり美味しい!」

 あまり煮過ぎると崩れて溶けてしまいますが,適度に煮たわかめはシャキシャキとした歯ごたえがあり,おでんの汁を吸ってとても美味しい一品になりました。

 同時に,おでんのだしにもなり,一石二鳥の役割を果たしてくれます。


まとめ

 今回オンラインで中継された大船渡市吉浜地区は,東日本大震災に伴い約20メートルの津波が襲ってきたようです。

 海に近い漁港や養殖施設などは津波に流されたものの,高台にある住宅地帯は助かり,生活拠点が残ったことで漁業再開・地域復興につなげられた方も多くいらっしゃいます。

 今回お世話になった漁師の千葉 豪さんもそのお1人です。

 千葉 豪さんは,わかめの魅力を広め,ブランド化にも取り組むべく,青森・岩手・愛知・徳島・福岡・大分など全国のわかめ産地を訪問し,日々研究されています。

 他の産地・漁師を敵として競争するのではなく,わかめ漁師と加工業者が一緒になって,みんなでわかめの魅力を伝え,みんなのわかめを食べてほしいという思いで頑張っておられる千葉 豪さんのお姿が印象的でした。

 今回のオンラインは,復興支援の取組みとして,岩手めんこいテレビのニュースでも紹介されたのですが,その中で千葉 豪さんは「生のワカメはおいしい。ワカメにも旬があると伝えてほしい」とわかめの魅力を語っておられました。

 最後に,私から千葉 豪さんに「広島市でも旬になると生わかめが流通すること」,「福岡市早良区の食育レシピに生わかめを使ったおにぎり(サザエさん家の子供たちのおにぎり)があること」,「大船渡市・吉浜産のわかめには大きな強み・魅力があると思ったこと」などをお伝えしました。


 わかめは,普段から味噌汁などでよく食べられているだけに,国産か外国産か,乾燥わかめか塩蔵わかめか生わかめか,などにあまりこだわらない(関心がない)方が多いようです。

 ただ,本当に良いわかめ,新鮮なわかめは,美味しいだけでなく,身体に感動と喜びを与えてくれる力を持っていると思います。

 美味しいわかめを御賞味ください。


<関連サイト>
 「わかめ養殖発祥地顕彰碑・わかめ養殖の碑」(三陸DMOセンター)
 「第1回ワカメサミット開催!全国のフィッシャーマンが集い、ワカメを語り尽くした1日」(フィッシャーマンズ・リーグ,東の食の会)

<関連記事>
 「福岡市早良区「サザエさん通り」誕生記念料理 -サザエさん家の子供たちのおにぎり-

<参考文献>
 「東北食べる通信」(2019年1月号「生若布」・NPO法人 東北開墾)

2022年1月 3日 (月)

福岡県の特産品「かつお菜」 -茹でかつお菜・茹で汁のお吸い物-

福岡県の特産品「かつお菜」

 福岡県には「かつお菜」と呼ばれる葉物野菜(旬:12月~1月)があります。

 その名称は,煮物や汁物にするとカツオのだし汁のような風味・旨味がすることに由来すると言われています。

 また,漢字では「勝男菜」と表記され,縁起も良いことから,地元福岡ではお正月に雑煮の具として用いられています。

 私はこのかつお菜を,人々の「記憶の食」にまつわる物語を描いた本「漫画版 朝日新聞 記憶の食」で知りました。

 この本の「がめ煮とお雑煮」というお話にかつお菜が登場します。

(記憶の食「がめ煮とお雑煮」福岡の雑煮)
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(朝日新聞社・フジヤマヒロノブ「漫画版 朝日新聞 記憶の食」少年画報社 p92の一部を引用)

 「福岡のおせちと言えば だしの効いたすまし汁に 丸いお餅とかつお菜が入ったお雑煮に がめ煮と呼ばれる独特の濃い味付けをしたお煮しめです」

 就職のため福岡を離れ,神奈川で暮らす女性が,お正月料理の準備で「がめ煮(筑前煮)」や「お雑煮」を作ろうとするのですが,関東では「丸いお餅」,「かつお菜」,「焼きあご(干したトビウオを焼いたもの)」が手に入らないことを知ります。

(記憶の食「がめ煮とお雑煮」かつお菜)
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(朝日新聞社・フジヤマヒロノブ「漫画版 朝日新聞 記憶の食」少年画報社 p94の一部を引用)

 八百屋:「かつお菜?うちには置いてないね」
 主人公の女性:「そうですか…」,「まさかどこの八百屋にも売ってないなんて」,「困ったわ…お雑煮には苦味と歯ごたえのかつお菜がないと」

 かつお菜は,福岡県以外ではなかなか入手できない珍しい野菜なのです。


通販サイトで福岡県産かつお菜を注文

 「煮るとカツオのだし汁のような風味と旨味が出る野菜とは,いったいどんな野菜なのか」

 興味を持った私は,11月下旬に地元広島市内のスーパーマーケットなどで,かつお菜が陳列されていないか探しましたが,やはり売られていませんでした。

 そこで産直サイト「ポケットマルシェ」で販売されていた福岡県久留米市「安元のぼる農園」さんのかつお菜を予約注文しました。

 「ポケットマルシェ」の面白いところは,生産者・出荷元の方とネットでメールのやり取りが出来ることです。

 安元さんからもメールをいただき,注文内容について何度かお話しさせていただいた結果,年末に収穫し発送していただけることになりました。


福岡県久留米市からかつお菜が届く

 2021年12月25日,福岡県久留米市の「安元のぼる農園」さんから,かつお菜と野菜のセットが届けられました。

(かつお菜と野菜のセット)
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 かつお菜のほか,農園で収穫された野菜(ホウレンソウ,チンゲンサイ,ブロッコリー,ミニ大根,ビーツ)がダンボール箱にぎっしりと詰められていました。

 どの野菜もとてもきれいで,1つ1つに手書きで野菜の名前が記されていました。

 その野菜を見るだけで,安元さんのやさしく丁寧なお人柄が浮かび上がってくるようでした。

 どれも新鮮で美味しかったことは言うまでもありません。

 それでは,かつお菜を御紹介します。

(かつお菜(安元のぼる農園))
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 これが,かつお菜です。

 長さが40cm前後ある,大きな葉物野菜です。

 葉はやわらかくて厚みがあり,少しちぢれた感じになっています。

 軸はセロリのように白くアーチ形になっており,しっかりとした固さがあります。


福岡県以外なら野菜産直コーナーでチェック

 広島にはないだろうと思いつつ,様々なお店の野菜コーナーを見て回っていると,偶然にもデパート地下食品売場の野菜産直コーナーで販売されていました。

(かつお菜(まごやさい))
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 少量多品種生産を行っておられる農家さんでかつお菜を栽培されているケースがあるようです。

 福岡県出身の方など,かつお菜の魅力を御存知の方が購入されるのでしょう。

 ただ,翌週同じ野菜産直コーナーへ行くと,もう販売されていませんでした。

 かつお菜の旬の時期(12月~1月)に野菜産直コーナーでよく探してみると,かつお菜が販売されているかも知れません。


かつお菜を茹でてみる

 今回の最大の関心事は,「かつお菜を茹でると本当にカツオのだし汁の味がするのか」ということです。

 沸騰させた鍋にかつお菜を入れ,しばらく茹でてみました。

(鍋でかつお菜を茹でる様子)
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 すぐに火が通るので,サッとゆがく程度で良いと思います。


本当にカツオのだし汁の味がするかつお菜

 まずは茹でたかつお菜をそのままいただきました。

 「えっ,本当にカツオのだし汁の味がする!」

 これにはとても驚きました。

 野菜なのに,本当にカツオのだし汁の味がしたからです。

 アクが少なく,辛味もないので,茹でただけでも美味しくいただけました。

 小皿には,かつお菜にかつお節をのせましたが,かつお菜自体にかつお節の風味がするので,あまり意味がないことをしてしまいました。

(茹でたかつお菜とかつお節)
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 茹でたかつお菜に醤油を少しかけるだけで,「ほうれん草のおかか和え」そっくりになります。

 「これだけカツオだしの味がするなら」と,試しに茹で汁を飲んでみると,やはりこれだけで美味しいだしが出ていました。

 そこでこの茹で汁にほんの少し醤油と塩を足して味を調え,お吸い物にしてみました。

(かつお菜のお吸い物)
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 「うまか~」

 カツオだしを使ったような,良い風味のお吸い物に仕上がりました。


まとめ

 歯ごたえが良く,えぐみや苦味が少なく,カツオだしのような旨味を持つ「かつお菜」。

 福岡の人々に愛され,お雑煮などに使われる理由がわかりました。

 その福岡でも,近年,小松菜やほうれん草などの栽培にシフトし,かつお菜の生産量は年々減少傾向にあるようです。

 幻の野菜にしないためにも,かつお菜の魅力と美味しさをもっと多くの皆様に知っていただきたいです。


<関連サイト>
 「安元のぼる農園(ポケットマルシェ)」(福岡県久留米市北野町)
 「まごやさい」(広島県安芸高田市向原町戸島1556)

<参考文献>
 朝日新聞社・フジヤマヒロノブ「漫画版 朝日新聞 記憶の食」少年画報社

2021年11月 7日 (日)

岩手県陸前高田市の新生姜 -生姜とひね生姜の違い・新生姜の炊き込みごはん・生姜たっぷり豚肉生姜焼き・新 生姜焼き-

 新生姜をお取り寄せしました。

 生姜は寒さに弱いため,国内でも高知県や九州地方など比較的温暖な地域で栽培される傾向にあります。

 今回は,生姜の魅力にとりつかれ,東北地方で生姜づくりや生姜のブランド化に挑戦されている岩手県陸前高田市・菊地康智さんの生姜を御紹介します。

 併せて,私が実際に作ったいくつかの生姜料理や,オンラインで菊地康智さんから伺った生姜のお話も御紹介したいと思います。


岩手県陸前高田市の新生姜


 陸前高田市は,岩手県の沿岸部で最南端に位置する市です。

 東日本大震災で大きな被害を受けた地域の1つで,有名な「奇跡の一本松」があります。

 その陸前高田市から,私の自宅がある広島市へ新生姜が届きました。

(新生姜(箱詰め))
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 箱を開けると,大きくて立派な新生姜が2つ,ビニール袋と新聞紙で梱包されていました。

(新生姜(包装))
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 袋には「なま 三陸 ジンジャー しょうが 100%」,「栽培期間中の農薬・化学肥料不使用」と記載されたラベルが貼られていました。

 ラベルの生姜の形が,何となく岩手県の形に見えるのは私だけでしょうか。

 新生姜を取り出してみました。

(新生姜)
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 真珠のような美しい肌をした新生姜です。

 生姜は,「種生姜」(前年に収穫した生姜,「たねいも」のようなイメージ)から第1茎が発生し,その後左右に第2茎,第3茎…と,横へ横へと広がりながら増えていきます。

 先端の赤い部分は「袴(はかま)」と呼ばれる部分で,赤色はアントシアニンという色素によるものです。

 新生姜を酢に漬けるとピンク色になるのは,このアントシアニンの作用によるものです。

 新生姜は「ひね生姜」(一般的に市販されている茶色い生姜)と比べて皮が薄いので,皮むきせず,そのまま使うことができます。


生姜について理解を深める

 オンラインで菊地康智さんの農園を御紹介いただき,一緒に生姜のお話も伺うことが出来ました。

 そのお話をいくつか御紹介したいと思います。

【新生姜の旬】
 新生姜は初夏に出回るイメージがあるが,初夏に出回るのはハウスもの。露地ものは秋が旬。

【新生姜とひね生姜の違い】
 スーパーマーケットなどで見かける茶色い生姜が「ひね(古根)生姜」。
 ひね生姜は,新生姜を3か月以上貯蔵したもの。
 乾燥から身を守り,長生きできるように表面の色が濃くなり,繊維質の多い生姜となる。
 ひね生姜は畑に植えると「種生姜」となり,それから新生姜が生まれる。
 新生姜は繊維質が少なくみずみずしいため,寿司の「ガリ(生姜酢漬け)」にも使われている。

【新生姜の収穫量】
 種生姜を植えると,その8~9倍ぐらいの新生姜ができる。

【寒さに弱い生姜】
 生姜は霜に当たるとすぐに傷むため,陸前高田市で栽培する場合,生姜の一大産地である高知よりも2か月遅く植えて,1か月早く収穫しなければならない。
 冷蔵庫よりも常温保存が適している。

【生姜の保温効果を高める食べ方】
 生姜の保温効果が高いのは,順に①乾燥させた生姜,②加熱した生姜,③生の生姜。

【Ginger(ジンジャー)の意味】
 Ginger(ジンジャー)は,生姜という意味のほかに,元気や活発にするという意味もある。

【はじかみ】
 焼き魚などに添えられる棒状の生姜「はじかみ」は「小生姜」に分類される。
 江戸時代までは,生姜,ワサビ,ニンニクのすべてをひっくるめて「はじかみ」と呼ばれていた。

【生姜をこよなく愛した著名人】
 中国の孔子は生姜をこよなく愛し,それが長寿の秘訣だったとも言われている。

【東日本大震災時の食事にも生姜】
 東日本大震災後,冷たい避難所で過ごす人々の体を少しでも温めるため,食事に生姜が多用された。

【ジンジャーの神社】
 石川県にジンジャーの神社がある。
 「波自加彌神社(はじかみじんじゃ)」で,無病息災・料理上達の御利益がある。


 ジンジャーの神社まであるとは,面白すぎるでしょうが!(笑)


山盛り新生姜の炊き込みごはん

 生姜について学んだところで,次に陸前高田市・菊地康智さんの新生姜を使った料理を御紹介したいと思います。

 まずは,生姜の炊き込みごはん「山盛り新生姜の炊き込みごはん」です。

 せっかくなので,土鍋で作ってみました。

 まずは,米(2合)を研ぎ,しばらく水に浸しておきました。
 これは,米にだし汁をたっぷり吸わせるためです。

 新生姜は,皮付きのまま針状に千切りにします。

 調味料は,だし汁(だしパックを使用)に酒,みりん,醤油を合わせたものです。

(米・新生姜・調味料を土鍋に入れた様子)
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 土鍋に米,新生姜,調味料を入れた様子です。

 鍋にふたをし,中火で沸騰させたあと,弱火で約13分炊き,火を止めて約20分蒸らすと出来上がりです。

 鍋で炊く場合,どのタイミングまで加熱すればよいのか不安になりますが,「ゴーゴー」と米が対流する音から,徐々に「ポツポツ」と米が対流しなくなった音に変化し,ふたからの蒸気も徐々に勢いをなくし,次第におこげの香りもしてきますので,こうした音や香りの変化でタイミングを見極めるとよいでしょう。

 鍋で炊いた方が炊飯器よりも早く炊き上がります。

(生姜ごはん炊き上がり(土鍋))
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 表面が生姜で覆われた炊き込みごはんが完成しました。

(山盛り新生姜の炊き込みごはん)
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 繊維が柔らかくてシャキシャキの新生姜は,炊き込みごはんの具にぴったりでした。

 ひね生姜に比べて香りや刺激がやさしいので,たっぷりいただくことが出来ます。

 おかずなしで何杯でもおかわりしたくなる炊き込みごはんでした。


生姜たっぷり豚肉生姜焼き

 続いては生姜をたっぷり使った生姜焼きを御紹介します。

 豚肉の生姜焼きは,生姜を皮付きのままですりおろし,たっぷり使えば使うほど美味しくなります。

 このお話は,広島を中心に活躍されている食の研究家「シャオヘイ」さんから直接教えていただきました。

 トンカツ・ステーキ用の厚切り豚肉を使うのも,この料理の特徴です。

 調理法は次のとおりです。

 豚ロース肉(トンカツ・ステーキ用)は常温に戻し,表面に小麦粉をまぶしておきます。
 生姜はおろし器で皮ごとすりおろしておきます。
 生姜焼きのたれは,酒・みりん・醤油を同量ずつ(同じ比率で)合わせたものです。

(豚ロース肉・すりおろし生姜・生姜焼きのたれ)
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 このような感じで用意したら,まずは油をひいて熱したフライパンに豚ロース肉を敷き,中火である程度焼きます。
 (後で再加熱するので,この段階で完全に焼く必要はありません。)

 豚肉がある程度焼き上がったら,まな板にのせ,箸で食べられるように包丁で切り分けます。

(豚ロース肉(加熱・切り分け))
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 切り分けたら,再びフライパンに戻し,すりおろした生姜とたれを加えて中火で加熱します。

 豚肉1つ1つにたれを絡めるように,時々豚肉をひっくり返しながら,徐々にたれの汁気を飛ばしていきます。

 汁気がなくなっても,もう少し粘ってみてください。
 するとメイラード反応(褐変反応)により,肉がつやのある褐色(アメ色)に変化し,香ばしさと旨味を生み出してくれるのです。

 「汁気がなくなってから,あと20~30秒粘って焼く」これが私が生姜焼きを作る時の秘訣です。

(生姜たっぷり豚生姜焼き)
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 出来上がりました。

 リンゴを甘く煮詰めたような,甘くてやわらかい生姜になっていました。

 この生姜焼きは,通年販売されている生姜(ひね生姜)でも美味しくいただけますので,ぜひお試しください。


新・生姜焼き

 最後に,新生姜の「新・生姜焼き」を御紹介します。

 生姜焼き用の豚肉と生姜を使うところまでは定番の生姜焼きと一緒なのですが,「新・生姜焼き」は千切りにした新生姜を豚肉でクルクル巻いて焼くところが新しい発想の料理です。

 生姜焼き用の豚肩ロース肉,新生姜,生姜焼きのたれを用意します。

 新生姜はマッチ状に細長い千切りにしておきます。

 生姜焼きのたれは,酒・みりん・醤油を同量ずつ(同じ比率で)合わせたものです。

 豚肩ロース肉を広げ,その端に千切り生姜をのせます。

(豚肩ロース肉と千切り生姜)
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 次に,豚肉で千切り生姜をクルクル巻き,形が崩れないよう爪楊枝でとめます。

(千切り生姜の肉巻き(加熱前))
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 フライパンに油をひいて熱し,この千切り生姜の肉巻きを並べて加熱します。

(フライパンで加熱する様子)
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 時々ひっくり返しながら肉巻きを加熱し,ある程度焼けたら,フライパンに生姜焼きのたれを加えます。

 あとは汁気がなくなり,肉に香ばしさと照りが出るまでこまめに肉巻きをひっくり返しながら焼けば完成です。

 先に御紹介した生姜焼きと同様,最後にあと一息粘って焼き,メイラード反応を起こすのが美味しくなるコツです。

(新・生姜焼き)
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 こちらが「新・生姜焼き」です。

 中心までじんわりと火が通り,新生姜もやわらかくなっていました。

 甘辛い豚肉だけでなく,新生姜の香りとみずみずしさも味わえる生姜焼きに仕上がりました。

 この「新・生姜焼き」は,香りや味がマイルドで,繊維質も少ない新生姜ならではの料理です。

 美味しいので,新生姜を入手されたら,ぜひお試しください。


まとめ

 新生姜はこれまでも野菜売場で見かけることはあったものの,扱いが難しそうなので,ひね生姜しか買ったことがありませんでした。

 今回,新生姜をお取り寄せし,いろんな料理で味わってみることで,新生姜の美味しさに目覚めました。

 オンラインで,私は菊地康智さんに次の質問をさせていただきました。

 「東北の地にあって,生姜をそのまま出荷するだけでなく,生姜パウダーなど加工品販売にもチャレンジされているようですが,これからチャレンジしてみたいことはおありですか」

 すると菊地さんから,
 「生姜には保温効果があり,漢方で有効な成分も多く含まれているので,生姜を使った化粧品にもチャレンジしてみたいと思っております」
 と,輝いた顔でお答えいただきました。

 漢字で「女性が美しく生きる」と書いて「生姜」なのだそうです。

 「なるほど!」
 
 私は思わず両手でガッツポーズをし,ウェブカメラ越しに喜びをお伝えしました。

 新生姜の出荷時期には,産直通販サイト「ポケットマルシェ」で菊地康智さんの新生姜を購入することが出来ますので,興味を持たれた方はどうぞ。


<関連リンク>
 「波自加彌神社」(石川県金沢市花園八幡町ハ165)
 「ポケットマルシェ」(産直通販サイト)

<参考文献>
 「東北食べる通信」(2020年10月号「生姜」・NPO法人 東北開墾)

2021年9月19日 (日)

福島県桑折町「献上桃の郷」の川中島白桃 -桃の特徴・美味しい桃の選び方・グローバルギャップ-

「フルーツ王国」・「くだもの王国」福島県

 福島県はりんご,桃,梨,ぶどうなど果物の栽培が盛んな県で,「フルーツ王国」・「くだもの王国」と呼ばれています。

 JR東日本の磐越西線・東北本線では「フルーティアふくしま」という観光列車が運行されており,フルーツをふんだんに使ったオリジナルスイーツを味わうことが出来ます。

 今回はそんな「フルーツ王国」・「くだもの王国」福島県の桃に注目してみたいと思います。


福島の桃

 江戸時代まで,桃は主に花を愛でる観賞用として栽培されていました。

 福島で現在のような食用の桃の栽培が始まったのは,明治24年頃のことです。

 阿武隈川流域(現在の桑折町や伊達市など)に中国・河北系や欧米系品種の桃が導入され,栽培されたのが始まりと言われています。

 現在では,福島県の桃は山梨県に次いで全国第2位の生産量を誇り,福島県の代表的な果物の1つとなっています。


「献上桃の郷」福島県桑折町

 今回,私は「献上桃の郷」として知られる福島県桑折町(こおりまち)の桃をお取り寄せしました。

 「献上桃」とは,皇室や宮家へ献上される桃のことで,「献上桃の郷」は,それだけ立派で美味しい桃が生産・出荷されているふるさとの地という意味です。

 この桑折町の農家さんから送っていただいた魅力的な桃と,その農家さんから教えていただいた桃にまつわるお話などを御紹介したいと思います。


福島県桑折町「はねだ桃園」の桃をお取り寄せ

 2021年8月下旬に,福島県桑折町「はねだ桃園」の桃をお取り寄せしました。

 その約1か月前にネットで注文したのですが,その時点では「その時期にもっともおいしい(桃の)品種をお届けするため,品種の指定はできません」とのお話だったので,どんな品種の桃が届くのかワクワクしながら到着日を待ちました。

 そして,待ちに待った福島の桃が自宅に届きました。

 福島から遠い道のりを経て広島まで届いたかと思うと,とても感慨深いものがあります。

 箱を開けてみました。

(川中島白桃(箱詰め))
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 大きな「川中島白桃」が4個,箱詰めされていました。

 普段お店で見かける桃に比べて,一回り大きな印象を受けました。

(川中島白桃(拡大))
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 手に取ると,ずっしりと重みを感じました。そして,桃の甘い良い香りがしました。

(川中島白桃(サイズ))
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 川中島白桃のサイズ(直径)は約11cmありました。

 「はねだ桃園」の羽根田幸将さんからのメッセージカードも添えられていました。

 そのメッセージには,次のとおり書かれていました。

 こんにちは。はねだ桃園です。
 本日収穫したばかりの『川中島白桃』をお届けしました。
 川中島白桃は晩成の桃を代表する品種です。
 肉質がしっかりしていて,もっちりとした食感と強い甘みが特徴の品種です。
 暑い日が続きますが,旬の桃を食べて健やかな日をお過ごしください。
 直射日光を避け,風通しの良い涼しい場所で保管してください。
 やや硬いと感じたら数日間追熟してください。
 はねだ桃園 羽根田幸将

 深い愛情を込めて育てられた桃なのだろうなと思いながら,読ませていただきました。

 メッセージカードの裏には,羽根田幸将さんの描かれた絵がありました。

(羽根田幸将さんの絵「黄金桃」)
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 羽根田幸将さんは絵画がお得意で,美術を学ばれた御経験もあります。

 羽根田さんのお人柄そのもののような,やさしさや穏やかさが感じられる絵です。


最高の桃を最高の食べ方でいただく

 川中島白桃をじっくり眺めてみると,表面に細かな産毛がたくさん生えていることがわかりました。

(川中島白桃)
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 桃を氷水で冷やし,皮付きで食べるのが最高の食べ方なのだとか。

 桃を冷蔵庫でなく氷水で冷やす方法は,私が通うフランス料理店のシェフからも教わったことがあります。

 桃は冷やしすぎるとその甘みを感じにくくなってしまうからです。

 また,桃は皮と身の間に甘みや栄養素が最も多く含まれているため,皮付きのまま食べても美味しいようです。

 ならば最高の桃を最高の食べ方で食べてみようと,まずは桃を氷水で約15分間冷やしました。

(桃を氷水で冷やす様子)
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 桃を冷水に入れると,水面にたくさんの産毛(うぶげ)が浮きました。

 そこで,水の中で桃の表面をやさしくこすり,産毛を取り除きました。

(桃の産毛を取り除いた様子)
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 産毛を取り除くと,桃の皮が鮮やかな赤色に変化しました。

 この桃に,包丁で種にそってぐるりと切れ目を入れ,アボカドの種を取るように種から果肉を取り外しました。

(川中島白桃(四等分))
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 完熟の桃は種の周りの赤い部分も甘いため,カットは最小限にし,皮付きと皮なしの両方を味わいました。

(川中島白桃(皮付き・皮なし))
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 まずは皮付きからいただきました。

 桃の甘く魅惑的な果汁が口の中でほとばしり,一瞬にして幸せな気持ちになりました。

 皮も全く渋みがなく,桃の香りが一層引き立っていました。

 続いて皮なしをいただきました。

 皮を取り除くと,桃の果実の食感だけになり,贅沢感が増しました。

 結果的に私は「皮なし」が好みでしたが,皮付きの食べ方をおすすめできるとは,栽培に自信を持っておられ,安全な桃であることの証明だと思いました。


桃について理解を深める

 福島県桑折町「はねだ桃園」の羽根田 幸将さんと南 和希さんのお話をウェブで伺うことが出来ました。

 農園見学あり,桃にまつわるクイズありの楽しいひとときで,桃について色々と学べる機会となりました。

 今回,桃について学んだことなどを御紹介したいと思います。

【1本の木からできる桃の数】
 桃の木1本から約500個の桃ができる。

【桃栗三年柿八年】
 桃は果実がなるまで約3年かかり,4年目ぐらいから出荷できるようになる。その後10年から15年が結実のピークで,20年程度で寿命(桃の生産量減少)となる。

【桃がお尻の形をしている理由】
 桃はもともと左右に角が生えたような形をした果実だった。その後の品種改良によって徐々に現在の丸い形となった。

【美味しい桃の選び方】
 「色」…桃の軸があった方(日が当たってない方)の色(地色)がクリーム色のものがよい。
 「果点(かてん)」…太陽にしっかり当たった桃は,表面に白いそばかす(果点)ができる。これが多い桃は甘い。
 「大きさ・形」…縫合線(割れ目)から左右対称の桃を選ぶ。横幅が広がり過ぎている桃は,中の種が割れて渋くなっている可能性大。
 「触感」…表面がスベスベしている桃が食べ頃。(※鳥などに食べてもらいやすいよう,熟すと表面がスベスベになる。)

【収穫時期の違いによる特徴】
 「早生(わせ)」(早い時期に収穫する品種)の桃はジューシーで肉厚,「晩生(おくて)」(遅い時期に収穫する品種)の桃は甘くて大きい。

【摘果(桃の間引き)】
 桃が多くなりすぎると木に負担がかかるため,「摘果(てきか)」が行われる。
 摘果した桃は,そのまま土に戻し,肥料とされる。

【地面からも太陽光】
 桃の木の地面に反射シートを敷き,下からも桃に太陽光を当てている。

【商品となる桃は1%の超エリート】
 桃の元になる100個の花芽(はなめ)から,選別作業が繰り返され,最後に商品になる桃はたった1個。

【日本の桃の生産量トップ3】
 1位:山梨県,2位:福島県,3位:長野県 (この3県で生産量の約6割を占める)

 最後の日本の桃の生産量トップ3については,中国地方(広島県)に住む私にとって「桃は岡山県」というイメージが強いので,少し意外に感じました。

 ちなみに,広島県内でも,三原市大和町の「阿部農園」(阿部白桃・阿部水蜜)や「部谷(ひや)桃園」など,オンリーワンの桃や美味しい桃が生産されています。

 何か1つでも参考になれば,そして桃に興味を持っていただけるきっかけとなれば幸いです。


まとめ

 「はねだ桃園」さんの美味しい桃を堪能し,桃のことをたくさん学べました。

 東日本大震災・福島第一原発の影響を受けた「フクシマ産」という風評被害からの克服,日本初となる桃農家の「グローバルギャップ(GLOBAL G.A.P)」の導入・販路拡大など,困難に立ち向かいながらも常に前向きに取り組まれている姿が印象的でした。
 ※農家が食品の安全性や環境保全,労働安全などに配慮して営農していることを認める国際的な認証制度。(G:GOOD(良質な),A:AGRICULTURAL(農業の),P:PRACTICES(実践・行い))

 そして,羽根田さんの「『誠実』って,言ったことを成して実らせるという意味だと思います」という言葉に,お人柄や「はねだ桃園」の桃のすべてが表されているように思いました。

 最後に私は,羽根田さんと南さんへウェブカメラから,「美味しい桃でした。桃を皮ごといただいたのは生まれて初めての経験でした(笑)」とお伝えしました。

 捨てるはずの種さえも愛おしく感じた福島県桑折町の桃。

 愛情をたっぷり込めて育てられた桃をぜひ御賞味ください。


<関連サイト>
 「はねだ桃園」(桑折町大字谷地字石近28-3)
 「献上桃の郷・桑折町」(福島県桑折町)
 「ふくしま。GAPチャレンジ」(福島県農林水産部環境保全農業課)
 「フルーティアふくしま」(のってたのしい列車・JR東日本)
 「阿部農園」(広島県三原市大和町大草20911-18)
 「部谷桃園」(広島県三原市大和町上徳良84)

<参考文献>
 「東北食べる通信」(2018年7月号「白桃」・NPO法人 東北開墾)

2021年8月14日 (土)

尾道の夏のお菓子「ふなやき」 -「ふなやき」の由来と「麩の焼き」について-

 今回は広島県尾道市で「ふなやき」と呼ばれている夏のお菓子を御紹介するとともに,「ふなやき」の由来についても考えてみたいと思います。


尾道の「ふなやき」


 尾道の「ふなやき」は,小麦粉と砂糖を水でこねて,その生地を熱した鉄板の上にのばしてクレープ状に焼き,あんこを包んだ素朴なお菓子です。

 数百年の歴史を持つ伝統的なお菓子で,かの菅原道真公が京都から九州へ行かれる途中に尾道へ寄られた際,「ふなやき」が献上されたというお話もあるほどです。

 尾道では,「ふなやき」を旧暦の6月1日に食べると夏病みしないとの言い伝えがあり,毎年夏になるとこの「ふなやき」が地元のお菓子屋さんの店頭に並びます。

(「ふなやき」(中屋本舗))
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 地元・尾道(出身)以外の人で,「ふなやき」が尾道の夏の代表的なお菓子だと知っている方は少ないと思います。

 広島県呉市の「いが餅」と同様,地元の人々に愛され続けているお菓子と言えます。


「ふなやき」の由来と「麩の焼き」について

 「ふなやき」は尾道のほかにも,九州・沖縄地方や関西地方など,全国で食べられているお菓子です。

 「ふなやき」という名称の由来としては,「生地を折った形が船に似ていたから」とか,「生地を焼いた鍋の底が船の形に似ていたから」とか,「漁師が空腹を満たすため船で焼いたから」といった「船」にまつわる話が多い一方で,「茶の湯」のお菓子「麩の焼き(ふのやき)」に由来するという話もあります。

 「船」が多く登場するあたりは,港町・尾道ならではという感じです。

(尾道駅前の様子)
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 一方で,私が尾道の「ふなやき」を初めて見た時,とっさに思い浮かんだのは「麩の焼き」でした。

 「麩の焼き」は,鎌倉時代末期以降,禅僧によって中国から日本にもたらされた「点心」(間食・おやつ)の1つです。

 小麦粉を水で溶いて生地を作り,焼いた鍋の上に薄くのばして生地を焼き,味噌を塗ってクルクル巻いたお菓子で,かの千利休もお気に入りだったようです。

 また「麩の焼き」のうち,生地に餡を入れて巻いたものは「助惣焼き(すけそうやき)」とも呼ばれていました。

 明治時代の長崎を舞台にした漫画「ニュクスの角灯(ランタン)」(第2巻)でも,主人公達が「助惣焼き」を食べるシーンがあります。

 そのシーンで「助惣焼き」は,「寛永年間(江戸時代)に流行った白味噌と胡桃(くるみ)の餡で作った」と紹介されているのですが,このセリフのとおり「助惣焼き」は特に江戸時代に流行ったようです。

 尾道の「ふなやき」については,前出の「麩の焼き」が港町・尾道に関わりの深い「船」のイメージとも重なって次第に「ふなやき」と呼ばれるようになり,現在に引き継がれているのではないかと考えます。

 ちなみに「麩の焼き」は,その後,食の「組み換え」により「お好み焼き」や「もんじゃ焼き(「文字焼き」から変化した名称)」に発展したとする説もあります。

 もしその説が正しくて,尾道で「お好み焼き」と「ふなやき」を食べたとしたら,尾道ならではの,しかもルーツが同じ食べ物を食べたことになります。


尾道の「ふなやき」を味わう

 「ふなやき」について理解を深めたところで,実際の尾道の「ふなやき」を御紹介します。

 今回は,「御菓子司 中屋」の「ふなやき」をいただきました。

(「ふなやき」)
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 丸くて薄い小麦粉の生地(皮)であんこを巻いたお菓子です。

 京都の「あん入り生八つ橋」のようにも見えます。

 半分に切ってみました。

(「ふなやき(中身)」)
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 中のあんこは,生地にぎっしり詰められているのではなく,丸い団子の形で中心部に包まれています。

 いただきました。

 皮(小麦粉の生地)は適当な厚みがあって弾力があり,ほんわずかに塩味もついていました。

 一方,あんこは小豆で作られた上品な甘さの「こしあん」でした。

 一緒にいただくと,皮のほんのりとした塩味があんこの甘さを見事に引き立て,素朴で純粋な味わい・食感を楽しむことができました。

 毎年夏には尾道へ行って味わいたいと思うほど,魅力的なお菓子でした。


まとめ

 「ふなやき」は比較的簡単に作れて,しかも美味しいことから,全国に広がり,現代に受け継がれているのでしょう。

 こうした全国で人気のある食べ物ほど,地域によって名称が異なったり,様々なバリエーションが生まれてくるものです。

 「ふなやき」の写真を御覧になって,特に関東にお住まいの方は「桜餅に似ている」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 私も「ふなやき」をいただいて,その見た目や使われている食材,食感などから,関東風の桜餅(長命寺桜餅)にとてもよく似ていると思いました。
 (最近では西日本でも関東風の桜餅を見かけるようになりました。)

 関東風の桜餅は,本当に「麩の焼き」や「助惣焼き」のアイデアをもとに作られたお菓子なのかも知れません。

 私はさらに,東京・月島で「もんじゃ焼き」をいただいた後にデザートとしていただいた「あんこ巻き」にも似ていると思いました。

 そしてさらに,広島で「お好み焼き」を作る際,水に溶いた小麦粉を鉄板に薄くのばして作られるお好み焼きの生地にもそっくりだと思いました。

 となると,「麩の焼き」に始まる「助惣焼き」も「ふなやき」も「桜餅」も「もんじゃ焼き」も「お好み焼き」も,すべて同じ発想・ルーツで,様々な応用・変化が加えられて生まれたものではないかと思えるのです。

 同じ発想・ルーツと思われるものが,時代を経て各地方・地域でどう変化しているか,こうした視点から各地で食のフィールドワークをしてみるのも楽しいと思います。


<関連サイト>
 「御菓子司 中屋」(広島県尾道市高須町東新涯4835-3)
 菓子資料室 虎屋文庫「千利休とふの焼」(「歴史上の人物と和菓子」株式会社「虎屋」)
 「亀屋清永」(京都市東山区祇園石段下南)(「麩のやき」せんべいが販売されています)
 「小麦粉から作る広島お好み焼き」(オタフクソース株式会社)

<関連記事>
 「関東の和菓子と関西の和菓子 -和菓子の比較検証-

<参考文献>
 宮崎正勝「知っておきたい「食」の日本史」角川ソフィア文庫
 シャオヘイ「熱狂のお好み焼 ~お好み焼ラバーのための新教科書~」ザメディアジョン
 高浜寛「ニュクスの角灯 2」リイド社

2021年1月 3日 (日)

新年の和菓子・花びら餅 -菱葩(ひしはなびら)・包み雑煮と花びら餅-

 新年の和菓子「花びら餅」。

 和菓子店などで年末から年始にかけて販売される季節菓子です。

 私はこの花びら餅が販売されているのを見かけるたびに,「なぜ花びら餅が新年のお菓子なのか」,「なぜお菓子にごぼうが使われるのか」,「なぜ花びら餅は高価なのか」といった疑問がありました。

 そこで今回の記事では,この花びら餅についてまとめ,疑問の解決を試みたいと思います。


餅と宮中行事「歯固めの儀」

 餅は,稲作を中心とする日本では,神に供え,神と人・人と人との和を保つ神聖な食べ物とされました。

 花びら餅は,歴史をさかのぼると,新年に行われた「歯固めの儀」と呼ばれる宮中行事に由来します。

 「歯固めの儀」は,餅,鮎(干し鮎・押し鮎(塩漬け鮎)),大根など硬いものを食べて歯の根を固め,齢(よわい)を固める,ひいては長寿を願うという行事でした。

 そのため,鏡餅のお飾りには,ゆずりは・鮎・大根・橘(たちばな)などが飾られました。

 この「歯固めの儀」で用いられた餅や鮎が,次に御紹介する「菱葩(ひしはなびら)」の食材につながることとなります。


菱葩(ひしはなびら)・包み雑煮と汁雑煮

 宮中で行われた新年の祝賀の際,天皇が参内した公家に持たせたのが「菱葩(ひしはなびら)」と呼ばれる餅です。

 菱葩は,紅白二枚重ねで二つ折りにした餅の中に干し鮎を挟んだもので,外側の白い丸餅は男性を,内側の小豆で染めた赤い菱形の餅は女性を表し,子孫繁栄の願いが込められていました。

 この菱葩を持ち帰った公家は,中の菱形の小豆餅だけを食べたようです。

 外側の白い丸餅は,内側の小豆餅を冷気に当てないための保温材として使われ,餅で餅を包むことにより,柔らかいままの小豆餅を食べることができたのです。

 そのため,菱葩は「包み雑煮」とも呼ばれました。

 一方で外側の硬くなった丸餅は,正月に本家にあいさつにあがる分家や御用人にお裾分けされたのですが,そのまま食べるには硬いため,総菜などと一緒に煮て食べられるようになりました。

 こうして「汁雑煮」の文化が生まれたのです。


菱葩・包み雑煮から花びら餅へ

 菱葩・包み雑煮は,やがて和菓子の世界で受け継がれることとなりました。

 餅は冷めるとすぐ硬くなるため,餅の代わりに「求肥(ぎゅうひ)」や「外郎(ういろう)」が用いられるようになります。
 「求肥」…もち米粉に砂糖や水を足しながら練り上げ,時間が経っても硬くならないよう仕上げたもの
 「外郎」…(もち)米粉に砂糖や水を足しながら練り上げ,蒸し固めたもの

 こうして,内側の赤い餅だけでなく,外側の白い餅もやわらかく美味しく食べることができるようになりました。

 また,餅に挟まれた干し鮎・押し鮎については,雑煮の具としても用いられたごぼうが代用されるようになりました。

 ごぼうはしっかり根を張ることから,「歯固めの儀」と同様,長寿を願うという意味も込められています。

 そして京都の白味噌仕立ての雑煮に由来した白味噌あんも用いられるようになりました。

 この菱葩に見立てたお菓子は,明治以降,茶道・裏千家の初釜で使われるようになり,現在へと受け継がれています。

 これが現在の「花びら餅」なのです。

 花びら餅は,京都の雑煮をお菓子に変化させたものと説明することもできるでしょう。


新年に花びら餅を味わう

 お正月に花びら餅をいただきました。

 広島の和菓子店の花びら餅を2つ御紹介したいと思います。

 1つめは,「御菓子所 平安堂梅坪」の花びら餅です。

(花びら餅(御菓子所 平安堂梅坪))
Photo_20210102221701

 半月型の餅菓子で,中の赤い菱形の餅が外の白い餅から透けて見えます。

 横一本の蜜漬けごぼうも良い香りがしました。

(花びら餅(中身)(御菓子所 平安堂梅坪))
Photo_20210102222101

 中には蜜漬けごぼう,鮮やかな朱色の餅,味噌入り白あんが入っています。

 やわらかい白餅と少し弾力のある赤餅,甘じょっぱい味噌入り白あん,ごぼうの香りと歯ごたえが,それぞれ絶妙に調和し,上品で雅なお菓子に仕上げられていました。


 続いて「御菓子所 高木」の花びら餅です。

(花びら餅(御菓子所 高木))
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 搗きたてのようなやわらかい餅生地で,鮮やかな白色です。

 蜜漬けごぼうは半透明で,いただく前からごぼうの良い香りがしました。

(花びら餅(中身)(御菓子所 高木))
Photo_20210102222501

 白餅が赤餅を包み込み,赤餅が味噌あんを包み込んでいます。

 白味噌と白ゴマを用いた白味噌あんに特長があり,ごぼう・白味噌・白ゴマの持つ香りと美味しさを存分に楽しむことができました。


まとめ

 今回花びら餅についてまとめ,実際に味わったことで,冒頭の疑問がある程度解明できました。

 最初から甘いお菓子だったのだろうとの誤解から,お菓子にごぼうが使われることに違和感を感じたわけで,雑煮がお菓子に変化したことを理解していれば,ごぼうが入っていることに違和感はありません。

 また,花びら餅は他のお菓子に比べて少し値段が張ることも,それだけ手間暇かかるお菓子で,お茶席で供される「練り切り」などのお茶菓子と同格なのだと理解すれば納得できます。

 いずれにせよ,実際に買って食べてみれば,花びら餅の魅力や価値が一発でわかります。

 花びら餅はやはり,新年・お正月にふさわしい和菓子だと言えるのです。


<関連サイト>
 「御菓子所 平安堂梅坪」(本通店・広島市中区本通8-18 ほか)
 「御菓子所 高木」(十日市本店・広島市中区十日市町一丁目4-26 ほか)

<参考文献・メディア>
 松本栄文 監修「もちから知る日本人の米文化」(「Discover Japan」2020年5月号)
 岡田哲「食の文化を知る事典」東京堂出版
 あんこ事典監修 芝崎本実「あんこのことがすべてわかる本」誠文堂新光社
 NHK「にっぽん雑煮ジャーニー!」(Eテレ・2021年1月2日放送)

2020年9月 1日 (火)

希少な高級ぶどう・藤稔(ふじみのり)の魅力 -お店であまり販売されていない理由-

「ふじみのり」とは

 2020年8月に広島県福山市のフランス料理店を訪問しました。

 そのお店でデザートをいただいている時,シェフから「もう少ししたらデザートにぶどうを出そうと思います。『ふじみのり』という品種なのですが,大きくてすごく甘いんですよ。ただ房落ちが多いので,一般のお店で販売されることはほとんどないんです」という情報をいただきました。

 私は「へぇ,そんなに魅力的なぶどうがあるんですか。でも入手困難なぶどうのようですね」とお話しし,品種をメモして帰りました。

 後日,検索エンジンに「ふじみのり」と入力し,いくつかのウェブサイトを見てみると,神奈川県藤沢市の農園で開発された品種で,「藤稔」と表記されるぶどうでした。

 「世界最大級の黒ぶどう」とも呼ばれ,収穫時期が8月中旬から9月中旬にかけての限られた期間しか収穫できない品種でもあるようです。

 「食材にこだわるシェフが魅力的・美味しいとおっしゃるぐらいだから,一度味わってみたいな」と思いました。


ぶどうの産地・広島県竹原市で藤稔を発見

 その後,ドライブで広島県竹原市の「道の駅たけはら」へ行くことがありました。

 施設内の物産直販コーナーで,何気なく産直野菜や果物を見て回っていると…何とお店にはめったに出回らないと言われる「藤稔」が1房だけ売られていたのです。

(「藤稔」店頭販売の様子)
Photo_20200831191501

 「これがあの藤稔か!」と思わず興奮しました。

 竹原市はぶどうの栽培が盛んな地域なので,藤稔以外にも様々な品種のぶどうが販売されていました。

(ぶどう品種一覧)
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 果物売場に掲示されていた「ぶどう品種一覧」です。

 「藤稔」は「種 なし」,「皮の食べ易さ ×」と記載されていました。

 貴重な「藤稔」1房を購入しました。

 再び車を走らせていて,竹原市の古い地図に「葡萄」と記載された地区があったことを思い出しました。

 その記憶を頼りに,車で竹原市の南部,竹原町方面へ行ってみました。

(竹原のぶどう畑)
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 予想どおり,一面にぶどう畑が広がっていました。はるか遠くに三井金属竹原精錬所の煙突も見えます。

 ぶどう畑沿いに車を走らせていると,ぶどう畑に併設されたぶどうの直販所も多く見かけました。

 藤稔への期待を膨らませつつ,広島市内の自宅へ戻りました。


藤稔の特徴・お店であまり販売されてない理由

 いよいよ藤稔との御対面です。

(藤稔)
Photo_20200831192301

 かなり大粒な黒色のぶどうです。

 ずっしりとした重みもあります。

 これらは藤稔の大きなメリットなのですが,その反面,一般的なぶどうに比べてどうしても房落ちする確率が高くなってしまいます。

 また,その重みで底の部分の実が押しつぶされる現象もみられます。

 せっかくきれいに陳列していても,粒が次々と房落ちしたり,実が押しつぶされてしまうと,商品としての見栄えが悪くなるため,お店ではあまり販売されないのです。


藤稔の味と魅力について

 房落ちが多く,実もつぶれやすい藤稔ですが,それに勝る魅力があるのでしょうか。

 藤稔をいただいてみました。

(藤稔の果肉・果皮)
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 果皮は容易にむけるので,果皮を1粒ずつ手でむいて食べたり,口の中で果皮と果肉に分けて食べることもできます。

 果皮をむくと,はち切れんばかりに果汁が溢れ出てきました。

 その果肉を口に運ぶと…これが驚くほど甘かったのです。

 私が今まで食べたぶどうの中で最高ランクの甘いぶどうでした。

 とてもジューシーで甘いので,シェフがおっしゃったように,これだけで立派なデザートになります。

 まるでぶどうのゼリーをいただいているかのようでした。

 この美味しさは大きな魅力です。

 この日以降,藤稔が店頭に並んでいないか見て回りましたが,デパートの果物売場で1箱見かけた程度で,やはり旬の時期であってもあまり出回ってないようです。

 もしお店で「藤稔(ふじみのり)」というぶどうを見かけたらラッキーですよ。


<関連サイト>
 「道の駅たけはら」(広島県竹原市本町1-1-1)

<関連記事>
 「岡山が誇る果物 -清水白桃とマスカット・オブ・アレキサンドリア-

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