日本の学校給食史と山形県鶴岡市「学校給食発祥の地(大督寺)」訪問 -つや姫おにぎり・山形つや姫玄米茶-
日本の学校給食史
日本の給食の始まりについては諸説あります。
近世においては、1806年7月22日に、会津の藩校「日新館(にっしんかん)」で15歳以上の書生に昼食を提供したとの記録があり、これを日本給食史の発祥とする説があります。
また、安政年間に、松下村塾で塾生に食事が出されていたという記録もあります。
明治に入ってからは、1886年、小学校令が公布され(文部大臣:森有礼)、就学者を貧困層にも拡大する動きが高まりました。
その直後の1889年10月、山形県西田川郡鶴岡町(現在の鶴岡市)の「大督寺(だいとくじ)」境内に、常念寺住職・佐藤霊山(さとうれいざん)を中心とする仏教各宗派連合の僧侶たちによって「私立忠愛小学校(ちゅうあいしょうがっこう)」が設立されました。
大督寺周辺の貧困児童を収容して教育するために設立された学校で、運営資金は僧侶たちの托鉢によって得られたお金で賄われました。
この小学校では、設立と同時に給食も無償で提供されました。
通説では、この私立忠愛小学校の給食が「日本の学校給食の発祥」とされています。
ちなみに、設立当初の給食の献立は、握り飯2つ、野菜(煮浸し・煮物)、魚(塩鮭などの塩干物)だったようです。
この話を知り、私もいつか私立忠愛小学校のあった学校給食発祥の地・大督寺を訪問したいと思うようになりました。
そして、できれば現地で握り飯を調達し、当時の学校給食の雰囲気を共有したいとも思いました。
今回、鶴岡市訪問が実現できたので、学校給食発祥の地・大督寺へも伺えるようスケジュールを組みました。
「どうすれば現地(学校給食発祥の地・大督寺)で握り飯を調達することができるか」
お店のテイクアウトの利用など色々と考えた結果、1つ実現できそうなアイデアが思い浮かびました。
土鍋で炊いた「つや姫ごはん」で「握り飯」を作る
鶴岡駅から歩いて、鶴岡市日出一丁目の「ふろむ亭」を訪問しました。
(ふろむ亭店舗)
こちらのお店で、「つや姫」を土鍋で炊いたごはんと、鶴岡の伝統的な御馳走が味わえる「ふるさと定食」をいただきました。
(ふるさと定食)
こちらが「ふるさと定食」の料理(おかず)です。
高級料理ではなく、昔から地元・鶴岡で「日常の食事」として食べられてきた料理ばかりです。
続いて御用意いただいたのが、土鍋で炊いた「つや姫ごはん」です。
(土鍋で炊いた「つや姫ごはん」)
土鍋でごはんが炊かれるため、「つや姫ごはん」は炊き上がりに約20分かかりますが、待つ価値がある美味しさです。
この「ふるさと定食」で提供されている「つや姫ごはん」には、店主さんから次のようなメッセージがあります。
「オーダーを受けてから炊き上げたつや姫を昔ながらの懐かしいごっつぉでお召し上がりください」
「なお、食べきれなかった時は、塩結びにしてお持ち帰り下さい」
「食べきれない時は声をかけてください(ラップとお塩をお持ちします)」
「ふるさと定食」には、たくさんの美味しい「ごっつぉ」が用意されているので、土鍋のごはんも完食できたのですが、あえてごはんを半分ほど残し、おにぎりを作ることにしました。
「握り飯」として学校給食発祥の地・大督寺へ持って行くためです。
店主さんに「つや姫ごはん」をおにぎりにして持ち帰りたい旨をお伝えしたところ、ラップと塩(個包装)を用意していただきました。
(「つや姫ごはん」とラップ・塩)
「なるほど、ラップの上からごはんを握ることで、手を洗わなくてもおにぎりが作れるのか!」
(「つや姫ごはん」をラップの上に広げた様子)
ごはんをしゃもじで土鍋からラップの上に移し、ごはんに塩をふりかけました。
そしてラップで包み込むようにごはんを握れば、「握り飯」の完成です。
(握り飯(つや姫おにぎり))
大きくて丸い、発祥当時に提供された形と思われる握り飯ができました。
テイクアウトで、小豆ともち米を一緒に甘く炊いた鶴岡の甘味「いとこ煮」を購入しました。
(「いとこ煮」と握り飯(つや姫おにぎり))
店主さんに、「このおにぎりを持って給食発祥の地・大督寺へ行ってきます」とお話しすると、私の意図を理解してくださり、いろんな鶴岡の食文化の話をしてくださいました。
そして、「鶴岡は昔からお米の一大産地で、米沢(山形県内陸部)が飢饉の時も、鶴岡では白い米を食べていた」、「鶴岡では(昔から白米が好まれ)玄米を食べる文化すらない」ことも教えていただきました。
いつまでもお話を伺いたかったのですが、大督寺の訪問時間も確保する必要があったため、お店を出発することにしました。
すると店主さんが「大督寺へは、お店を出てすぐの山形県道47号を西へ向かえば着きますよ」と教えてくださいました。
私は店主さんにお礼申し上げ、握り飯といとこ煮をビニール袋に詰め、歩いて大督寺へ向かいました。
大督寺と「学校給食発祥の地」
当日(2025年3月7日)の鶴岡市内は、日が照ったり、雪が降ったりと、不安定な天気でした。
私が大督寺へ向かった時は、かなり雪が降り、風も強くて、傘を差して歩くのも大変でした。
「♪雪の降るまちをー 雪の降るまちをー」とエンドレスで口ずさみながら頑張って歩きました。
(この部分しか歌えないのですが…(笑))
実はこの「雪の降るまちを」は、鶴岡で誕生した歌です。
途中、通りがかった鶴岡公園には、「雪の降るまちを」メロディー発想の地 記念モニュメントがあります。
雪の降るまちを歩き、ようやく大督寺に着きました。
(大督寺山門)
大督寺は、旧庄内藩主・酒井家の菩提寺(ぼだいじ・先祖代々のお墓があるお寺)です。
(石碑(「学校給食発祥の地」記念碑在所))
山門の近くに「学校給食発祥の地 記念碑在所」と記載された石碑がありました。
その石碑の横には、藤沢周平さんの歴史小説「義民が駆ける」にゆかりのあるお寺であることを紹介した看板もありました。
この小説は、経済的に豊かな(米の石高が多い)庄内藩の藩主が、幕府によって石高の少ない藩へ転封されることとなり、これに反対した庄内藩の領民たちが「義民」として反対運動(国替え運動)を起こすという物語です。
この小説においても、庄内地方が「豊かな米どころ」として紹介されています。
山門から中に入ると、真正面に本堂、左側に「学校給食発祥の地」記念碑がありました。
(大督寺本堂)
この本堂に向かって左側に「学校給食発祥の地」記念碑があります。
(「学校給食発祥の地」記念碑)
中心に、お椀のような台形の造形物があります。
(「学校給食発祥の地」説明碑)
手前には説明碑があり、
・明治22年10月、鶴岡の各宗寺院住職らにより、恵まれぬ家庭の子弟のために弁当を給した
・給食の提供は昭和20年まで継続した
・大督寺境内におろされた給食の種子は、その後全国で開花し、昭和29年6月には学校給食法として見事に結実した
・先賢の慈悲の心と達眼とをしのび、学校給食発祥の地に記念碑を建て、永くその徳を欽慕する
といった内容の文章が刻まれています。
しーん静まり返った境内でぽつんと1人「学校給食発祥の地」記念碑と対峙していると、次第に感動が込み上げてきました。
このタイミングで、持参した握り飯(つや姫おにぎり)を袋から取り出しました。
(「学校給食発祥の地」記念碑と握り飯(つや姫おにぎり))
「130年以上前にも、こどもたちがこの場所で、こんな感じの握り飯を食べていたのだろうか」と思いを馳せながら…
ただ、結局私はこの場所では握り飯を食べませんでした。
お寺の境内・記念碑の前で食事することはマナーに反するような気がして、たとえ食べたとしても、美味しく味わいながら食べることはできないと思ったからです。
「寒すぎて外で食べる気が起こらなかった」というのも事実ですが(笑)
今回の学校給食発祥のお話は、公益財団法人埼玉県学校給食会の動画でわかりやすくまとめられています。
(「学校給食の歴史」埼玉県学校給食会制作)
(埼玉県学校給食会)
つや姫おにぎり・山形つや姫玄米茶
学校給食発祥の地・記念碑などをしばらく見学させていただいた後、「大督寺前」バス停から鶴岡市内循環バスに乗車し、鶴岡駅へ戻りました。
(鶴岡市内循環バス(鶴岡駅前バス停))
12人乗りのワゴン車は、バスというより大型送迎タクシーに乗っている気分でした。
鶴岡駅からは特急「いなほ」に乗車し、秋田駅を目指しました。
その車内で握り飯(つや姫おにぎり)をいただきました。
(握り飯(つや姫おにぎり)と「山形つや姫玄米茶」)
鶴岡で販売されていたお茶「山形つや姫玄米茶」と一緒にいただきました。
握り飯(つや姫おにぎり)は、雪が舞う寒空の中ですっかり冷えてしまいましたが、冷めても米粒にハリ・ツヤ・もちもち感があり、噛みしめるほどに米の持つ甘みを感じました。
冷めてこそ実力を発揮するお米があることを知り、感動しました。
「山形つや姫玄米茶」も、香ばしいお米(つや姫玄米)の香りが楽しめ、つや姫おにぎりとの相性も抜群でした。
まとめ
今回、私が山形県鶴岡市を訪問した目的は、「ユネスコ食文化創造都市」に認定された鶴岡の食文化について調査することと、学校給食発祥の地を訪問することでした。
その鶴岡で、「つや姫」という山形のブランド米と出会い、鶴岡(藤島地域)をはじめとする庄内地方が昔から日本有数の米どころであることを知り、日本の学校給食発祥の地で学校給食の歴史を学ぶことができました。
<関連サイト>
「学校給食の歴史~つるおかの給食~」(鶴岡市)
「学校給食歴史館」(公益財団法人埼玉県学校給食会)
「ふろむ亭」(山形県鶴岡市日出1-4-8)
「山形つや姫玄米茶」(山形食品)
<関連記事>
「パンの研究1 -コッペパンの基礎知識と給食のコッペパン-」
「山形の食文化の特徴3 -「つるおか食文化市場FOODEVER」と鶴岡の食文化(つや姫・昔ながらの郷土料理・いとこ煮)-」
<参考文献>
藤原辰史「給食の歴史」岩波新書
松丸奨「給食の謎 日本の食生活の礎を探る」幻冬舎新書
「つるおかおうち御膳 改訂令和4年版」鶴岡食文化創造都市推進協議会
魚戸おさむ・北原雅紀「玄米せんせいの弁当箱」小学館ビッグコミックス
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